今日の出来事を不二に伝えたら・・・不二は何て言うだろうか・・・
大石にふられて・・・すぐに不二だなんて・・・都合のいい話かもしれない・・・
しかし・・・どうしても今日の出来事を不二に聞いて貰いたい。
そして今の俺の正直な想いを不二に伝えたい。
俺はもう自分の想いに嘘はつかない。
真っ直ぐ不二の家を目指して歩き出してどれ位経つだろう・・・
薄っすら覚えている記憶を辿って歩いてきたが・・・まだ不二の家には着かない。
本来ならそろそろの筈だが・・・道を間違えたか・・・
そう思った時に、ようやく不二の家が見つかった。
大きな今風の家。コンクリートで出来た家は、大きな窓が印象的で自分の和風の家とは真逆な感じだ。
そして不二の部屋はその大きな窓の場所、道路に面した場所にある。
俺は道路の片隅で不二の部屋を見上げた。
そこには人影が見えていて、それが不二だと気付くのに数秒もかからなかった。
ぼんやりと外を眺める不二。
部屋に居ることがわかった以上、インターホンを押せば会えるのだが、俺はそんな不二をジッと見上げていた。
目が離せなかった・・・
綺麗な横顔が夕日に照らし出されている。
あの目は何を捉え、何に想いを馳せているのか・・・
不二を見ながら、そんな事を考えていた。
暫く魅入っていると、不二と目があった。
不二は俺がいる事に気付いたのか驚いた様子で立ち上がり窓を開ける。
「手塚っ!今から降りて行くから待ってて」
いつも冷静な不二が、動揺しているのが手に取るようにわかった。
慌てて転ばなければいいが・・・
自然と笑みがこぼれた。
「手塚っ!!」
「・・・不二」
不二は少しあがった息を整えて、俺を見上げる。
俺は急いで出て来てくれた不二を見て可愛いと思う自分に気付いて苦笑した。
しかし不二は、自分が笑われたと思ったのか、すぐにいつもの不二に戻る。
そして改めて俺と向き合い、いつもの口調で話してくる。
「ところで、どうしたんだい?僕に何か話でもあるのかな?」
「あぁ」
「じゃあ僕の部屋へ・・・」
「いや出来れば、少し歩かないか?」
「・・・わかった。じゃあ少しだけ待ってて」
不二は一度家に戻り、改めて俺の元へ戻ってきた。
「じゃあ行こうか」
薄暗くなり始めた道を、不二と並んで歩き始める。
部屋に上がらなかったのは、面と向かって話すのを避けたかった・・・
と言うよりも、只単に不二と少し歩きたかったと言うのが本音なのだが、不二は今何を思っているのだろうか?
急に訪れた俺を観察するようにジッと見つめてくる不二の視線を感じながら、俺は不二に話しかけた。
「不二・・」
「何?」
俺から視線を外さずに、次の言葉を待つ不二。
次の言葉を聞いた時にお前はどんな反応をするのか・・・
そう思いながらも、ハッキリとした口調で伝えた。
「大石にふられてきた」
「えっ?」
不二はそのまま立ち止まってしまった。
まさか俺がこんな話をするなんて思っていなかったのだろう・・・
聡い不二が戸惑ったまま、言葉を失っている。
俺は立ち止まってしまった不二を振り返り、もう一度声に出して伝えた。
「今。大石の家に行ってきた。ちゃんと告げて、ふられてきた」
俺の言葉を理解したのか、冷静に不二が俺を見据える。
「それを・・・どうして僕に?」
「不二に聞いて貰いたかった。けじめをつけたかった・・・」
思っていることを素直に告げて俺はまた歩き出した。
不二は置いて行かれない様に、俺の横に並んでついて来る。
「言ってる意味が、よくわからないんだけど・・・」
「不二に言われて改めて思い知らされた。このままじゃいけないという事を・・・
自分の為にも・・・お前の為にも・・・」
不二の家に着くまで、どう話すか色々考えていた。
どう伝えれば今の俺の本当の想いを不二に伝えられるのか・・・
今の状態を伝えられるのか・・・
なるべく素直にありのままを話そう・・・最後はそう思い立ったのだが伝えた言葉は、不二を不快にさせたらしい。
「ちょっと待ってよ。そこで何で僕が出てくるのさ?」
そう言った不二の顔は、不機嫌を絵に描いたようだった。
しかし俺は、そんな不二を確認しながら更に言葉を続け、前を見据え歩調を変えず歩いて行く。
「誰かに自分が想われているなんて考えた事がなかった。いつも自分の事で精一杯だった」
大石を想い続けた日々・・・
不二の想いを聞いて、初めて色んな事に目が向くようになった。
冷静に自分の想いと向き合い、どうすればいいのか・・・何が最善なのか・・・
自分にとって大切な事、想う事、想われる事・・・色んな想いに気持ちを馳せた。
そうして結論を出した。
「大石が菊丸のものだと頭ではわかっていても、自分の想いを止める事が出来なかった・・・
だけど不二・・・お前がアドバイスをくれた。大石にふられてこいと・・・
俺はこれを機会に、大石への想いを捨てる」
以前不二と話しをした公園に辿りついて、俺は立ち止まり不二を見つめた。
誰もいない公園に、街灯だけが俺達を照らし出す。
「そんな事・・・」
そう言って言葉を失くす不二。
信じて貰えないだろうか・・・?
もう遅いのだろうか・・・?
大石にふられた直後に、不二の想いを留め様とする俺は、確かに傲慢で身勝手だが・・・
「不二・・・少しだけ待ってくれないだろうか?青学が全国へ行って優勝するまで・・ 都合のいい事を言っているという事はわかっている。
だけどあの約束だけは、大石にふられようが・・・どうしても果たしたい。だけどその後は不二・・お前の気持ちに答えたいと思っている」
俺の傲慢さを・・・身勝手さを許して欲しい。
そして出きれば変わらず俺を見ていて貰いたい。
俺には不二が必要なんだ。
不二の想いが・・・不二の存在が・・・
しかし不二は俺のそんな想いを、跳ね返すように睨みつけてくる。
「僕を馬鹿にしてるの?同情なんていらないよ・・・君が大石を忘れるのは君の勝手だ。 僕には関係ない・・・」
同情・・・?同情なんてしていない。
不二が怒るのも無理は無いが・・・大石への想いも、不二への想いも本当なんだ。
だが不二には迷惑な話だな。
冷静に考えれば、こんな話受け入れられる訳が無い。
しかし・・・これだけは・・・
「そう・・・だな。悪かった。今言った事は忘れてくれていい。ただ・・・これだけは 本当なんだ。大石の家を出て落ち着いたらお前の顔が浮かんだ。
お前に逢いたいと思った」
この想いだけは信じて貰いたい。
傲慢でも・・・身勝手でも・・・どう思われても・・・
俺は不二から目線を外して、不二に背中を向けた。
「悪かったな不二。こんな所まで付き合って貰って・・・家まで送ろう」
「送らなくてもいいよ。君こそ明日から九州なのに、僕に会いに来てくれてありがとう」
そう言われて、不二に突き放された事を理解した。
そうだな・・・全てが遅すぎる・・・
言われて初めて気付き、突き放されて初めてその存在の大きさを思い知らされる・・・
俺は『そうか・・・』と呟やく様に返事をするのが精一杯だった。
しかしそんな俺に不二が、溜息混じりに話しかけてくる。
「勘違いしないで、送らなくていいとは言ったけど・・・一緒に帰らないとは言ってない。 僕が君を送るよ」
そう言って俺の横に並んだ。
俺は目を見開いて、不二を見た。
不二は綺麗な笑顔を俺に向けてくれている。
「それに一度聞いた事を、聞かなかった事には出来ない。君と同じようにね・・・」
「不二・・・」
そして俺の家の方に向けて歩き始めた。俺も同じように歩き始める。
「手塚・・・必ず全国の切符を手に入れるから・・・ちゃんと左腕治してきてね」
「あぁ」
「それと1つだけ僕の頼みを聞いて貰えるかな?」
「何だ?」
「九州から帰ってきたら、一番に僕に会いに来て・・・」
公園の出口前で立ち止まった不二が俺を見上げた。
見下ろす俺の目線とぶつかる。
いつもの口調、いつもの不二・・・しかし何かが変わった。
「わかった。必ず逢いに行く」
不二は優しく微笑んで、また歩き出す。
それ以上俺達の間に言葉はなかった。
だがお互いにわかっている。
俺達は今日から始まる・・・
長い年月を経て、今ようやく向き合った。
不二・・・ありがとう。
これからはお前だけを見つめよう。
お前の想いに答えよう。
だから変わらず俺の側にいてくれ。
お前の微笑が俺を強くする。
最後まで読んで頂いてありがとうございますvv
これで青学R陣のカップリングは出揃ったのかな・・・たぶん?
(タカさんは?って思った方・・・それは・・・ほら・・ねっ・・・色々あります☆)
あと毎回書いてるような気がしますが・・・それぞれの話はまた追加していきますね☆
そして・・・気付いている方もいるかと思いますが・・・いないかな・・・
実はこの話・・・手塚が何故全国大会の抽選の時に遅れて来たか・・・って所が原点です☆
私の頭の中では、不二との約束を守って会いに行っていた事になってます(笑)
2007.10.11