幸運を呼ぶブレスレット

高野一巳



10 やるぞ!

リョウタはもうブレスレットを身につけることなく、オサムの考え方や行動を真似することにしました。
リョウタはブレスレットに最後まで疑う心を消し去ることができませんでしたが、オサムの考え方や行動が幸運を呼ぶものであることを心から確信していたのです。

もちろん、リョウタはオサムと瓜二つになるつもりはありません。2人の性格も違いますし、幼馴染とはいえ、親も違えば、育った環境も違います。興味も悩みも違います。
考えや行動のしかたを真似て、自分流にアレンジしていくわけで、性格を変えるわけではありません。自分を消してオサムと入れ替えるわけでもありません。リョウタはリョウタのままで、オサムのいいところを真似してみたのです。

その効果はたちまちあらわれました。
何も特別なことは起こりません。いつもと同じ日常でしたが、何かいいことが起こるかも知れないと思うだけで、顔がほころんで、今日もがんばるぞと力が湧いてくるのでした。
そして、いつのまにか、1日を終える時には、今日はこんないいことがあったと数えるようになりました。それが楽しみになりました。

以前ならば、たいしたことがないと思うような小さなことでも、今はとてもうれしく思えるのでした。
同じものなのに考え方を変えるだけでこんなに違った景色に見えるなんて思いも寄りませんでした。
いやなことがあっても、必ずいいことがやってくると信じてみれば、頑張れるようになったのです。工夫して何度もあきらめずに試してみようという気にもなってきたのです。そして出来た時のそのうれしさといったらたまりません。
以前はもっと他のところにいいものがあると思い、それを待っていたり、どうせやってもうまくいかない、ここにあるのは違うなどと思って今を疎かにしていました。今を誤魔化しながら何とかやりすごしていたのです。
仕事も食うためにしかたなく、いやいやしていたのです。

でも今は、今ここでやっていることが、きっといいものにつながっていると思うようになったので、今を、今日1日を大切にして楽しめるようになったのです。
心をこめて仕事をすると、いろいろなことが見えてきて面白くなり、楽しくなってきました。
興味をもってやって、知らなかったことを知ったり、出来なかったことができるようになることがうれしかったのです。
しかも、それがお客様や会社のために役立つことにつながると、とても喜んでもらえてそれがまた自分の喜びになりました。

リョウタの働きぶりが変わりましたから、お客様からの受けがよくなり、うれしくてさらに自分で工夫したりするようになりました。
お客様や会社のために役立って、喜ばれることが楽しくなってきたのです。

役立ち、必要されることが多くなると、また工夫をこらすようになり、工夫をこらせば、また喜ばれるというような好循環が生まれ、いつしか、リョウタは会社にとっても価値ある人間となり、大事にされるようになってきたのでした。給料も上がりました。
するといつしか、自分の中に自信のようなものが芽生えてきたのです。

オサムはといえば、別の土地で店長を頑張り、野菜ソムリエの資格をとって、ますますお客様に喜ばれるように工夫を重ねていました。
おかげで、店も順調に軌道に乗るようになってきて、そこで出会った女の子とも結婚前提のおつきあいをするようになったのです。

リョウタは、生活も安定して、自分に自信が生まれてきたせいか、街で出会った気に入った女の子にアタックするようになりました。
以前なら初めからどうせ相手にされないとあきらめていましたが、今は何でもやってみないとわからないと考えるようになりました。そして駄目でもともと、うまくいけば儲けもの。さらに、うまくいかなくても、ころんでもただでは起きない。何かをきっとそこで学べると考えるようになったのです。一生懸命やればきっといいことにつながると考えるようになったのです。
何度もふられましたが、きっと自分にもっとふさわしい女の子にきっと出会えるとあきらめることなく、失敗をおそれることなく、次にチャレンジしていくのでした。
あきらめなければ、きっと道が開けると心から信じていたのです。

やがてそんなリョウタに惹かれる女の子もあらわれたのでした。
何ごとにもくじけずあきらめないで、何度も一生懸命に挑む姿に頼もしさや強さを感じたとリョウタの人生のパートナーとなったその女の子は後で話してくれました。
思わず応援したくなり、いつしか惹かれていったというのです。

実は彼女は以前にリョウタに告白されたことがあったのですが、断っています。
その時は何事にもやる前からあきらめて、うまくいかないのを何かのせいにしていつも怒っているような乱暴な、それでいて自分をよく見せようとする彼がどうしても好きになれなかったのです。


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