御開祖物語
書籍永遠に生く
 [第十二章]

昭和54年。
夫が霊界に逝って一年が経とうと
していました。
亡き夫の部屋には生前よく読んでいた
仏教書や千枚以上のレコードがきちんと
書棚に並べてありました。

そこには夫の姿はありませんでしたが、
浄照は寂しいとは思わなかったのです。
ある日、夫の遺品を整理しようと部屋に
入った時、書斎の引き出しから何やら
大量の紙が出てきました。

 「あら、何かしら?」

 手に取って見てみると、そこにはたくさんの観音様のお言葉、
 御教えが書かれていました。

 「あっ!これは随分前の…寝ている間に無意識に書いたものだわ。
 こんな所にも入っていたなんて…」

 自動書記のお諭しを夫が、大切に保管してくれていたのです。
 その後も浄照は日常茶飯事、昼夜問わず観音様や夫から意識のある時に
 ご霊示を受けていました。
 また、観音様と通じる波長を合わせば、そのお応えを頂けるようになっていました。
 それらを走り書きしたメモや紙が山ほどあったのです。

 このたくさんのご霊示はご神仏様からの啓示で、多くの人たちに
 人の道や天地の道理を諭すものでした。
 これらを読み返しているうち、心の底から一筋の想いが湧き上がってきたのです。

 「あぁ、今、自分がこうして在るのは多くの方々のお陰です。」
 そう思うと感謝の気持ちでいっぱいになりました。

 「私と同じような悲しみ苦しみを受けている方々の手助けをさせて頂きたい。
 ……そう!天の声を私一人が秘めるべきではないわ!観音様から頂いた
 ご霊示をたくさんの人の為に、まとめてお伝えさせて頂きたい!」

 浄照はご霊示をまとめた本を自費出版する決意をしました。
 そして、早速行動を起こしました。

 大量のご霊示を集め一つ一つ読み返し、
 「どれを載せましょう。どのご霊示がわかりやすいかしら?」
 膨大な数の中から厳選していきました。

 選んだものを内容ごとに分け、手作りの千代紙を貼った空き箱に
 順次入れていきました。
 ノートにぎっしりと書かれた物や、小さなメモに走り書きされた物など様々でした。
 チラシの裏に書かれた物はインクがにじみ、とても読み辛いものもありました。

 次に誤字脱字がないか確認し、解りづらい物は辞書で調べ訂正していくのです。
 そして一言も余すことなくご霊示を清書していきました。
 それは根気と信念が必要な作業でしたが、浄照は希望と慈悲の心で
 満ち溢れていました。

 「ワンワン!」

 普段は大人しい愛犬が吠えながら走り寄って来るのです。

 「どうしたの?」

 ふと、台所の方に目をやると火にかけていた、やかんが
  “ピーッ“と音を鳴らし沸騰していました。
 おまけにすっかり愛犬のご飯をも作るのを忘れていました。

 「ごめんね!おやかんのこと、知らせてくれてありがとう。すぐご飯を作るわね。」

 時には疲れてうたた寝してしまい、せっかく清書した紙に
 インクを付けてしまうこともありました。

 当時はパソコンはなく、ワープロが普及し始めた時代でしたが、機械に頼らず
 自分で全て手書きしていたのです。
 そして、数十日かかってやっと出来上がった原稿を何度も何度も読み返しました。

 いよいよ製本する段階になってきましたが、さすがにここからは
 素人ではできません。
 印刷会社を電話帳で調べては、自ら足を運びました。

 「お忙しいところをすみません、この度これを自費出版したいのですが、
 お願いできますか?」
 「自費出版ですか…?おいくらで販売されますか?」
 「いえいえ、これは販売は致しません。少しでも世の中のお役に立ちたいと
 願って出す本ですから」
 「それは無理ですね!」
 「えっ…そんな…」

 浄照は諦めず、何軒も回り、断られてはまた違う会社に出向いて
 頭を下げ続けました。
 しかし、引き受けてくれる会社は見つかりませんでした。
 当時は利益が出ない本を出版することは、非常に難しいことだったのです。

 「これでは出版ができない。でも私は絶対に諦めるわけにはいかないわ!」

 そんな時でした。
 一本の電話が鳴り、受話器を取ると懐かしい俳句界の人からでした。

 「えっ?本当ですか?ありがとうございます。」
 それは、知り合いの口伝えで俳句界の方から、ある出版会社を紹介して頂ける
 という電話でした。
 これも間違いなく観音様からの御手配だったのです。

 早速その会社に出向き、紹介して頂いた担当者と会いました。

 やはり、こちらでも最初は…
 「自費出版して販売はしないのですね?かなりお金がかかりますよ。」
 「もちろん、それを承知の上でお願いしたいのです。」
 「なぜそこまでして…?」
 「名利のためではないのです。私の想いと感謝の気持ちを込めた
 本にしたいのです。そして世の中のお役に立たせて頂きたいのです。
 どうかお願いします!!」
 「……わかりました。そういうことでしたら、是非あなたのお力添えを
 させて頂きます」

 ついに、浄照の純粋な熱意が担当者に伝わり、協力して下さることになりました。
 そうと決まれば、トントン拍子に出版に向けて事が進んでいきました。

 まず、書籍の大きさ、レイアウト、ページ数、冊数、そして本体表紙の
 色などを決め、見積もりを出して頂きました。
 中でも浄照がこだわっていたのが、本の表紙の色や素材でした。
 たくさんあるサンプルの中から浄照が好きな紫系の色をいくつか選び、
 またその中から温かみのある赤紫色を選びました。
 そして生地は布張りの高級感のある物に目が留まりました。

 「これはご霊示を載せる書物にぴったり!私のイメージ通りだわ。
 これならしっかりしているし、持った感触がとてもいいわ」

 ずっと後世に残していきたいという浄照の想いが込められていました。

 その後も何度も足を運び、打ち合わせをしていきました。
 本作りが進んで行くごとに、浄照の心は躍り、期待がどんどん膨らんでいくのです。

 そして、注文してから約2カ月の時を経て、
 いよいよ待ちに待った本が完成しました。
 出来上がった一つ一つのご霊示が心に染み入り、
 感謝せずにはいられませんでした。

 『死してなお生きる』魂の存在になっても死も生も同じこと。
 肉体がなくなっても魂は永遠に生きていく。』
 浄照の想いが込められた尊い『永遠に生く』という一冊の本が完成したのです。

 そしてこの本は非売品として人々に手渡され、多くの人の救いとなるのでした。

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