御開祖物語
乾 浄照
 [第十章]
 夫との別れから四十九日が経とうと
 していました。

 勝宿神社で観音様から頂いた
 ご霊示は浄照の胸に光を差し入れ、
 魂の奥深く刻まれているのでした。

 3月も半ば、梅の花が咲き始めた頃、
 それはまだ朝日が昇る前の明け方の
 ことでした。
 浄照の霊夢に神界に居る夫の姿が
 現れたのです。
 
 「僕は此処に来て初めて人の現世に生きている間の一生が、どのように
 大事であるかと言う事がはっきり分かった。
 お前が今見ているように、此処、神界に来ている人々は、現世では皆立派な
 人達ばかりで、神の世界に来られた程の人達ではあるが、それでもその人の
 一生の在り方の違いによって、何十段階にも分かれた神界のそれぞれの段階に
 送られて行くのであって、神界は神界で又それぞれの修行の過程を経て、
 段々に上昇して行くのだよ」

 そう言葉を聞いた浄照はふと、目を上げて向こうを見ると、立派な方々が整然と
 一列に並んで順番を待っておられるのです。
 1番前の一人が夫の座っている前に立ち止まると、一瞬の間にその人の
 生まれた時から死ぬまでの一生が一つのごまかしもなくわかってしまいます。
 一切隠すことのできない厳粛な場でありました。

 夫はまだ新米だから神界で神様のお使いをして、ここに来られる人々の
 一生を記録していました。

 目が覚めた時、浄照は夫の言葉を心に留め、霊夢の一部始終を思い返すのでした。

 それから数日後のこと。
 浄照はまた不思議な夢を見ました。

 神官の手に持った大きな笏(しゃく)が現われ、よくよく見ればそれは浄照の姿でした。
 その笏を白衣を着た大きな男の人が手に持っているのです。
 その男の人は夫でした。
 その時、何処からか声が聞こえてきました。

 『浄照よ、お前はその神の手に握られた笏であるぞよ。その神は即ちお前の
 夫である宝海で、今よりお前は夫神のみ心のままに打振られ、
 上下、左右に動かされ、意のままに働かされて、夫神のみ心を表に現してゆかねば
 相成らぬものなり』

 しばらくして、厳かに夫の声で
 『「今」、只、「今」あるのみなり。無量劫の過去も無く、永遠の未来も亦無し。
 有るは只「今」のみ。「今」この一瞬を命の限りに生きて、これ永遠なり。
 この「今」を神の意のままに生きて命思はざる故に、神と人とは一体なり。
 即ち、我、神なり』。

 その瞬間、目が覚めたのです。

 この霊夢によって浄照は霊界の神たる夫を確信し、死も生も無い不滅の実在こそが
 真実であり、その本源は神そのものであるとわかったのです。
 その後も夫は生きていた頃と同じように夢に現れては浄照の歩むべき道を教え
 導いて下さるのでした。

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