御開祖物語
観世音大菩薩
[第九章]
昭和53年の冬。
立春が近いとは言え、まだまだ寒さ
厳しい鳥取の勝宿神社に一人、
浄照はご神前に座り込み祈って
いました。
夕陽が辺りに積もった雪を茜色に
染め、浄照の背中をも暖かく
照らしているのでした。


その日の早朝・・・
 
 浄照は夫との約束を果たすため、雪深い鳥取へと向かったのです。
 バスに揺られ、ひときわ曇った窓をこすり、景色は流れゆくけれども、
 浄照の心は夫との日々を思い巡らせていました。

 「あなた、一緒にお参りしましょうね」
 夫の写真にそう言葉をかけるとそっと胸に押し抱くのでした。

 町並みから田園風景に変わった頃、窓から差す穏やかな日射しと
 バスの揺れが心地良く、いつの間にか浄照は眠りについていました。
 到着した時には身体もすっかり軽くなり、清々しい気持ちで足早に神殿へと
 向かったのでした。

 浄照は、夫が山の神様の御神示を受けていたこと、山の神の分霊で
 この世に生まれて来ていたことなどを思い返していました。

 寒気が星々の輝きを磨き出す頃、浄照は時間が経つのも忘れ、
 只々ひたすらに祈っているうち、我に囚われなくなっていました。
 風になびいていた木々も一瞬にして息が止まるかのように辺りは静寂に
 包まれました。

 その時…

 浄照の前に淡い小さな光が「ポッ」と灯ったのです。
 ゆらゆらとその光はだんだん強くなり、大きな光となったのです。
 まるで炎のように。
 そして、少しずつ輪郭が現れ、やがてそれが人の姿らしきものへと
 変わっていきました。

 「あっ」
 浄照は一瞬息を呑みました。

 その瞬間、目の前に四方八方にまばゆいばかりの光が、
 あたかも金色の扇を広げたように放たれました。
 そこに優しく微笑み、左手に蓮華を持ち、右手に印を結んだ
 煌めく観音様が現れたのです。

 「あぁ、観音様」

 まぶしさに目を眩ませ、不思議な感覚に囚われながらも
 そう心から確信するのでした。
 そのあまりの神々しさに、その場にひれ伏さずにはいられませんでした。

 そして、清浄無垢なる大気の流れが漂っている時、光の中から声が
 聞こえてきました。
 細く微かな声が頭の中に入ってきたのです。
 それがやがてはっきりとした言葉となって浄照に告げたのです。

 『神も仏も元は同じである。別々のものと思うのは人間の度量があまりにも狭く、
 我に固まっているが故に大自然宇宙の真理が悟り得ぬのである。』

 浄照はしっかり観音様のお言葉を理解し、受け入れました。
 「観音様、誠にありがとうございます。」

 浄照は胸の鼓動を抑えきれないほど感謝の気持ちでいっぱいになりました。
 そして、この真理を深く心に刻み付けたのです。

 我に返った時、浄照は寒さをも忘れ、只々熱い想いを胸に
 神戸への帰路へと着いたのでした。

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