「Steel Wheel」のツアーから来日するようになったStonesだが、大阪に来たのはこれが初めてだった。Stonesはもうずいぶん前から「老いぼれ」とか「集金ツアー」とか悪口を言われることが多かったけど、しかし、「Bridges to Babylon」の出来が良かったのと、やはり伝説のバンドだから一度は見ておきたかった。席もアリーナの右端だったが前から9列だったのでそれなりに期待していった。
Stonesというと客が期待するのは「Satisfaction」とか「J.J.F.」のような定番曲であるが、決して懐メロショウといった感じではなくて現役のバンドの音であったことに驚いた。またこういうバンドのライブでは客の反応が冷たい新曲であるが、どの曲もアレンジや演出に趣向を凝らしていて楽しめた。
それにしても50歳代も半ばというのに2時間以上、歌って、走って、踊るMickのパワーは何なんだろう?もちろんKeithやCharlieの演奏も力強い。間近で見たMickやKeithの背中に後光が射していたように見えたのは錯覚ではあるまい。何十年もstadium tourをsold outし続けたバンドには常人では理解できない何かがあるのだと思いたい。
渋谷陽一氏の表現を借りれば「ロックの正義はグルーヴ」であり、その正義をロックの創世記から体現しているのがStonesであろう。今回のショウを見て、そのことを再確認することになった。今回のツアーはgreatest hits集、「Fourty Licks」のリリースに伴うツアーということもあって、ショウでは意識的に昔の曲が選曲されているようである。しかし昔の曲を演奏していても、彼らが演奏する限り、それは「今の曲」であって決して懐メロにならない。
Stonesはよく「ヘタウマ」とか「B級」という形容詞がつけられる。何となくその言葉が意味していることもわからなくはなかったが、今回のショウを見て認識が変わった。彼らは決して下手でもB級でもない。確かに彼らは手数の多いプレイヤーではないし、彼らより技術的に優れたプレイヤーはたくさんいるだろう。しかし、例えばスタジオ・ミュージシャンがStonesの曲を演奏しても、それはStonesの曲にはならないだろう。なぜなら彼らには彼らでしか表現できないグルーヴがあるからである。Stonesは決して適当な演奏や間違えた演奏を良しとしてショウをやっているのではない。彼らはショウでグルーヴを再現することを第一目的としており、結果として時に演奏が乱れることがあるだけである。今回の2回のショウでも演奏としては「あれ」と思うところが何度もあった。しかしながらそんなことが全く気にならないくらい、バンドから放たれるグルーヴには圧倒的な説得力がある。
それから今回、改めて思ったのはスタジアム級の会場でロックを演奏するということに対する、Stonesのノウハウの凄さである。今回、初日はアリーナの真ん中で、そして2日目はスタンドの後方でショウを見ることになった。はっきり言えば、それはスタンドよりはアリーナの方が盛り上がるし、あるいは武道館のような小さな会場でやればもっと盛り上がるだろう。しかし意外にも2日目のスタンドもそれなりに楽しめたのである。Aerosmithを同じ会場のスタンドで見た時はショウが遠くの方でやっていて何か他人事のように感じたのに、今回のStonesのショウはスタンドの後方で見てもそれなりに臨場感が感じられた。これは大阪ドームの音響が比較的良いことが影響しているだろうが、それだけでなくステージ上のビデオ・スクリーンの映像や照明が何気なく凝っているし、何かとさりげない演出がすべて計算の上に成り立っていることに驚いた。Stonesクラスのバンドが狭い会場で客を盛り上げられるのは当然である。しかしスタジアム級の会場で、スタンド席の客までライブハウスで見ているかのような臨場感を味合わせることができるバンドが一体、いくつあるだろうか?
個人的には20日のセンター・ステージでの「Midnight Rumbler」が最高に良かった。それからやはり20日の「Can't You Hear Me Knocking」も。それと21日の「Monkey Man」で、出だしがうまくいかなかったためにKeithがマジ切れしてMickに肘鉄を喰らわしているところがスクリーンで大写しになり、場内がどよめいた辺りが見ものであった。もちろん、2時間のショウは中だるみすることなく、最初から最後まで楽しかったが。セット・リストは以下の通り。
20日: Brown Sugar / You Got Me Rocking / Start Me Up / Don't Stop / Rocks Off / You Can't Always Get What You Want/ Bitch / Can't You Hear Me Knocking / Tumbling Dice / Thru and Thru / Before They Make Me Run/ Sympathy for the Devil / It's Only Rock & Roll (B-stage)/ Let It Bleed (B-stage)/ Midnight Rambler (B-stage)/ Gimmie Shelter/ Honky Tonk Women/ Street Fighting Man/ Satisfaction/ Jumping Jack Flash
21日: Brown Sugar/ Start Me Up/ It's Only Rock'n Roll/ Don't Stop/ All Down The Line/ Wild Horses/ Monkey Man/ Midnight Rambler/ Tumbling Dice/ Slipping Away/ Happy/ Sympathy for the Devil/ Mannish Boy (B-stage)/ Like A Rolling Stone (B-stage)/ You Got Me Rocking (B-stage)/ Gimme Shelter/ Honky Tonk Women/ Street Fighting Man/ Satisfaction/ Jumping Jack Flash
当日まで迷っていたけど、結局、行ってしまいました、名古屋まで。他のバンドだったら名古屋まではなかなか行かないと思うが、やはり世界最高のロックバンドのライブの魅力には勝てない。それにしてもどうして大阪は飛ばされたんだろうか?ドームが確保できなかったとしたら、この時期、ドームで入学式をやっていたR大学にも責任の一端はある(笑)。
今回は当日券を買うこととにしていたので、どっちみちいい席は狙えない。そこで割り切ってB席に座ることにした。B席だとスタンドの2階なのでステージからはかなり遠いが、それでも前から2番目で思ったほどは悪くない。しかし残念ながら音響はもう一つ。アリーナだったら違うのかもしれないが、やはりその辺はドームの限界か。KeithとRonnieのギターの音の区別ももう一つはっきりしない。
演奏のミスもいくつかあったが、それでもバンドが好調なのはよくわかった。アップテンポの曲を中心に勢いを感じさせる演奏だった。確かにスピード感では70年代と比べようがないのかもしれないけど、前のツアーでも顕著だったバンドのグルーブは健在。還暦過ぎたメンバーの演奏とは思えない。セット・リストはGreatest Hitsに新譜からの曲を混ぜるという標準的なもので、レア曲がなかった点は残念がる声も多い。しかし名古屋は初めてでしかもドームでのショウだからこの辺は仕方ないのだろう。むしろ、新譜からの「On No Not You Again 」、「Rough Justice 」が過去の名曲に違和感なく溶け込んでいたことに、今のstonesの凄まじさを感じる。
メンバーの大半が還暦過ぎて、新譜を出して、しかも世界各国でスタジアム級の会場でツアーをやるバンドなんて他にはない。つまりstonesは存在し続ける限り、ある意味、常にロックバンドのフロントランナーである。そのことを演奏は証明していた。しかし客観的に考えれば、年齢が年齢である。次はあるだろうか?セット・リストは以下の通り。
Jumping Jack Flash/ It's Only Rock And Roll/ She's So Cold/ On No Not You Again/ Ruby Tuesday/ Rain Fall Down/ You Got Me Rocking/ Gimmie Shelter / Tumblin' Dice/ This Place Is Empty/ Happy/ Miss You/ Rough Justice/ Get Off My Cloud/ Honky Tonk Woman/ Sympathy For The Devil/ Paint It Black/ Start Me Up/ Brown Sugar/ You Can't Always Get What You Want /Satisfaction
「音の魔術師」と称されるTodd Rundgren。Utopiaにおけるライブ・パフォーマンスは凄いんだろうけど、その時はUtopiaのことはよく知らなかったし、まあどちらかというとToddに関しては楽曲というかレコードの音源に興味があったのでその延長線上で観に行ったようなものだった。この日のショウはあらかじめ「ソロ・コンサート」と副題がついていたので、普通のショウと違うことは最初からわかっていた。
しかしこのソロ・コンサートは今考えてみてもかなり奇妙なショウで、普通、ソロ・コンサートっていうとguitar1本やpiano1台をバックに歌を歌うようなものを想像すると思う。ところがこのツアーはコンピューターとテープを併用したショウで、一応、バンド的な音が鳴るのである。バラードとか実験的な楽曲なんかはいいんだけど、アップテンポな曲の場合、1人、広い舞台の上でコンピューター相手に熱いギター・ソロ弾かれてもなあ...。どこかむなしさが残るショウだった。まあ実験精神は買いましょう。