幸運を呼ぶブレスレット

高野一巳



11 夢があるんだ

オサムとリョウタは離れた土地でそれぞれ頑張りました。ですからもう長いこと会っていなかったのです。落ち着いてきたころ、久しぶりに2人が再会しました。

2人は再開を心から喜び合い、語り合いました。そして互いの成功を心から祝福しあいました。
「僕、今1つの夢があるんだ」
オサムが言いました。
「日本中の産地から厳選して農家と提携して、僕がプロデュースして作ってもらった最高の野菜を日本中のどこにでも届けてあげられるようにしたいんだ」
「おう、すごいじゃないか。壮大な夢だ。俺は全面的に応援するぞ。お前ならできるぞ」
「駄目だよ。僕だけの力じゃ出来ないよ」
「何を弱気なことを言っているんだ」
「リョウタの力が必要なんだ。リョウタに産地と生活者をつないで欲しいんだ。どうだい、やってみないかい」
「それはうれしいが、本当に俺でいいのか」
「当たり前だよ。リョウタしかいない。僕はリョウタのおかげでここまで来れたのだから」
「何を言っているんだ。お前がいたから、俺もここまでやれたんだ。本当にありがとう」
「僕の方がもっともっとありがとうだ。これからも一緒にやって、一緒にもっとよくなっていこうよ」
「ようし、俺がやるからには、日本に留まらないぞ。世界にひろげるぞ」
「ははは、やっぱりリョウタは頼もしいな」
心の底から屈託なく笑うオサムを見てリョウタがしみじみ言いました。
「でも、俺たち、本当によくここまできたな。あそこでこれに出会わなかったら、ここまで来れなかったろうな」
リョウタはあのブレスレットを取り出しました。
「まだ持っていたのか」
「ああ、記念というわけではないが、俺たちの人生の転機になったものだ。ただ捨ててしまうのもどうかと思ってしまっておいた。今日は思い出話に花を咲かせようと持ってきたんだ」
「本当にあのころの僕たちには何もなかったよね」
「そうだな。お金も彼女も夢も希望も未来も何もなかったな。あるのは愚痴とため息ばかりだったよな」
「何だか虚しかったなあ。いやなことを何とか誤魔化してまぎらわしながら世間を恨みながら生きていたんだ。でも虚しさや寂しさをまぎらわすために思いっきり遊んだあのころはそれなりに楽しかったな」
「あのころは自分を何とか守ることでせいいっぱいだったよ。2人で支え合ったんだ」
「あの時は苦しかったけれど、今となったら何だかなつかしいよね。あの時はあの時なりに懸命に生きていたんだもの」
ふたりは遠い昔に思いをはせていました。

その時、小さなため息が1つ聞こえたのです。

「あーあ、僕って何でいつもこうなんだろう。自分がつくづくいやになる。
何かいいことがないかなあ。でも、こんな僕に何もいいことなんて起こるはずがない。
こんな性格だ。何をやっても駄目だ。これが僕の宿命なんだ。一生このまま変わらない」
しきりに嘆く声が聞こえました。

オサムとリョウタは顔を見合わせて、その声のする方に行きました。
独りの青年が背を丸めて頭をかかえて沈み込んでしました。

オサムもリョウタもそこに過去の自分がいるような錯覚に陥りました。

「それは違うよ」
リョウタは思わず言いました。

その青年はびっくりした顔をふたりに向けました。
オサムとリョウタはにっこり微笑み、リョウタは先を続けました。
「宿命とは、神様から生まれる時に託される宿題のようなものだ。解決できないと代々受け継がれることになる。宿命は生まれつき持ってうまれた問題である場合もある。
運命とはそんな持ってうまれたものや、生まれてから得たものや、まわりの環境や自分の経験や人から学んだことや物の見方や考え方や価値観とか、時代や社会など、さまざまな条件から、定められる自分の未来だ。
でも、宿命を逃れることも運命を変えることもできる。
性格だって、生まれつきの基本的なものは変えられないかもしれないが、生まれてから育まれる部分も少なくない。
マイナスの部分があっても、後からプラスのものを加えることでゼロにもプラスにもしていくことができる。
また同じ性格でもとらえ方や扱いかたで短所にも長所にもなる。
しかも、それのどちらを選ぶかは自分で決めることができるんだ。
自分の人生をよいものにするか、悪いものにするか、全く自分の考え方しだいなんだよ。
時代も社会も人の評価も関係ない。自分の考え方しだいで、時代も社会も評価も変えることができるんだよ。
自分の考え方1つで自分の未来ばかりか、自分の過去だって変えることができる。
それができるのは、今、ここにいる君なんだぜ。今どちらを選ぶかだ。決めて始める。それだけで変わっていくんだ」

リョウタはオサムの目を見た。オサムは微笑みながらうなづいた。
リョウタはポケットのブレスレットを取り出し、青年に差し出した。
「これを君にあげよう。これはきっと君の未来を変える助けになってくれるに違いない」
リョウタはまだきょとんとした表情のその青年に手渡した。
「これは、幸運を呼ぶブレスレットなんだ」

       (END)


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