9月 吉野山 10月へ

解説:

 吉野山、金峯山寺(きんぷせんじ)の全景である。
右に蔵王堂、左に二つの塔が望める。
 桜の季節だけで、数十万の人が訪れると言われる吉野山であるが、さす
がに秋口ともなれば観光客は激減する。
ましてや、この日は土砂降りの雨。観光客どころか、対向車すらなく、ス
ムーズにここまで上がって来ることができた。
 風景写真の神髄は、天候の変わり目にある。
『晴れから雨に変わる時(夕立)』 『雨あがり(雲海,虹)』
『霧が晴れる一瞬』 『台風一過』 等々...。
それに朝日,夕日が絡んでくれたら、なにも言うことない。
 この日は、雨あがりが狙いであった。
山間部での雨あがりは、地表から雲が湧き上がり、日が差すにしたがって
消えていくのが一般的。そのほんのわずか、一瞬見せてくれる雲海のよう
な情景が狙いなのだ。
 到着と同時にまずは下見。雨の中、あちこち歩き回り、展望がききそう
なところ、地面がしっかりしているところ、そして撮影に集中出来そうな
ところを探し出す。いわゆるロケハンである。
場所の目星をつけたら、あとはひたすら車中で雨が止むのを待つのみ。
気の遠くなるような話しであるが、この辛抱,我慢が良い結果を生むこと
になる。
  そういつも思い通りにいくものではないが、この日は幸運だった。すぐ
に雨が止み、あっという間に眼下に展望が広がったのだ。突然の出来事に、
大あわてでカメラをセット、無我夢中でシャッターを切った。
思い通りの風景にそれなりの手応えを感じ、意気揚々と引き上げた。
“してやったり”である。
 しかし、結果をみて愕然とした。なんと、撮影した写真全てが、微妙で
はあるが左右方向にブレていたのだ。なんということか...
 原因は、三脚の設置不十分,超望遠レンズの使用,シャッタースピード
の問題等が重なってのことと考えられるが、いずれにしても、あわててい
た私の不注意であった。せっかくのチャンスに巡り会いながら、大きなミ
スをおかしてしまった。
結局、この写真はボツにせざるを得なかった。
 しかし、このまま眠らせておくのはもったいなく、写真集出版の際に思
い切って採用してみることにした。
出来上がりを見てみると、確かにブレが分かるが、かえってそれが油絵的
な雰囲気をかもし出し、実に良い感じに仕上がっていた。
そのためか、掲載した写真の中でも「これが一番良い。」と言ってくれた
人が結構あったようだ。
この微妙なブレが、みなさんにも分かるだろうか?

 余談であるが、今年の5月の連休に、なんとか同じ風景を撮り直せない
ものかと、吉野行きを思い立った。
天気予報で、奈良県地方「雨のち晴れ」であることを確認。夜通し車を飛
ばして奈良に向かった。吉野山に着いたのは明け方の4時くらい。案の定、
山全体が深い霧に覆われ、一寸先も見えない状態であった。しばし車中で
仮眠、夜が明けるのを待った。
やがて、夜明けの時間を迎えたが、いっこうに霧が晴れる気配がない。
さらにそれから1時間経過。やっと蔵王堂の屋根が見え始めた。
しかしながら、今回は雲ではなく霧である。どうにもメリハリがなく、い
ま一つであった。
 撮り直そうと思ってもそう簡単に撮れるものではない。あらためて写真
は“一期一会”であると思った次第である。

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