御開祖物語
浄照
 [第十三章]

 昭和55年の春。

 浄照は66歳になっていました。
 白髪もちらほら目立つように
 なってきましたが、
 年齢のわりにはとても若々しく
 見えるのでした。


 人に対してはもちろんのこと、動物や木々、お花そして小さな虫に至るまで、
 全てに対して愛情を注ぎ誰からも慕われている浄照でした。

 六甲山の麓にある御影の自宅には、春の爽やかな風が桜の花びらを運び、
 庭一面ピンクの絨毯のように美しく敷き詰められています。
 浄照はこの光景が大好きでした。

 そんな自宅にはこれまで以上に、
 『祈祷して病を治してもらえる』
 『前世をみてもらえる』
 そういった霊能者のような噂が広がり、遠方からも浄照を頼って多くの人が
 訪ねて来ては功徳を得ようとされていました。

 また、昨年自費出版した『永遠に生く』が口伝えに広がり、知れ渡っていきました。
 「是非販売して欲しい」という問い合わせが数多くあったのです。

 浄照は毎日訪ねて来られる人を迎え入れ
 「何とかこの人たちが苦しみから解放され、心が安らぐようになって頂きたい」
 悩みが少しでも軽くなるよう親身に寄り添い、祈祷しては霊障的な身体に
 起きている不調や精神的な悩みを取り除くように努めていました。
 そして、清々しい表情で喜んで帰る人たちを見て
 「私を頼って下さることはとても有り難いこと。
 でも私は本当にこの方々のお役に立っているのかしら…」

 「これまで人のために、と思ってやってきたことは実際にはその人を救うことには
 なっていないのかも知れない。
 お祓いをして一時的に病が治ったとしても根本的なことが
 解消されなければ、また同じことになってしまうわ。」
 現に病気が治り、感謝して帰られてもそれは一時的なもので、
 またしばらくすると別の悩みで訪ねて来られるのです。

 「人の苦しみは自分自身に原因があるのです。先祖は根、自分は幹、
 そして子孫は葉です。子孫の幸せを願うならば自分自身を清め、
 まず第一に根っこである先祖を清浄にすること。
 それが本当の幸せにつながるのです。」
 浄照は幾つもの苦しみを経験し、霊界からの御教えによって、
 ようように『人が救われる道』を悟ったのでした。

 「こんなにも救いを求めている人が多いのですから、
 私は観音様のお使いとして此の世の浄化を願い、
 観音様の御手足となってお役に立たせて頂きたい!」
 浄照は、より一層強い意志を固めるのでした。

 そんな時です。
 長年お付き合いのあった方から懇願されたのは。
 「浄照先生、もっとたくさんの人に説法をして頂き、勉強会を開いて
 もらえないでしょうか?お世話は私達がしますから」
 「えっ、私にそんなことができるのかしら…」
 自信はありませんでした。
 が、お釈迦様のなさったことを思い出したのです。

 「お釈迦様は王子としての地位を捨て、悩み苦しんでいる人々に生きる意味、
 本当の幸せとは何かを質素な布一枚を身にまとい、
 その御足でインド中を巡られました。
 そして、ご入滅されるまで命懸けて人々が救われる道を伝えていかれたのです。
 ならば、私も末弟子としてこの身を使わせて頂かなければ」
 浄照は決心し、承諾しました。
 これが法会の始まりとなったのです

 早速、次の日曜日です。
 「ピンポーン」
 インターホンが鳴ると愛犬のラーチがいち早く庭に飛び出して、
 垣根の間から愛くるしい表情で来訪者を出迎えてくれるのでした。
 そんなラーチはいつしかみんなの間で人気者になり、
 来訪者の心を和ませていました。

 インターホンが次々と鳴り、10人余りの人が訪ねて来られたのです。
 それは回を重ねるごとに人数は増えていき、
 1階の和室は30人以上の人でいっぱいになりました。
 そのうち部屋の中に収まりきれず、ゆったりと座って頂けるようにと
 庭に簡易式のお部屋を造りました。
 しばらくすると、そこもいっぱいになるほどで、気がつけば
 およそ50人もの人が集うようになっていたのです。

 慣れない口調ではありましたが、時には力強く、
 また優しく語りかける浄照の説法は、まるで溢れる湧泉のように
 部屋の隅々まで浸透していきました。
 ひと言ひと言がみんなの心に染み渡り、
 静かに説法を聴いている人達はあたかも仏様の
 大きく温かな御手の中に抱かれているがごとく、思わず涙する人も
 少なくありませんでした。

 やがて、自宅だけでなく神戸の北区の方からも
 「是非こちらでも説法を聴かせて下さい」
 そんな強い要望があり遠路、足を運び一人一人の心に届くように
 法話をしていく浄照でした。

 「その人その人に見合うように存分に発起させて頂くことが私のお役目。
 『永遠に生く』に掲載されていないご霊示を
 もっともっと世の中の人にお伝えしたい!」
 この想いが抑えきれない浄照でした。

 目次     第十四章へ     著書の紹介

TOP