御開祖物語
乾坤の道 上
 [第十四章]

昭和55年
季節は変わり、青く澄んだ空を赤とんぼが
飛びかっています。

真の『人が救われる道』を悟った浄照の
心の中には、いつも自分が果たすべき
使命とは…
「まず自分自身が法の器とならなければ人を
救うことなんてできない。
自分が観音様の御手足となって使命を
果たすべく、導きを受けられるもっと大きな
器とならなければ」

 と、何度も自分自身の心に問いかけ思考していたのです。
 この頃浄照は、現世と霊界を自由自在につなげる受け皿となっていました。

 秋も深まった夜のこと。
 虫の声も鳴き止み静寂の深夜2時。
 いつものように一時間…二時間…深い瞑想に入り呼吸に意識を集中させ、
 無我の境地となった時、スーッと心に入ってきました。

 『神は光なり。汝、人間界に師を求むることなかれ。師は汝の内奥に在り。
 これより光照と名乗るべし。世の光となり、法器となりなさい。』
 と、啓示を受けたのです。

 観音様を信じきっている浄照は、残りの人生の全てをかけて寿命ある限り、
 受けた啓示の通りただひたすらに法の道を歩む覚悟を決めました。

 この日より法名を【智光院光照】と改めたのです。

 第二日曜日の午後、御影の家ではまた法会が開かれていました。
 光照と改めてから、法話もますます熱が込められ拝聴する人々の
 心を動かしていました。
 更に来訪者も増えていたのです。

 法会終了後も個人的に悩み事を相談する人も多く、
 その都度一人一人に時間を忘れて親身に話を聞いてあげました。

 「ようこそ、いらっしゃいました。どうなさいましたか?」
 光照のこの言葉は誰もが心安らぎ、仏様のように大きく包み込まれるのでした。
 この日も以前よりお付き合いのあった中山氏が血相を変えて
 訪ねて来られたのです。

 「先生、聞いて下さい!私の会社が乗っ取られそうなんです。
 膨大な借金を背負うことになってしまって、倒産寸前なんです。
 このままでは一家心中になってしまいます。何とかならないでしょうか」
 と、中山氏は悲愴な面持ちでこれまでの経緯を包み隠さず語り始めました。

 「それはそれは大変でしたね。本当に困りましたね。
 私にできることは何でもお力添えさせて頂きますからね。
 お辛いでしょうが必ず解決の道がありますよ。
 こんな時こそしっかり仏様におすがりしましょうね」
 「先生、ありがとうございます。
 しかしながら私は何も悪いことはしていないのに、
 どうしてこんな辛い想いをしなければならないのでしょうか?」

 光照は優しく、そして力強く中山氏に語りかけました。

 「中山さん、偶然はないのですよ。
 自分が蒔いた種は、必ず自分が刈り取らねば許されない道理があるのですよ。
 わかりますか?」
 「えっ、そうなんですか?」
 「巡り巡って今、自分の目の前に現されたということなんですよ」
 「はぁ、そうなんでしょうか…」

 愕然としながらも、その言葉を信じて、中山氏は自分自身の心を見つめ直し、
 至らぬところを反省し改悔しました。

 すると徐々にお心が明るく開け、会社への執着心が無くなった時、
 中山氏の悪縁が解けたのでした。
 会社の権利を狙った人は不思議と離れて行き、
 考えられない程の安い家賃で工場を貸して下さる人が現れたのです。
 そして、有り難いことに観音様に会社の名前も付けて頂き、
 再びお仕事ができるようになりました。
 お陰でこれまで以上に会社は繁盛し、その後も中山氏は信仰を
 お仕事の中に生かされ、同じように悩んでいる方々を導いて
 行かれました。

 また、ある方は
 「先生、まことに不思議なことがありまして、聞いて頂けますか?
 実は私の家の奥座敷にある大きな仏壇が、三度も丸焼けになりましてね。
 それが仏壇だけが焼けるんです。
 いつまた焼けてしまうかと思うと恐ろしくて、夜も心配でゆっくり眠れないんです」

 光照は早速その方に御加持をしてあげました。
 すると、恐ろしい顔をした牛が二頭現れては消えていったのです。
 「あっ」と思い、
 すぐにその方に詳しくお話を聞きました。

 「実はうちは先祖代々の農家でしてね、
 十年程前に飼っていた二頭の牛が次々と怪我をしてしまったんです。
 そのため田畑を耕作することができなくなって、仕方なく屠殺場へ
 連れ渡してしまったことがあります」
 と淡々と話されました。

 後日、霊視をして先祖の因果関係を調べたところ、
 先祖に原因があることがわかったのです。

 「この家は百年程前に大火事で全焼して、家族の一人が亡くなっています。
 その人が生まれ変わって牛となり、子孫となって現在の当主に飼われたのです。
 でもその当主は自分の先祖とも知らずに毎日田畑で働かせて、
 その上殺してしまったのです。
 目の前のお仏壇だけが何度も丸焼けになったのは、火炎地獄の中で、
 もがき苦しむご先祖の姿だったのですよ」
 「なんと言うことでしょう。
 長い間そんなご先祖の苦しみも気づかなかったなんて…」

 「人は死んで肉体はなくなっても、霊魂は苦しいと思う念でこの世に現れるのですよ。
 その先祖を苦しみから救って成仏して頂きたいですよね?」
 「はい、もちろんです」
 「子孫が家を清めれば、悪縁は浄化され消えていきます。
 不幸は自然と消えていくのですよ。
 先祖の不浄を子孫が清める必要があるんです。
 だから先祖供養が大事なんですよ」
 「なるほど、そうなんですね。わかりました。
 ではすぐ今日から始めます。教えて頂いてありがとうございました」

 その方の表情がみるみるうちに明るくなり、早速言われた通り
 先祖供養をされるようになりました。
 その後、ご家族は一度も仏壇が焼けることなく、毎日安心して暮らされたのです。

 このように少しずつ光照の想いが通じ、
 ますます多くの人から慕われ懇願されました。

 「幸せになる方法をもっと聞かせて下さい」
 「永遠に生く以外の教えも学びたい。そしてその教えを会得したいです」
 「観音様のお言葉を聞きたいです」
 など次から次へと、そう言った声が上がってきたのです。

 「こんなにも多くの方々が望んでいるなんて。
 ならばこの方々の救いとなるように、私のできる限りのことをさせて頂きたい。
 そうだわ、もう一度ご霊本を世に出させて頂きましょう!」

 そう決心した光照は再びご霊示を整理し、まず皆が求めている教えを
 優先的にまとめていきました。
 先の初版の経験を活かし、大きな弊害もなく観音様のご加護のもと、
 滞りなく完成しました。

 本のタイトルは…
 実は以前から光照は、ご霊本のタイトルを既に決めていたのです。

 『天地の道理を知ることなり。人が救われるのはすなわち乾坤の道なり。』
 観音様のお言葉通り、天は天の道、地は地の道、
 宇宙の理(天の道)を地に表す(人の道)という意味の【乾坤の道】と名付けました。

 こうして多くの方々の要望と光照の強い想いを込めて、昭和56年12月
 『乾坤の道』(上巻)が発行されたのです。

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