御開祖物語
乾勲 久子
 [第二章]
 月日は流れてもご主人のことを忘れられず、
 悲しさに打ちひしがれる久子でした。
 見かねた久子の妹が実母に相談し、久子を東京の
 知り合いのお寺へ連れて行くことになりました。
 そこの住職さんから、久子は信じられないことを
 聞くのです。
 「貴方の後ろに亡くなったご主人がおられますよ」
 最初、久子は驚きで言葉が出ませんでしたが、
 しばらくすると
 「やっぱり!!亡くなっても私のそばに居て
 くれたのだわ!」 と次第に嬉しい気持ちで
 いっぱいになって行きました。

 
 すると今度は「何故このお坊さんに見えて、私には見えないのか!?何故・・・
 どのような修行をすれば私にも主人を見ることができるのだろう・・・
 主人に会いたい!!」
 という想いでいっぱいになり、これまで以上の水行や、お百度参りをするように
 なっていきました。

 すると、不思議なことが起こり始めたのです。
 ある日、朝起きたら何かを書いた紙が散らばっていました。

 「誰が書いたのかしら??」 久子は不思議に思いましたが、心当たりがありません。
 「もしかして自分が。。」 と思い、試しにその晩、枕元に紙と鉛筆を置いて寝てみました。
 翌朝、目覚めると用意していた紙に、やはり何かが書かれてあるのです。
 よく見てみると、そこにはいろんな仏様の言葉が書かれているではありませんか!
 「確かに自分の字ではあるけど・・・」 聞いたことも書いた覚えもない言葉に
 驚きを隠せない久子でした。

 実は、これが『自動書記』であるということが後々明らかになります。
 そして、文字で書き残すだけでなく、やがては仏様の御教えを口から
 直接発するようになり、これこそが「観世音菩薩様から頂いたお言葉」で
 あるということが、わかるようになるのでした。

 久子は生きていく為に、二人の息子を育てる為に、働いて生活の糧を
 稼がなければなりませんでした。
 ある日、あるご縁で同じ未亡人の女性と出会い、神戸でオーダーメイドの
 紳士服店を開くことになったのです。

 手先がとても器用だった久子には天職でしたが、女手ひとつで戦後のこの時代に
 二人の息子を育てていくには、一日も休めず、寝る時間も惜しんで、
 死に物狂いで働き続けなければなりませんでした。
 働いて働いて倒れそうになりましたが、そんな時
 「私の後ろには主人が居てくれている!!」 と思う気持ちで頑張る久子でありました。

 そうこうしながらも、ようやくお店が軌道に乗り始めた時のことです。
 いつものように縫い物をしていた久子の前に一人の男性が現れ、
 声をかけられました。
 久子は「え!?貴方?」 ずっと会いたいと思っていた主人が目の前に
 現れたのかと思い驚きました!!
 それはお客様の一人だった乾さんでした。

 開店以来、客として来店していましたが、なかなか久子に声をかけられず、
 毎日お店の前を通るたびに久子の姿を見ては、ただ見守るのみでした。
 自分のことを顧みず子供達のために、必死に頑張っている久子の姿に
 心ひかれるという理解者でもありました。

 それから間もなく、乾さんからプロポーズされました。
 お互いをよくわかり合う関係として、一緒に生きて行きたい!
 と思っていた久子でしたが、すぐに返事ができませんでした。
 もちろんとても嬉しかったのですが、亡くなった夫のこと、多感な時期の息子達の
 ことを思うと悩まずにはいられなかったのです。

 そんな時、亡き祖母からの言葉が”ハッ”と胸に光を差し入れて下さったのです。
 『元は一つ、何にも別々のものでは無い』 との一言でした。
 その言葉は私の囚われの心、すなわち執着心を離し、
 乾さんとの再婚を決意して行くのです。

 息子達にも悩んだ末、意を決して話をしました。
 ところが、二人の息子は全く反対することなく
 「お母さんが決めたことで、幸せになれることなら、僕たちは大賛成!!」
 と、とても喜んでくれました。

 久子37歳の時に再婚。乾さんとの新しい人生の始まりです。

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