4月 吉野山の春 5月へ

解説:

 画家の森脇宏氏。長年にわたって『東大寺修二会』をテーマに描き続け
ている奈良在住の画家である。年齢は私と同じくらい。とても画家とは思
えない風貌であるが、実に繊細な絵を書かれる。
 先月、奈良を訪れた際、画伯の個展が開かれていると聞き、出かけてい
った。会場には画伯の姿はなかったが、数多くの作品が並べられ、それは
もうすばらしいものばかりであった。全てがペンによって描かれており、
上から淡い水彩絵の具で色付けされている。ある意味マンガ的であり、作
品によっては『ウォーリーを探せ』のようでもある。画伯の作風は知って
いたが、さすがにこれだけの数の作品を見せられると壮観であった。
 ひとしきり見て回ったあと、受け付けの女性に記帳をうながされ、言わ
れるがまま記帳したところ、私の名前を見てとった女性が話しかけてきた。
「木村さんという方が見えたら、これを渡すように画伯から言われていま
す。」そして、小冊子とともに画伯の名刺を差し出してきた。
名刺の裏を見ると、なんと画伯の絵が書かれている。
驚きであった。どうやら私が行くことが分かっておられたご様子。
 画伯とはペンとカメラという違いはあれど、『修二会』をテーマに長年、
二月堂に通ったもの同士。お互いの存在は知りつつも、今まで一度も会話
を交わす事は無かった。
実は、展示会場に出かけて行ったのは、同じく『修二会』で知り合った友
人からのすすめであった。後で聞いたところによると、その友人から画伯
に連絡が行っていたようである。
 画伯とはその後、二月堂下でお会いしたが、すぐにどこかに行ってしま
われ、ゆっくり話すことが出来なかった。翌日あらためてお礼を申し上げ
ようと、再度、展示会場を訪れたが、結局会うことはできなかった。
 過去、東大寺を訪れた文化人は多い。志賀直哉、会津八一、小林秀雄、
亀井勝一郎、須田刻太、杉本謙吉、入江泰吉 等々。
そしていまなお、名もない若い芸術家たちが東大寺を訪れている。森脇氏
のような人が次の世代を担うのだろうか。私も、なんとかその末席にでも
座らせていただけたらと思うのだが、こればっかりはちょっと難しそうだ。

 さて、いよいよ春到来。花の季節である。
4月の花といえば、桜,桃,木蓮,れんぎょう,雪柳。少し遅れて、山吹,
藤,牡丹,石楠花....。数多くの草木が花が付けるが、その中で一つ
上げろと言われれば、やはり桜をおいて他にないだろう。
しかしこの桜、これほど撮りにくい花はないのである。それは花の色が淡
いピンクであるがゆえ...。このピンク色を出すのが難しい。
普通に撮れば白くなってしまう。特に、晴れた日などは光と影がはっきり
してピンク色など出やしない。結局は、曇りの日か雨の日を狙うしかない
のである。もちろん満開ではダメである。7分咲きくらいがベストであろ
うか。
 今回は天下の桜の名所、吉野山である。役行者が蔵王権現を桜の木に刻
んだという伝説から信者によって桜が寄進、保護されてきた。期間中は観
光客が数珠つなぎとなるが、この日は平日とあって、静かな吉野山であっ
た。どこをどう歩いたか、ふと見ると谷をはさんだ向こう側に蔵王堂の大
きな屋根が見えた。

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