とある駐在所前を通る時に思うこ

 この駐在所前は渓流つりに愛知川上流に行くには必ず通過したところであるが、今は立派なバイパスが完成したので最近は通る事もめつきり少なくなった。 四、五年前まではよく通り対向車が来ないことを願うほど細く曲りくねった道路なので結構緊張したものである。
その道路は中芯部は以外に開けており消防署の隣りに小さな駐在所が今もある。
 私はそこを通る度に車の速度を落としてお巡りさんの姿を目で追い探すが見かけたことは今まで一度も無い。
一目お会いして自分なりに納得したいものです

  この駐在所の存在が気になり始めたのは約十年前の週刊つりニュースに確か「命運」というタイトルで掲載された太田文雄氏の投稿記事を読んだからである。
 その要旨は以下のようであった。
氏が時折アマゴ釣りに行かれる滋賀県の小さな過疎の村の若い駐在さんとある事件きっかけに顔馴染みになり、人柄に惚れ込み付き合う程にこんなに優秀なお巡りさんが何故過疎地に勤務しているのか腑に落ちなかった。
ある日ふとした事から村人からお巡りさんの身の上話を聞いたところそのお巡りさんはいわゆるエリート警察官で県警本部に勤務されていたが、ある夜パトカーに乗務され名神高速道路沿いの県道で不審車両を発見、追跡したが取り逃がしてしまった。
 翌日逃亡車両を発見して調べたところ、その頃世間を騒がしていたグリコ森永事件の現金受け渡し場所に待機していた犯人が乗っていた車と分かり大騒ぎになった 『いわゆる白旗事件』の当事者であったのだ。
 ことは重大時となり、ついに責任問題となって左遷され過疎の村への転勤になったらしいとの事である。
 太田氏は最後にこのように結んでおられた。
『素質や努力もさることながら、その人に定まった運、運命のいたずらがあるのだろうか?』

この文を読まれている人は何だそんなことかと思われるが、私はこの白旗事件には多少なりと関わりがあるのである。
私はこの事件の白旗が掲げられていた場所から約100m程は離れた団地に住んでいる。
事件当日は夜10時頃帰宅したのだが何時も夜は閑静な団地内が何となく騒がしい雰囲気に包まれていた、妻に何か有ったのか?と聞いたところ『30分程前にある住宅に空き巣狙いが入ったのでお巡りさんが聞き込みをしていたのだ』との返事でありフーンと思った程度であった。
その後の妻の一言は厳しかった『あなたも夜遅くまでふらふらしていると疑われるわよ!』 全く返す言葉が出ない・・・ ムム

その事件をすっかり忘れかけた約一ヵ月後の早朝、団地上空に新聞社やテレビ局のヘリコプターが数台飛び交い団地入り口にはニュースのワイドショウのカメラがずらりと並んでいるではないか。
 これは一体何だろうと新聞を見るとあっと驚いた記事が載っているではないか??? 
慌ててテレビをつけると何時も見なれた団地入り口と県道と交差している名神高速道路のフエンスが写りレポーターが興奮気味で県警本部発表の事件内容を報じているではないか。 これは大変と思ったが事件発生日を聞いてあきれ果てた。 何と一ヶ月前の事件であった。
 警察はどうして約一ヶ月も経ってから事件を発表するのだろうかと??? もし事件直後にせめて団地住民だけにも事件の内容を伝えていたならば目撃証言等の正確な情報が得られていて時効、迷宮入りは無かったかもしれないと思われる?

 当時の新聞記事によればグリコ森永事件の犯人たちはこの白旗事件は緻密に計画しており、事件の一週間前には当団地第二入り口にて事前訓練を実施していたとある。 それは奪った身代金を名神高速道路を走る車から白旗地点で投下し、下に待機している仲間がキャツチして車で逃走する訓練であったと書かれている。その記事を目にしたとき私は約40日前のささいな出来事がおぼろげながら思い出したのである。 

当時この団地はまだ完全に入居されていなく、工事車両等が出入りする第2出入り口が名神高速道より20m程の所にあったが勾配が大きい事や舗装されていないこともあり殆どの住民には使用されていなかった。
 私は渓流釣りで荒れた道路を走るのに何の抵抗も無かったのと近道なので常日頃あえてその道を出入りしていたが、ちょうど事件より約10日前のお昼過ぎに所用があり県道に出るために自宅より第2出入り口に差し掛かると白いライトバンが斜めに道を塞ぐように停止しているのが目に入った。 何故こんな坂道に斜めに車を止めて道を塞いでいるのかと腹立たしくなり、クラクションを鳴らしたところベージュ色の作業服を着た二人の男が驚いたようにチラット振り向いたが車を直ぐには移動させない。 しばらく待っているとようやくゆっくりと車を移動してくれ無事通過したことを! これが犯人たちの事前訓練であったとはその時は知る由も無かった。
しかしながら約40日も経過しており今更ながら犯人の人相などは殆ど思い出すことが出来ない、もともと頭が悪いせいでもあるのだが・・・・
その後、とある日私の車をそのライトバンと同様な位置に停車して見たがまさしく名神高速道路の県道と交差するフエンスが目の前に見える絶好の場所であった。 うまい場所を見つけたものだなぁと変な関心をした。

私が渓流つりでよく通るこの集落にある駐在所が太田氏が投稿された駐在所ではないかも知れないが、通り過ぎるたびにこの記憶がまざまざと蘇ってくるから不思議なものです。 
第三話 完       

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