5月 薬師寺遠望 6月へ

解説:

 東大寺修二会には、毎年通ってくる常連さんたちがいる。
信者さんはもちろんのこと、私のような写真家、報道関係者、声明録音を
目的とした人、俳人、画家、時には芸能人など、様々な人達が集まってく
る。
言ってみればその期間中、二月堂周辺はさながら同窓会的な雰囲気となる。
そこで知り合った友人も何人かいる。
 先日、その中の一人から「5月の下旬に国立劇場で『薬師寺の花会式声
明公演』があるが行かないか?」との誘いがあった。
花会式は別名『修二会薬師悔過法要』と呼ばれ、3月30日〜4月5日の
一週間行われる。薬師寺の修二会は、東大寺の修二会とあい通じるものが
あり、同じ修二会でもどう違うのか一度は見てみたいという思いはあった
が、別の友人から「薬師寺は撮影制限が厳しく、とても撮れるものではな
い。」と聞かされていたことから、ずっと二の足を踏んでいた。
東大寺修二会に関しては、多くの文献が存在しており、写真集も何冊か出
版されている。また、今年に限って言えば『真珠の小箱』,『NHK街道
をゆく』で放映されるなど、広く世間に公開されている。
それに対し、薬師寺の修二会は、図書館で調べても文献らしきものはなく、
写真集なども出ていない。かろうじて数年に一度、雑誌で紹介されるくら
いであろうか。最近では、1997年11月に芸術新潮で特集が組まれて
いたことがあった。その辺の事情を見ても、薬師寺の撮影制限の厳しさを
うかがい知ることができる。
今回の公演は、めったにない良い機会なので、一度見てこようと思ってい
る。
 さて、薬師寺の写真撮影であるが、前述したように、行事は撮りづらい
ものがある。また、境内はきれいに整備され、昔の面影はどこにも無い。
朱と緑鮮やかな真新しい西塔,金堂では、いまひとつ写欲が沸かない。
じゃあ遠景はどうかと寺の周囲を歩いてみるが、民家,電柱,電線がじゃ
までなかなか良いアングルが見つからない。かろうじてこの場所が絵にな
るといったところだろうか。魅力的な寺ではあるが、なかなか写真にはつ
ながらない寺である。
 この撮影ポイント、太陽が塔の真後ろから登るのはちょうど5月の連休
のころである。時期が時期だけに朝早くから多くの人が集まってくる。
この写真を撮影したのは10年くらい前のこと。当時、近くに姉の家があ
ったことから、自転車を借りてよく出かけたものだ。
朝日は夕日と違ってどこに顔を出すかわからない。太陽が顔を出してから
三脚を立てていては間に合わない。あらかじめ「ここに朝日を浮かべたい」
という各人のイメージにしたがって、三脚を立てて待つことになる。
1,2歩左右に寄るだけで大きく違ってくるので、確実にその位置をつか
んでいなければいけない。人によっては、ガードレールの裏側にマジック
でしるしを付け、そこに日付を書き込む人もいるくらいだ。また、どうい
う明るさの太陽が出るのかも見当がつかない。ギンギラギンの時もあるし、
穏やかなオレンジ色の時もある。また雲に隠れて全くダメという時もある。
そういう意味でも朝日の撮影は、夕日と違って意外性があり、おもしろい
ものがある。

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