御開祖物語
光照
 [第二十章]

昭和59年3月
厳しい寒さも少しずつ和らぎ、
梅のつぼみに春のきざしを感じる季節を
迎えようとしていました。
ある日の夜、夕食を終えた光照は、
居間でこたつに入ると
「今日も良い土地が見つからなかったわね」
と、愛犬ラーチを撫でながら話しかけて
います。
そして、疲れが溜まっていたせいか、
すぐにウトウトしてしまいました。

 
その時…「トントン」 誰かに背中をつつかれたのです。
 「えっ?ラーチなの?」
 周囲を見回しましたが、誰もいません。
 「あっ、観音様が起こして下さったんだわ。そうそう、寝ている場合じゃないわね!」
 光照には、常に観音様が寄り添っておられたのです。

 それから慌てて霊本の作業に取りかかりました。
 光照は、71才という年齢にも関わらず、土地を探しながら一方では、精力的に霊本の
 出版に向けて準備を進めていたのです。
 「早く次の霊本を作らないとね」と奮起していました。

 『乾坤の道(上)』を発行して3年が経ち、この書を読んで光照のもとを訪れる人も
 増えていました。
 更に教えを求める声も日ごとに多く聞かれたのです。
 光照は「一人の人でもこの書によって生きる希望を持って頂きたい」
 「みんなが幸せになってもらいたい」と思う気持ちと共に、
 「70才を過ぎての寿命は、自分のものではない、与えられているこの命は人の為に
 使わせて頂きたい」という思いが募るのでした。

 そうして、寝る間も惜しんで製作に取り組みました。
 上巻を発行した際に整理しておいた霊示をまとめて、今回は数多くある中から
 より一層深いお言葉や教え、御霊示を掲載するのでした。
 そして、上巻を発行した時の出版社に再びお願いをし、昭和59年7月
 『乾坤の道』 (中巻)を自費で発行したのです。

 蝉の声が辺りを鳴り響かせている中、5月から始めた第三回大白身法の伝法式を
 終えようとしていました。
 年を追うごとに、体力的にも無理が利かなくなってきた光照でしたが、
 一切疲れを見せることなく接していました。
 それは、見えない力で支えられ、守られている証しでもあったのです。

 この頃には、大白身法を受けた親御さんの息子さんや娘さんが集い始め、
 またその人たちが友達を呼び、若い人達が大勢集まって来ました。
 法会の後は、その人達も参加し茶話会が行われていました。
 最初は緊張しながら光照のもとへ挨拶に行くと
 「まぁ、ようこそいらっしゃいましたね」
 満面の笑みで出迎えて下さる光照を見て、若い人達は一瞬にして心が
 ほぐれるのでした。

 光照を囲んでお茶を飲みながらいろんな話を聞いています。
 みんな光照の経験談に耳を澄ませて、真剣な表情で聞き入るのでした。
 光照のこれまでの体験は、彼らにとって、とても壮絶で想像もできない話ばかりで
 目を潤ませる人も多くいました。
 どんなささいな悩みでも親身になって話を聞き、心に寄り添う光照は、
 世代を超えて『光照先生』と心から慕われていきました。

 若い人達と接するうち、ご年配の方とはまた違う悩みを抱えていることに
 気付かされるのです。
 友人関係のこと、恋愛のこと、それぞれ年齢によって悩み事は違うけれど、
 みんな救いを求めていることを改めて感じるのでした。
 そして、若い人達が親交を深められるようにと、集まる機会を作ったのです。

 その集まりを[青年部]と名付け、男女合わせて20名ほどで、
 毎月第3日曜日に活動が始まりました。
 ある日の青年部の朝、若い女性達に光照が
 「今日は、一緒にお料理しましょう」と、声をかけていました。
 将来的な花嫁修行のような、お料理をする機会を設けたのです。

 この日は、みんなでおでんを作ることになりました。
 材料など必要な物は全て、光照が準備をし、温かい雰囲気の中、始まりました。
 おぼつかない手で包丁を持っている娘さんに優しく
 「かしてごらんなさい」
 と言うと、光照が大根の皮を剥き始めました。
 「わぁ〜すごい!」
 鮮やかに包丁を滑らせ、手際の良さを目の当たりにし、みんな思わず声を
 上げるのでした。

 「こういう風にすると、味が染み込みやすいし、美味しく頂ける秘訣なのよ」
 全ての料理過程に光照の心配りと愛情を感じるのでした。
 もちろん、出汁の取り方など基本的なことから優しく教えて下さったのです。
 娘さん達は口々に言うのでした。
 「これまで頂いてきたお料理がどれも美味しかったのは、
 こういった先生の真心がいっぱい詰まっていたからなのね」
 「そうね。光照先生は、いつも食べる人のことを一番に考えていらっしゃるからだわ」

 単なるお料理を教えるだけではなく、料理を通して少しでも真心を養い、
 人としての生き方を学んで頂きたいと思っていた光照だったのです。
 回を重ねるにつれ、誰かのために心を砕き、人のことを想う心が少しずつ
 養われていくのでした。

 青年部で活動していくうち、信者のお誕生日の月には、光照に相談し、
 個人個人の御霊示を観音様より、直々に頂くことができるようになっていきました。
 こうして御霊示を頂いた若い人達は、ただひたすらに観音様のお言葉を信じ、
 しっかり胸に留めて行じていくのでした。

 
-次章へ続く-

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