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加美っ子仏教53号(平成19年1月1日)
時には正座を!
      金蔵寺 東野正明


 初七日の逮夜のことです。お経が終わったあと、ご遺族の方を振り返り、「どうも失礼いたしました。」
と挨拶をしますと、20代の若い男の人がもじもじしているのに気がつきました。おばあさんが亡くなら
れたのですが、お父さんはと見ると正座をしておられましたが、すぐにあぐらをかかれました。お母さん
は正座のままでした。若い男の人はお孫さんでしたが、辛抱して正座をしておられました。
 あまり足が痛そうなので、「いいから、崩してくださいよ。」と言いますと、足がしびれているので崩し
にくそうでした。
 「立てるときはこうするのですよ。」と言って、両かかとを立て腰を落ちつけるように言いましたが、
これもなかなかできないようでした。
 それ以来、送っていただく車の中で、お孫さんとお話しする機会が増え、正座についても色々と
聞いてみました。
 小さいときから、正座をする習慣はほとんどなかったそうです。食事の時は畳の上だとあぐらを
かき、最近では椅子席が多くなったそうです。
 「今まで、どんなときに正座をしたのかなあ。」と聞いてみますと、しばらく考えて、
 「柔道の時、正座でした。」
 「それ、高等学校の時ですか。」
 「いいえ、中学校の時です。」
 「ふうん、中学校で柔道やるの。僕らの時代は高等学校の時やったけどね。」
 「はい。中学校の時に柔道がありました。高等学校の時もありました。」
 「剣道は?」
 「部活ではありましたけど、授業ではなかったです。」
 「剣道は道具代が高くつくかもしれないね。」
 「高等学校を卒業してからは、正座したことなかったです。」
 「ええっ、おばあさんが亡くなるまで。ほんま? ああ、そう。そうすると、学校の柔道の時間は貴重
やなあ。」
 「そうですね。」
と答える彼は、四十九日間、逮夜ごとに私が新仏さまの仏壇でお経を拝む時間、20〜30分の間、
私の後ろでずっと痛みをこらえ、しびれをこらえながらも正座で通したわけです。
 「慣れないのに正座で通して、よく頑張りましたね。偉かったですよ。」
 私は、彼が正座で通したことをほめましたが、正座で通した彼自身の感想をついに聞かずじまいに
終わりましたし、私が正座の効用について述べることもしませんでした。
 しかし、彼の表情を見ますと、あぐらをかこうと思えばかけたのに、正座で通した満足感がこみ上げ
てくるような様子でした。
 「せやけど、中学校の時、夏期講座で正座はしたんとちがうかなあ?」
 「それ、何ですか。」
 「毎年、8月の1日2日と中学生を集めてお経を習ったり、話を聞いたりする中で、正座をするときも
あるんやけど。」
 「いえ、僕らの時は、そんなん、ありませんでした。」
 「いや、違うがいな。仏教会が中学生全員に手紙を出して知らせるんや。8月の1日と2日の2日間
やけど。来なかったの?」
 「それ、夏休み中ですね。部活があったし・・・。」
 「それ、今でもあるんですか。」
 「ありますよ。毎年8月1日2日はどっかのお寺で中学生の夏期講座をやっていますよ。」
 ちなみに、平成18年は、北部は清水の雲門寺、南部は多田の諦願寺で行い、合わせて約百名ほど
参加がありました。
 ところで、現代の日常生活を考えると、椅子に座ったりあぐらをかいたり膝を崩すことが多いのでは
ないでしょうか。
 私は、仕事がら正座をすることが比較的多いのですが、正座ということについて考えてみたくなりま
した。
 インターネットで「正座」をキーワードにして検索してみました。フリー百科事典『ウィキペディア
(Wikipedia)』の正座の項には次のように書いてありました。
 「(正座) 正座(せいざ、元の用字は正坐)とは、日本の伝統的な、正しい姿勢での座り方である。(中略)
(作法) 正座をするためには、まず始めに床にひざまずき、臀部をかかとの上に載せ、残りの足を折り
たたんで、同じく臀部の下にかかとがくるようにする。手は控え目にひざの上かまたは腿の上におき、
背中をまっすぐ伸ばして座る。伝統的に、男性はわずかにひざを開け、女性はひざを閉じて座る。(中略)
 また、正座する際、足の親指はしびれを防ぐために時々重ねる場合がある。(中略)
 あぐらをかいて座ることは正しい座り方ではなく、くだけた座り方とされ、公式の場では不適当であると
されている。しかしお年寄りなど正座が難しい場合は許容される場合が多い。
 正座をすることは、いくつかの伝統的な日本の芸術(茶道、日本舞踊、武道など)の必須の作法である。
洋式家具の増加している現代では必ずしも必要ではないにもかかわらず、正座は日本人の伝統的な座り
方として受け継がれている。」
 次は、「シンプルインテリアコーディネートエッセンス」というホームページの中の「正座のすすめ」です。
 「あぐらを長時間続けることは、腰にかかる負担が大きくあまり良くありません。その点、正座は腰に
負担がかからず、良い姿勢を保つことできるのでおすすめです。
 正座を苦手とする人が最も気にするのは“足の痺れ”だと思います。これば、太ももとふくらはぎが圧迫
されることで血液の流れが妨げられることで起こる現象です。これは、正座に慣れてくると自然と無く
なっていきます。
 気軽に正座を取り入れるには、「正座椅子」と呼ばれるものを使用する方法があります。これは、椅子
の下に足を入れることが出来る構造になっている座椅子で、座ることで自然に正座の姿勢が保てる便利
なアイテムです。
 正座をすると自然と気が引き締まり、勉強や仕事などに集中しやすくなります。堅苦しい思いをせずに、
正座が当たり前になるようにすると良いですね。」

 引用が多くなりましたが、なるほどとうなずける内容です。正座は、単に伝統的な正しい座り方という
だけでなく、心や体にもよいものであるということです。 
 皆さん、時には正座をしてみませんか。たとえばピチッとしたジーパンをはいていると長く続かないかも
しれません。また、そうでなくても慣れないうちはつらいかもしれません。しかし、そのハードルを越えると、
新しい自分と出会うことができるかもしれませんね。

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