御開祖物語
観音像
 [第二十五章]

昭和64年1月。
高台にある聖堂建立予定地には、
澄みきった青い空の下、風花が白く
ちらちらと舞っています。
時代は昭和から平成へと移り
変わろうとしていました。

光照は、観音様がお示し下さった
この聖地で2度目の新年を迎え、
この土地に聖堂が建立される日を
待ち望んでいるのでした。

 
建設にあたり、年末より少しずつ材料も調達されるようになり、
 本格的な工事が始まっていました。
 貯水タンクが撤去された跡には、丸い大きな土台だけが残り、どうしても
 それを無くすことができませんでした。
 しかし、それは思いのほか好転し、
その上にセメントを流し込むことによって、
 より磐石な基礎が出来上がったのです。

 上棟式は2月11日に決まり、その日に間に合うよう職人さん達は、
 雨の日も風の日も休むことなく建設作業を進めていくのでした。
 いよいよ鉄骨を建てる日には、小雨が降る中、えんじ色の鉄骨が一本ずつ
 クレーンによって土台の上に建てられていきます。
 鉄骨を建てたらボルトでしっかりと止める作業を、何本もの鉄骨に施しました。
 こうして、やっと骨組みが完成したのです。

 その甲斐あって、予定通り上棟式を迎えることができました。
 弟子たち数人も参加し、その光景を
目のあたりにして、光照は
 つくづく想うのでした。
 「この聖堂をしっかり支える柱のように、弟子一人一人がこの柱となって
 正法を弘通して欲しい」と願わずにはいられなかったのです。

 その後も着実に工事は進み、3月末には外装が完成しました。
 それから数週間が経ち、桜が美しく咲き始めたある日のこと。
 光照は朝の供養が終わるとすぐに表へ出て、観音様のご到着を
 まだかまだかと待ちわびていました。
 専用車が着くとすぐ、業者の手によって観音像は、寺院の屋根の上にクレーンで
 吊り上げられていきました。
 それは、ゆっくりゆっくり慎重に行われたのでした。

 光照は、作業の様子を特別な想いで
見守っています。
 これまでの険しい道のりで、どんなに苦しくとも辛くとも、
 決して観音様を離すことなく信じきり、守護神として過去からお導き下さいました
 観音様を、こうして仏像として形に現せたことを心から有り難く思うのでした。

 光照は、両手を握り締めたまま感動と感謝で胸がいっぱいになり、
 じっと観音様を見上げていました。
 この多大なる想いがあったからこそ、観音像の完成に至ったのです。

 それは、ちょうど2年前の昭和62年4月。
 不思議なご縁によって、富山県にある高石鋳鉄所の仏師さんを
 知り合いから紹介されました。
 その方は、とても物腰が低く相手の意向を尊重されるお方でした。
 「期待に添えられますよう努力致します」
 と光照に約束して下さったのです。

 実は、光照は以前偶然にも、あるお店で真っ白い陶器の観音様を見つけていました。
 その観音様は、清楚で光照が想い描いた通りのお顔をされていたのです。
 どうしてもこの観音様を作って頂きたいと願っていました。
 その後、何度も仏師さんとの打ち合わせを重ね、製作に入りました。
 「まだかしら、まだかしら…」
 光照は、出来上がるのが待ち遠しくて仕方ありませんでした。

 そんな中でも、日々のお勤めや弟子たちへの指導は、欠かすことなく行っていました。
 また、この新しい土地に引っ越してからも、光照を頼って来る人は後を絶たないのでした。
 そんな折、鋳鉄所から連絡が入ったのです。
 「高石鋳鉄所です。大変お待たせしました。7月25日に火入れ式を行いますので、

 どうぞ皆様でいらして下さい」
 火入れ式とは、新しく仏像や梵鐘を
鋳造する儀式なのです。

 早速、光照は弟子数人と、はるばる富山県の高石鋳鉄所を訪れることになりました。
 炎天下の中、電車と車を乗り継ぎ、
片道約5時間かけて向かったのです。
 現地に到着し車を降りた瞬間、そこにはたくさんの仏像が並んでおり、
 弟子達は思わず声をあげて驚きました。。
 そして、辺りを見渡していると、光照は引き寄せられるように一人、

 中へと入って行きました。

 鋳鉄所に入ると、外の気温以上に熱の熱さで汗が吹き出し、蒸し風呂状態でした。
 「ようこそ、いらっしゃいました。
お待ちしていましたよ」
 仏師さんがタオルで汗を拭いながら
優しく出迎えてくれました。
 弟子達は、緊張と熱さで倒れそうに
なりましたが、毅然と合掌をしている光照を見て、
 気持ちが引き締まったのです。

 いよいよ火入れ式が始まりました。

 厳粛な空気に包まれている中、職人さんと参加している人達の心が

 一つになった時、緊張の瞬間がおとずれました。
 粘土で形を造った外型と中型の隙間に溶かした高温の金属を流し込んでいきます。
 大量の煙が噴出して、これまで見たことがないような光景の中、
 一同は無心に般若心経を唱えていました。

 読経が終わり近くになった頃、霊動しながらお経を挙げる光照の
 足元から観音像に向かって、まばゆい光の筋が走ったのです。
 「えっ?」
 弟子の一人が声をあげても光照は、
一心に読経を続けるのでした。
 これは、光照の観音様に対する強い念力が観音像に移り入った瞬間でした。
 また、この様子は偶然にも写真に写し出されていました。

 それから数日後、思いもよらない一本の電話がかかってきたのです。

 「高石鋳鉄所ですが…ちょっと不思議なことが起こりましてね。
 先日火入れ式を行った観音像がですね、ひと回り大きくなっているんですよ!
 あんなに正確に造りましたのに…不思議でなりません」
 光照は、最初何を言われているのか
わかりませんでした。
 それは、誰もが理解し難い現象が起こっていたのです。

 「実はですね、元々ご注文頂いたのは3メートルでしたが、寸法より
 大きくなって全長3メートル以上に
なっているんですよ」
 この現象が起こったのは、光照が長年にわたり想い続けた真心を、
 観音様が受け取って下さったからなのです。

 桜満開の4月。
 『天上より観音様が一切衆生を御救済されますように』
 光照の強い想いがまた現実となり、

 寺院の屋根の一番高い所に観音像は置かれたのでした。
 黄金に輝く観音様は、この高い所より人々を導き、温かく見守って下さるのです。
 日に日に変わりゆく工程に、期待と希望で胸をときめかせる
 光照と弟子たちの姿がありました。

 いよいよ足場が外され、内装工事へと進んでいくのでした。


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