深い深い眠りから覚めた時、迎えてくれたのは、ギャリオンの悪魔のような
顔ではなく、レイナの天使のような笑顔だった。
ヒカルは心の底からの安堵感とともに、体の奥底から、力が湧きあがって
くるのを感じた。
「レイナ」
「ようやく、気がついたのね、ヒカル、よかったわ」
「長く寝てたのかい」
「3日間寝ていたよ。手術大変だったんだから。ドクターはよくこんな体で
帰ってこれたとびっくりしてたわよ。それにしても無茶なやつだとも言っていたわ。
体内爆弾の時限装置を止めるために腕を自分で切ったでしょ。
一つ間違えば、命を落とすか、助かっても腕が動かなくなるなど障害が残ってしまうかも
知れなかったんだって。おそろしいほど悪運の強いやつだと
あきれていたわよ」
「爆弾は取り出せたのかい」
「とても。難しい手術だったのよ。ドクターがたまたま、天才外科医のおれがいたから
助かったようなものだ、と自慢していたわよ」
「ドクターには、いつまでたっても頭があがらないな。世話になりっぱなしだ。
体はもう元通りなのかい」
「そうはいかないわよ。当分リハビリに励まなくてはいけないわ」
「それで、元通りになるならいくらでもやってやるさ。
時間はたっぷりあるからね」
「そうはいかないぞ。」
トノヤマがやってきて言った。
「仕事が山ほどあるんだ。ギャリオンの残党もまだいるし、コロニーの
解放も始まったばかりだ。復興への道は始まったばかりだ。考えなくちゃ
ならないこと、作っていかなくてはならないこと、解放した人たちの心身のケアから、
後片付け、さまざまな調査、研究、いっぱいすることがあるんだ。
早く、帰ってきてくれないと困るぜ。そのために今は力を充分蓄えることだ」
「リーダーはやっぱりリーダーですね。もう次の目標に向かっている」
「当たり前だ。おれたちがやらないで、誰がやるって言うんだ。
でも、この仕事はやりがいがある。向かうべき未来がある。希望がある。まさに地球の希望、ホープジアースだ。これこそ、俺たちの本当の仕事だ。
新しい未来を開いてくれて、ありがとう、ヒカル。よくやった。
無事に帰ってきてくれてうれしいよ」
「ここまでやれたのは、リーダーがいたからです。
リーダーが導いてくれたから、育ててくれたから、信じてくれたから今のおれが
あるんです。本当に感謝しています」
「ほっ、いつのまにか一人前の口をきくようになりやがって」
そういいながら、トノヤマは今まで見たことのないうれしそうな顔を見せた。
「しかし、地球の未来はまだこれから始まるんだ。やらなければならないことが
それこそ山のようにある。これからはお前たちの時代だ。しっかり頼むぞ、ヒカル。
ゆっくりしている暇はない。じゃあ俺は行く。また来るからな」
「いいえ、次は俺のほうから行きますよ」
「そうか、よし、待ってるぞ」
トノヤマは笑顔を残して出て行った。
その入れ違いにジュンペイが入ってきた。
「おっ意外に元気そうだな。情けない顔をみてやろうと思ったのにな」
「どんなにくたばっていても、ジュンペイには、そんな顔は見せないぜ」
「その割にはずいぶん心配させやがって。
でも、無事なお前の顔が見れて、うれしいよ。
しかも、どえらいみやげを引っ提げてきてくれたな。
お前はたいした奴だよ。ちまたでは伝説のヒーローだぜ。なあ、レイナ」
レイナはくすりと笑いながらうなづいた。
「もう伝説なのかい」
「そうさ。その伝説とそのけがに免じて、今回だけはお前に脱帽するよ。
でも、この次は負けないぜ」
「また、ジュンペイと張り合えると思うとうれしいよ」
「待ってるよ。リーダーも言ったと思うけど、新しい時代を開いていくには
まだまだしなければならないことがいっぱいある。
今のうちにゆっくり休んでおくことだな。しかし、そうのんびりしてないられないぜ」
「ああ、すぐに行くよ。待ち遠しくてじっとしていられない」
ヒカルとジュンペイは笑顔を交わし合った。
「あ、それと、レイナのことだけど」ジュンペイが改まって決意したように切り出した。
「お前の留守の間、お前の代わりに守っていただけだからな。
レイナの心はいつでも、お前のものだったよ。寂しいけどな。くやしいけどな。
どんなにお前を待っていたことか。
だから、今お返しするよ。これからはお前がしっかり守るんだぞ。
しかし、おれは告白しておくよ。おれはレイナが好きだ。愛している。
だから、レイナを悲しませるようなことをしたら、おれが承知しない
からな。よく覚えておけ」
「ジュンペイ・・・悪いな。絶対幸せにするよ。約束する。本当にありがとう」
「なんだ、いやに素直じゃないか。入院している間に軟弱になってきたのか。
今のお前になら楽々勝てそうだな。おれが鍛えてやるさ。楽しみにしてるぜ」
「なに、リハビリすれば、すぐに元通りさ。ほえづらかくなよ」
ヒカルはジュンペイの目がうるんでいるのに気づいていた。
「ごめんね。ジュンペイ。」レイナが気遣って言った。
「何言ってんだ。おれはいつでもレイナの味方だぜ。
おっと、もう行かなきゃ、リーダーにどなられそうだ。体がいくつあっても足りないよ」
「ジュンペイ、本当にありがとう」
「待ってるからな」その言葉を残してジュンペイは出て行った。
「おれは本当にいい友達や仲間に恵まれているよ。
その上、最愛の人がそばにいてくれる。
おれは本当に世界一の幸せ者だよ。いや、宇宙一だ」
「私もよ。あなたがここにいてくれるだけで、最高に幸せよ。
信じられないくらい。だって、一週間前には、絶望しかなかったんですもの」
「2度とこの幸せを失いたくない、こわしたくない。絶対守っていくぞ」
「ええ、それどころか、もっともっと幸せになっていきましょう」
「いつまでも一緒にね」
ふたりは、これ以上うれしいことはないというほどの笑顔で見つめ合い、
熱いキッスを交わした。
これほどの満ち足りた感じを今まで味わったことがなかった。
「安心したら、眠くなってきた」
「ゆっくり、こころゆくまでおやすみなさい。
ずっとそばにいるわ」
「ありがとう」ヒカルは心強さを感じた。
もう、2度と離したくない、何があっても守り抜くぞ、そう決意するのだった。
ヒカルは深い深い眠りに落ちて行った。
しかしその眠りは、いつ果てるとも知れないものではない。
かつてない包み込まれるような安心と安らぎに満たされていて、
もう突然かき乱されることもない。
突如、夢を引き裂かれることもない。
しかも、希望ある明日につながるものだった。
(END)