シルスマリアの日傘 U

遠藤 真理

同じく2階から遠方に見える聖堂騎士団ゆかりのビルゼック城。
暖房機械設備棟ハイツ・ハウス。1914年建設。屋根は煙の立ち上っていく様を表しています。入り口の枠回りがアーリマン的な形です。
ドルデック邸。1915年建設。コンクリート造で第一ゲーテアヌムとの関連性が強い。人智学関連書籍が置いてあります。
ゲーテアヌム、西側アプローチ
マリー・シュタイナー像。
ルドルフ・シュタイナー像。
ホテル・ヴァルドハウスの部屋の窓から見えるシルスマリアの風景。
宿泊したヴァルドハウスは今年でちょうど100周年。それを記念してコンサートや舞踏会、講演会や寸劇が催されていました。ニーチェ、ヘッセ、アインシュタイン、ユング、トーマス・マン、シャガール、ヴィスコンティ、ロッド・スチュワート、デビット・ボウイなどに愛されてきたホテルです。その中の1人、ヘッセをテーマにした「ヘッセ週間」もありました。私たちが見たのはニーチェにちなんだ、挿入歌のある劇「ルーと男たち」でした。ルーとはもちろん、ニーチェが夢中になったルー・ザロメのことです。内部のインテリアはどこか映画「シャイニング」のホテルを思い起こさせました。
湖の方角からヴァルドハウスを望む。
6月半ばのシルスマリアは春の真っ盛り。山中や平野には青や黄色の小さな花々が咲き乱れ、葉には朝露が残り宝石のようにきらめいていました。
永劫回帰の碑が埋め込まれた巨石。ニーチェが天啓のようにこのイデアを受けたのはシルヴァプラナ湖畔でのことでした。
「人間よ、聞け
深い真夜中は何を語るのか?
私は眠り、眠り
深い夢から目覚める
世界は深く
昼が考えたよりもっと深い
この世の苦しみは深い
喜びは―心の痛みよりさらに深い
苦しみの声は語る、「消え去れ」と
しかし、すべての喜びは永遠を欲する
深い、深い永遠を!」
シルヴァプラナ湖。遠方の山々のさらに奥がイタリア。そこから風が吹き抜けてきます。
湖の澄んだ水。まだ風はおだやかで、光の粒が輝いて底の石や魚が透けて見えます。
ニーチェ・ハウス。1883年から発狂寸前の1888年まで、ニーチェは夏になるとシルスマリアを訪れました。そのとき滞在した家がニーチェ・ハウスとして保存されています。
ニーチェ・ハウスの裏に移った鷲。元は記念館の正面右側にあったそうです。今はニーチェをイメージした抽象的な作品が代わりに置いてありました。以前何度も訪れた方が、「玄関脇のカラスがない!」と驚いていました。受付に聞いたら、「あれはカラスではなく、鷲です」と言われたそうです。数十年来の思い込みが一新!
ニーチェ胸部像。
デスマスク。記念館に入ってすぐの第一室に、ニーチェの狂気の手紙と写真、そして死にまつわるものが展示してあります。
ニーチェについてシュタイナーが書いた直筆のメモと本の一部。かつてはこれほど詳しい展示ではなかったそうです。シュタイナーもメジャーになった証拠?
ニーチェが滞在した部屋。窓から射しこむ明かりがベッドのリネンとたらいをやさしく照らしていました。
サン・モリッツにあるセガンティーニ美術館。画家自らがデザインした建物です。ちなみにサン・モリッツの標高は1800m。スイス・エンガディンの風景や農村の人々を 描いたセガンティーニ(Segantini 1858 ~1899 )は日本でも人気があります。驚いたのは、カタログの言語がドイツ語、イタリア語、英語、そして日本語で記してあったことです。円形の2階に有名な3部作「生成」「存在」「消滅」があります。
セガンティーニが住んでいたマロヤへ向かう途中のシルス湖畔の小村イソラ。突然ヤギの大群が現れたので「ヤギ村」と呼んでいました。細い道の途中で、自然に呼ばれ大小かまわず落としていくヤギたち。さらに目の前でいきなりヤギの乳絞りを始める女性。ヤギに囲まれ匂いにパニックになった私たちは村のホテル兼レストランで一休みして、私だけヤギ乳を飲みました。
マロヤのセガンティーニの家。やはり円形の設計。アトリエの展示品は画家が使っていた絵の具や椅子、コートや調度品の数々。裏に回ると玄関口には猫の置物がたくさん置いてありました。
セガンティーニの半身像。セガンティーニは北イタリアの生まれですが、アトリエをスイスのマロヤに構えたのはアルプスの自然と人々と降り注ぐ光に魅せられたからです。晩年の最後の作品三部作の一つ「消滅」は、見れば見るほど不思議な絵に思われます。すべてのものの死を絵の中に表現した、と彼は言いました。ところが死を表現するのに絵の中の時は「夜明け」なのです。まるで死は終わりではなく、何かの始まりだと感じていたかのようです。急性腹膜炎が原因で41歳の若さで亡くなりました。最後の言葉は、「私の山が見たい」。それはあの標高の景観の中でしか見られない、透明な空気の光の泡に包まれた山の姿だったのでしょう。
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