桜の樹の下で





「ハァ!?何でそうなるんスか!!?」


という俺の意見は、不二先輩の笑顔で一蹴され・・更に・・



「ウム。それはいい提案だな。桃と仲直りするには効果的だ」

「おーおチビっ!良かったじゃん!これで全て解決だにゃ!」



不二先輩の意見に賛同した2人によって決定事項になった。

結果・・・



「英二先輩に言われて来たんだけどよ・・・こんなとこで話って何なんだ?」



目の前に桃先輩がいる。

頭をかきながら、気まずそうに俺を見た。



「もうみんな帰ったぞ・・」



何て言うか・・英二先輩の作戦通り・・って事なんだろうけど・・



「そ・そうっスか・・・」



この雰囲気どうすりゃいいんスか!?

・・・くそっ!やっぱ納得いかない!何で俺が・・・

だいたいさ・・もう付き合ってるじゃん!

それに今回の事だって桃先輩が勝手に気にして・・・それでこんな・・・・













「気持ちの問題。要はこれが今回のポイントだよね」



告白しよっか?と軽く俺に言い放った不二先輩は青学タイムスを指差した。



「じゃあそれを逆手にとればいいんじゃない?

 越前がここで告白して桃にOK貰ってハッピーエンド」

「でもそんなの俺・・」

「後悔してるんでしょ?会いたくないって言ってしまった事・・・

 教室には来て欲しくないけど、会いたくない訳じゃないんだよね」

「ふ・・不二先輩・・」



なんでそんな事まで・・・!?



「じゃあさ!じゃあさ!今回おチビが告るとして、どの桜の木ですんの?」

「それはだな・・・校舎からテニスコートに伸びる道があるだろ」

「俺達が普段使ってるやつ?」

「そうだ。その道に並んで4本の桜の木が立っている。それが噂の桜だ」

「へ〜全然知らなかった。つうか・・4本って多すぎね?」

「それが噂たる由縁だよね」

「その通りだ不二。俺が調べた所によると、場所はあそこで間違いない。

しかし木を特定するとなると話は変わる。一番右だという奴もいれば、左だという奴もいる。

もちろん真ん中の木だという奴もいる」

「それってどういう事?」

「それはね英二。どの桜の木で告白しても成功するし、失敗もするって事さ」

「えっ?でもそれって・・」

「そう。告白して成功すればそれが噂の桜。失敗すれば他の桜だったって事になる。

だが・・失敗した話は流れない。成功した時のみ流れる。その時々で違う木だがな」

「そうなんだ・・・じゃあこの記事の話はたまたまなんだ・・・」

「そういう事。だから本当はそんなに気にする事もないとは思うんだけどね。

 今回はそうも言ってられないから」

「そっか・・わかった。じゃあさどの木でもいいとして・・どうすんの?」

「そうだな。今回はこの記事が元になってるから・・・・」

「ちょっ!ちょっと待って下さいよ!勝手に話進んでますけど、ホントにするんスか?」

「あたりまえじゃない越前。

今までの流れで今回は越前が折れなきゃいけないって事はわかったよね」

「そっそれは・・」

「じゃあそういう事で、乾続けて」

「うむ。この越前の寝ている桜は、この後ろの風景や角度からしても・・

校舎から2番目の桜の木という事がわかる」

「てことは・・2番目の木で告るんだな!」

「そういう事だ。菊丸」

「よ〜しっ!そうと決まれば、桃ちんは俺に任せてよ!

部活が終われば必ずその桜の木の前に行くように言うからさ」

「うん。じゃあ桃は英二に任せよう。あとは越前頑張ってね」

「が・・頑張ってって・・そんな無責任な・・・」

「じゃあ僕が桃と話そうか?」

「いやっ!それはいいっス・・・自分で何とかします」

「大丈夫だ越前。言い方さえ間違えなければ、100%の確率で仲直りできる。頑張れ」

「そうそうおチビ!俺達がついてるからさ!ここはビシッと決めておいでよ!」



・・・・・・みんな好きな事言って・・・ホントは楽しんでんじゃないの?











「おい!越前。何ずっと黙ってんだ?呼んだのはお前だろ?」



桃先輩が何も話出さない俺を不審がる。

そんな事はわかってたけど、俺だってどう話出していいか・・・

迷ってるうちに桃先輩が俺に背中を見せた。



「話がないんなら俺、帰るぞ・・」

「ちょっ!ちょっと待って下さいよ!」

「何なんだよ?ホントに話なんてあるのか?」



桃先輩が眉間に皺をよせて振り返った。

ああ・・くそっ!

今回は俺が折れなきゃいけないんですよね?

ホントにそうなんですよね?不二先輩?

だったら・・・



「桃先輩・・この木・・何だかわかる?」

「ハァ?この木だぁ?」



これはあんたが言ったから言うんであって・・

決して俺が後ろめたくて折れたんじゃないっスから・・



「わかんねぇよ。この青々とした木に何があるんだよ?」

「この木・・桜なんスよね」

「はぁ?桜って・・?」



決して・・乾先輩や英二先輩に乗せられた訳じゃないっスから・・・



「もっと付け加えるなら・・ここが俺が寝てた木なんスよ」

「あっ・・そういえば・・この木・・・」



桃先輩が木を見上げる。そして俺へと視線を戻した。



「お前・・・」

「一度しか言わないっス・・・」

「わっ!ちょっと待て!お前それ・・」

「俺と付き合って下さい」

「わーわーわー言いやがったな!」



桃先輩は顔を真っ赤にして照れている。

俺もきっと・・・

だけど今はそんな事、気にしてはいられない。



「どうなんスか?」

「どうって・・そんなのOKに決ってんだろ?っていうか・・

 もう俺達付き合ってんじゃねぇか!」

「そうっスよ。でも桃先輩この木の事、気にしてるんでしょ?」

「そっそりゃあ・・気にしてたけどよ・・・」

「じゃあいいじゃん。で、どう成功した気分は?」

「い・・いいに決ってんじゃねぇか・・・」

「そう。良かったじゃん」

「お前・・他人事みたいに・・・」



桃先輩が「ああー!」と叫んで、頭をかいている。

混乱してるみたいだ。

でもさホントに俺が1番いいたかった事は・・・



「あと良かったついでに言うけど・・昼言ったアレ・・会いたくないっていうの

 教室には来て欲しくないけど・・・別のとこだったらいいから」

「・・・えっ?今なんて・・」



桃先輩の動きがピタッと止まった。

俺を見下ろす。



「だから別に会いたくないって意味を、そのまま受け止めないでいいって事」

「越前・・・」

「じゃあ。そういう事で、もう要は済んだから・・帰りましょうよ・・」



これで誤解は解けた。

桃先輩も少しは考えてくれるよね。

昼休み・・教室じゃなくても、会えるところはいっぱいある。

それに・・桜の精だか何だか知らないけど・・・

この木の噂を桃先輩が信じるなら、これできっと不安もなくなる筈。

要は気持ちの問題。

やっぱちょっとあの3人の先輩に乗せられた感じはするけど・・・

英二先輩でいうとこの・・・これで事件解決って事だよね。



「待てよ」

「えっ?」



話は終わったとばかりに、桃先輩に背中を向けて校舎へと一歩を踏み出した俺の腕を桃先輩が掴んだ。



「これでお前を帰したら・・俺の立場ってもんがなくなるじゃねぇか」

「立場って・・別にそんなのどうでもいいじゃん。話は終わったでしょ」

「いいや。終わってねぇ。俺は、全然っ!終わってねぇ!」



桃先輩が力いっぱい俺の腕を握る。

俺は顔を顰めた。



「痛いっスよ・・もう・・いったい何なんスか?」

「だから・・俺にも言わせろよ」

「はぁ・・?何を?」

「ここで言うって言ったら、告白に決ってんだろ!?」



こっ・・告白ぅ!?



「はぁぁぁ!?それは今俺が・・」

「わかっちゃいね〜なぁ。わかっちゃいね〜よ。それが立場ねぇって言ってんだろうが!」

「だから別に立場なんて気にしなくても・・・わっ!!ちょっと・・何するんっスか?」



っていうか・・こんな事何度も言い合うもんじゃないでしょ!


そう思ってる俺を桃先輩はいきなり引き寄せて、桜の木に押しつけた。



「越前・・・」

「か・・顔が近いっスよ」

「好きだ。付き合ってくれ」

「それは・・だからさっき俺が言ったじゃないっスか・・・」



もう何なんだよ。この人ホント人の話ちゃんと聞かないんだから・・・



「俯くなよ。マジで答えてくれよ」



マ・・マジって・・何なんだよ。

ったく・・でも・・俺もこの人の真剣な声に弱いんだよな。



「・・OKっスよ・・・」

「越前。ここは俺も好きです・・だろ?」

「はぁぁぁ?あんただってさっきOKだって言ったじゃん!」



顔を上げて睨むと、桃先輩とおもいっきり目が合った。



「やっと上・・向いたな」

「なっ!?」



くそっ・・!やられた・・・・!

まんまと桃先輩に乗せられた。


俺はまたそのまま俯こうと顎を引いた。



「俯くなよ。俯いたら負けだからな」



負け・・?

こんなのに勝ち負けなんてある筈ないじゃん。

そう思うのに俺はその言葉で俯けなくなった。もう一度顎を上げて桃先輩を見上げる。



「・・・・俯きませんよ」



もう一度顎を上げて桃先輩を見上げる。さっきより桃先輩の顔が近づいていた。



「なぁ越前。そのまま目ぇ瞑れよ」



こういう時の桃先輩の眼って凄いと思う。

俺がどれだけ睨んでも全然動じない。

それどころか・・こんな凛々しい顔も出来るんだ?って思う様な表情をする。



「誰かに見られたらどうするんスか?」

「誰もいねぇよ。もうみんな帰っただろ?」

「帰ったふりをしてる人も・・いるかもっスよ」

「バーカ。俺達の先輩はそんな野暮じゃねぇよ」



桃先輩がゆっくり唇を重ねる。

俺はそのまま目を瞑った。


なんだ・・・気づいてたんだ。

俺の後ろにいるあの人達の事・・・・・


桃先輩の唇が重ねた時と同じ様にゆっくり離れて行く。



「越前。好きだぜ」

「俺もっスよ。桃先輩」



鼻先がつくくらいの距離で見つめ合った。

心地いい風が流れて行く。


何だか今のこの状況は・・やっぱり先輩達に乗せられた感はぬぐえないけど・・・



「こういうの・・何かいいな」

「・・・そうっスね」



こんな風に笑いあえるのも・・1人じゃ無理だったろうし・・



「そうだ!あっ明日の昼は、屋上で待ってるから」

「了解っス」



それに桃先輩がこんなに嬉しそうな顔するなら・・・



「おっ!そっ・・そっか!うん!じゃっ・・じゃあ帰ろうぜ・・・」

「何、今頃照れてんスか?」



ホントにこんなに嬉しそうな顔をするなら・・・



「ばっ!照れてねぇよ!ほら行くぞっ!」



桃先輩が俺に手を差し出す。

俺はしっかりその手を握った。




たまには先輩達に、乗せられてもいいかもね。




                                                               END





最後まで読んで下さってありがとうございます。


今日は、近藤・大石・孝行くんの誕生日!

大菊じゃないけど・・

それに出てきても大石は一言もしゃべってないけど・・・

今年も無事今日という日にお祝いが出来て良かったですvvv

近藤くんお誕生日おめでとう!!!

2011.6.5