守りたいもの

                                                        (side 長太郎)





「だから・・俺にしとけって言ってんだよ!!」



そう叫んだ宍戸さんは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

俺はそんな宍戸さんをじっと見つめて戸惑った。


俺にしとけ?って・・・どういう意味なんだろう?

どうしてここで滝さんの名前が出てくるんだろう?

宍戸さんが何かを覚悟したように真剣な眼で来てくれって言うから、余程大切な話があるんだとここまでついて来たけど・・・

今のこの状況をどう受け止めていいかわからない。



「・・宍戸さん?」



だから問いかける様に、声をかけた。

宍戸さんの真意が見えないから、表情から何か分かればと思ったんだ。

けど・・宍戸さんは更に顔を赤くして、舌打ちをした。

これは俺の言葉を待っているって事だとは思うんだけど


滝さんはやめて宍戸さん・・・考えれば考えるほどわからない。

今まで2人を比べて見た事なんてないし、二人のうちどちらかを選ぶなんて状況にもなった事が無い。

それを今選ぶような事を言われても、二人の共通点なんてあるのか・・・・・・

ん?  ひょっとして・・・委員会の事なのかな?

宍戸さんはわざわざ会議が始まる前に俺を呼びに来た。

俺と滝さんは文化活動委員で宍戸さんは校外活動委員だ。

まさか今から校外活動委員に変更しろって事なのかな?

今更そんな事を宍戸さんが言うとは思えないんだけど

他に共通していて選ぶなんて事、思いつかないし・・・

宍戸さんは俺の言葉を待っている。


それに・・・ホントはキツイんだ。

今こうやって二人で同じ教室にいて宍戸さんを傍に感じるなんて事は出来ればしたくない。

いや・・・慣れなきゃとは、思っている。

思っているけど・・・まだ慣れないんだ。

どうしても意識してしまう。

俺は宍戸さんにふられた身だっていうのに・・・忘れなきゃいけないのに・・・



「スミマセン・・宍戸さん」



俺は深々と頭を下げた。


今の状況で、宍戸さんと同じ委員なんて出来る訳がない。

どんなに宍戸さんに『俺にしろ』って言われても・・・こればかりはまだ無理です。

あなたはあの事があってからも俺の事をたくさんいる後輩の1人として、接してくれようとしている。

俺もいつかはそれを受け入れなきゃいけない事はわかっています。

でも俺は、まだあなたの事を・・・忘れてはいないんです。



「ホントに・・スミマセン」



俺は更に頭を下げて、ゆっくりと顔を上げた。


宍戸さん。俺もいい後輩として、出来る限りの事をあなたにしてあげたい。

その気持ちは嘘じゃない。

でも今は・・・今はまだあなたみたいに割り切れないんです。

だけど努力はします。だからもう少しだけ時間をくださ・・・・・・・・・えっ!?


顔を上げると、顔面蒼白の宍戸さんと眼が合った。

右手で口を押さえ、呆然としている。



「し・・宍戸さん!?」



思わず驚いて声をかけた。

宍戸さんは弾かれた様に、我を取り戻した。



「そ・・そうだよな。今更こんな事言われても困るよな」

「えっと・・その・・困るっていうか・・・」



俺はそんな宍戸さんの顔を見て、戸惑った。

レギュラー落ちした時でも、こんな顔は見たことがない。

こんな青い顔の宍戸さんなんて・・・



「ホントに悪かったな長太郎。こんな所までついて来て貰ってよ。

 会議の事も俺が誘ったって跡部に言っておくからよ。じゃあ・・・」

「えっ?あっ!ちょっと・・ちょっと待って下さい!」



視聴覚室を出て行こうとする宍戸さんの腕を咄嗟に捕まえた。



「何だよ。もう俺の話は終わったんだよ。これ以上話す事なんてねぇ」

「そんな・・でも・・・」



絞り出す様な声。

こんな顔の宍戸さんをこのまま帰すなんて・・・



「だから・・もうこんな風に呼び出したりしねぇから・・迷惑かけて悪かったな」



宍戸さんは俺を見上げると、眉間に皺を寄せたままそう言ってまた出て行こうとする。

俺は宍戸さんの腕を離さないように、握る手に力を入れた。



「っ・・おい!長太郎!離せよ。戻れねぇじゃねぇか!」

「駄目です。離しません」

「ハァ?何言ってんだよ。俺の話はもう終わったんだよ。これ以上お前と話す事なんて俺には・・」

「俺にはあります!だからちょっと待って下さい!」

「ちょ・・長太郎・・」



宍戸さんが戸惑いを顔に浮かべる。

だけど俺は腕を離さなかった。


正直。話なんてない。というよりも、宍戸さんが何故こんな顔をするのか?

俺はこの人を傷つけるような事を言ってしまったのか?何が原因なのか?

俺にはちゃんとした答えがわからない。

それでも宍戸さんの腕を離せなかった。

どんな理由をつけてでも、こんな顔の宍戸さんと別れるなんて俺には出来なかった。

だって俺は・・・・あの日誓ったんだ。

どんなに辛い事があっても、宍戸さんのテニスを・・宍戸さんを守りたいって・・・
















宍戸さんに告白をしてふられた俺は、水飲み場へと向かった。

蛇口から出る水に直接頭を入れて、少しずつ冷静に戻る頭で考えた。


このままテニスを続けて行くなんて事は出来ないよな。

こんな俺がレギュラーだなんて、きっと宍戸さんもやりにくい筈だ。

俺だって今まで通り宍戸さんに接する事が出来るかどうかわからない。

それにきっと俺達のそんな態度や雰囲気は、全国を目指すみんなにも迷惑をかけてしまう。

やっぱり・・今まで通りの生活なんて出来ない。

宍戸さんの傍にはいられない。


そう思うと自然に足が跡部さんのいる生徒会長室に向かった。

跡部さんにちゃんと辞める事を伝えて・・・けじめをつけなきゃ・・




















「あ〜ん?辞める?」

「はい」

「理由は?」

「理由は・・・・」

「言えないのか?」



生徒会室のドアを叩くと、そこに跡部さんと樺地と滝さんがいた。

俺は樺地に部屋の中に入れてもらって、跡部さんの前にたった。

そして辞める事を伝えた。

だけど理由を聞かれて、言葉に詰まってしまった。

適当に嘘を言えば良かったのかも知れない、でも跡部さんを前にするとそんな事も出来なかった。



「鳳」

「はい」

「理由も言わず辞めるなんて、お前テニス部を舐めてんのか?」

「いえ!そんなつもりは・・」

「じゃあなんだ?言えない理由があるとでも言うのか?」

「それは・・」



言えない理由。

宍戸さんに告白して、ふられたから・・・

みんなに・・宍戸さんに、迷惑をかけたくないから・・・

そんな事を跡部さんに伝えていいのだろうか?


言い淀んでいると、俺の横に滝さんが立った。



「跡部。察してあげなよ。鳳がこんな事を言い出す理由なんて1つしかないじゃないか」

「萩之介。お前は黙ってろ。俺は鳳に聞いている」

「だーかーら。宍戸にふられて辞めますなんて、言えないって言ってんじゃん」

「えっ!?」

「チッ・・萩之介・・お前・・・」



滝さんは俺の肩に左手をおいて、『ねっ』と同意を求める笑顔を浮かべ

跡部さんは呆れた様子で、椅子の背もたれにもたれかかって額を手で押さえた。



「で、鳳。お前は本当にそれでいいのか?」

「えっ・・あの・・・」



急に話が核心に触れて跡部さんと滝さんの顔を交互に見て戸惑っていると、滝さんにポンポンと肩を叩かれた。



「鳳と宍戸ってさ、見てて凄くわかりやすいよ。でもね、それを除いたとしても眼の前にいるの跡部だよ。

 隠しても無駄だから素直に話していいんじゃないの?」



そう言ってまた微笑んだ。

俺はそんな滝さんの顔を見て改めて覚悟した。

そうだ。眼の前にいるのは跡部さんなんだ。

嘘や隠し事は通用しない。



「はい。俺がいる事でみんなに・・宍戸さんに迷惑をかけたくないんです」



俺は真っ直ぐ跡部さんを見つめた。

跡部さんは小さくため息をつくと、机に肘をついた。




「鳳。それがお前の本音か?」

「えっ?」

「本当はただ逃げ出したいだけじゃないのか?」



跡部さんの鋭い眼差しが、俺を射る様に見つめる。



「そんな・・逃げ出すだなんて・・・俺は本当に宍戸さんの事を考えて言ってるんです。

 男の俺に好かれているなんて、ましてやふった男と一緒なんてきっとキツイだろうし・・」

「じゃあなんで告白なんてした?上手くいくとでも思っていたのか?」



痛い所を突かれたと思った。

告白をして上手くいく。そんな可能性が万に一つでも有ればいい・・そんな事を願った事は何度でもある。

でも現実は・・・



「それは・・きっと無理だろうって思ってました。でも・・もう限界だったんです」



それが本音だった。あの時は自分の想いを伝えたい。知って貰いたい。

それだけで後先の事を考える余裕がなかった。



会議室がシンと静まりかえる。

滝さんも樺地も俺達の会話の成り行きをじっと見守っている。

跡部さんがゆっくりと口を開いた。



「辞める事は認めねぇ」

「えっ!?」



跡部さんの言葉に俺は耳を疑った。

きっと俺の行動に呆れて、辞める事を認めると思っていたからだ。



「ど・・どうしてですか?俺はみんなにも迷惑かけたくないんです。

俺のせいで全国に向かうみんなの輪を乱したくない!」

「鳳。覚悟はしていたんだろう?」

「覚悟?」

「そうだ。お前はさっき告白しても無理だと思っていたと言ったな?

 じゃあふられる覚悟も出来ていたんじゃねぇのか?」



それは・・確かに上手く行くという事より、現実に起こりえる事実として何度も考えた事だ。



「・・・はい」

「じゃあ辞める必要はねぇ。その覚悟を貫き通せ」

「貫き通す・・?でも・・・」



跡部さんの言っている意味がピンとこなくて目線を横へそらすと滝さんと眼が合った。



「鳳はさ。宍戸の傍にいつもいて、アイツの性格わかってないの?」

「宍戸さんの性格ですか?」



滝さんが首を傾げて、サラサラ髪に指を通す。



「可愛がってた後輩に告白されました。彼は有望なレギュラーの一人でした。

だけど男だったのでふりました。後輩は次の日から部活に来なくなりました」

「・・・・・・・」



滝さんが淡々と話す。

俺は何も言えず、滝さんの言葉にじっと耳を傾けた。



「短い言葉でまとめるのは簡単だけど、事実は重いよね。

宍戸にその重さが耐えられると思う?」



滝さんの笑っていた眼が、スッと鋭さを増した。



「それは・・し・宍戸さんなら・・」

「無理だな」



跡部さんだった。

跡部さんは机に両肘をついて指を組み、その上に顎を乗せた。



「明日来てお前がいない事に気付けば、自責の念に駆られてアイツもテニスを辞めるだろうよ」

「そんなっ!宍戸さんは悪くないじゃないですか!俺が勝手に告白して勝手に辞めるだけで!」

「アイツはそうはとらねぇ。ホントはお前もわかってるんじゃねぇのか?」



返す言葉がなかった。

跡部さんの言葉が、胸の奥に流れ込んで宍戸さんの顔が浮かんだ。


そうだった・・・

あの人は本当に優しい人で、俺が辞めたって知ったら自分を責めるだろう。

きっと自分だけテニスを続けるような事はしない。

そんな簡単な事を2人に言われるまで忘れているなんて・・・俺は・・・




「スミマセン俺・・」

「わかればいい。後はお前の覚悟を示すんだな。迷惑をかけたくない。そう思うなら今まで通りしていろ。

お前は仮にも氷帝レギュラーの一員なんだ。全国目指してんだろ?」

「・・はい」

「あ〜あ。でもちょっと残念かな?鳳が辞めたらレギュラーの座が1つ空いたのにね」

「萩之介」

「はいはい。嘘ですよ。じゃあ行こうか鳳。俺もちょうど会計の報告が終わって部室に行こうと思ってたとこだったんだ」

「・・滝さん」

「じゃあね跡部。先に行ってるよ。樺地も後でね」

「ウス」



滝さんは俺の腕を引くと、ドアへと歩いて行く。

俺は振り返って、跡部さんに頭を下げた。

跡部さんは俺達を追い払うように手だけ振り、もう目線は書類に向いていた。

ドアを閉めて廊下に出ると、滝さんは俺を待たずにさっさと歩いて行ってしまう。

俺は前を歩く滝さんに小走りに近付いた。




「滝さん。俺・・本当にスミマセンでした」

「別に謝らなくていいよ。今日起きた話だろ?混乱するのもわかるしね」

「それでも俺・・」

「鳳」

「はい」

「それよりもこれからの事を考えた方がいいんじゃない?」



滝さんは一度俺の方を向くと、そのまま前を見て歩調を変えずに歩いて行く。



「跡部が言った、覚悟を貫き通すって意味はわかっているんだよね?」

「それは・・・」



ふられる覚悟。

上手く行くなんて思っていなかった。ただもう限界だった。

だから告げてしまった。宍戸さんへの想いを隠し通せなかった。

それはすべて俺の責任。

それなのに俺はテニス部を辞める事で宍戸さんから逃げようとしたんだ。

みんなに・・宍戸さんに迷惑をかけたくないなんて、いい訳だった。

そんなわかりきった事を、指摘されて気付くなんて・・・

どんな結果が出ても、今までの生活を貫き通す。

それぐらいの想いがなきゃ告白なんてしちゃいけなかったんだ。

それなのに俺はもう少しで取り返しのつかない事をしようとした。

今まで築き上げてきた、みんなの輪を崩すところだった。

だけど、もう揺るがない。

どんなに辛くても、テニス部は辞めない。

宍戸さんは戸惑うかも知れない。それでも今まで通りの生活が出きるように努力しよう。

それが独りよがりの想いをぶつけた、俺の宍戸さんへの本当の償いにもなる。



「もちろんわかっています」

「そう。ならいいよ。大変だと思うけど、少しずつ元に戻していけばいい。

 俺も微力ながら力を貸してあげるよ」

「そんな・・微力だなんて、ありがとうございます。心強いです」




跡部さんも滝さんも俺のした事を知っていて、今まで通り接してくれている。

滝さんに至っては力になってくれるだなんて、俺は本当に恵まれている。

二人の気持ちに応える為にも、今まで以上にテニスに集中しよう。




「それに、頑張ればきっといい事もあるだろうしね」

「いい事ですか?・・・そうですね。全国へ向かって頑張りましょう」




俺の想いは宍戸さんと出会った時に決まっていたんだ。

俺がどんな立場になっても宍戸さんのテニスを・・宍戸さんを守りたい。























そうだ。慣れないとか、辛いなんて言っている場合じゃない。

あの時、心に誓った筈なのに・・

ここまで俺に譲歩してくれている宍戸さんを拒否するなんて俺は馬鹿だ。

委員ぐらいなんとかなるじゃないか!



「宍戸さん」

「な・・何だよ」

「俺、宍戸さんの言う通りにします。文化活動委員をやめて今日から校外活動委員になれるように

跡部さんに話をつけてクラスの校外活動委員にも・・・」

「ちょっ!ちょっと、待て長太郎!お前何の話してるんだ?」



宍戸さんが、宍戸さんの腕を掴む俺の手に手をかけて見上げる。



「何のって・・・宍戸さん言いましたよね?滝さんをやめて俺にしろって・・だから・・・」



宍戸さんは呆気にとられたような顔で俺を見ると、



「マジかよ。ホント激ダサだぜ・・・」



空いた手で顔を抑えた。



「ち・・違ったんですか!?」

「ちげーよ!何で俺が今更お前にそんな事を頼むんだよ!」



俯いたまま叫ぶ宍戸さんを、俺はじっと見つめた。


そっそんな・・確信していた訳じゃないけど、他に宍戸さんと滝さんを区別するような違いなんて俺には思いつかないよ。


宍戸さんにどう声をかけていいか、迷っていると宍戸さんがポツリと小さな声で呟いた。




「まぁ・・でも似たような事なのか・・・」




えっ?

そして顔をあげると、大きな声で叫ぶ。



「あーーークソッ!何で俺がこんな事を、改めて説明しなきゃなんねぇんだ!」

「あっあの何て言うか・・スミマセン」



その勢いに、俺は条件反射のように謝った。



「バカ!簡単に謝るな!だいたいまだ説明してねぇだろ!」

「あっはい!そうでした。スミマセン」



宍戸さんは、舌打ちすると体を俺の正面へと向けた。



「手を離してくれ」

「手・・ですか・・?」



離せば宍戸さんが、帰ってしまいそうで・・そう言葉に出そうとして辞めた。

宍戸さんの顔から青さが消えている。

眼はしっかりと俺を捉えていた。

俺はゆっくりと手を離した。



「ったく・・バカ力だしやがって」



小声で呟きながら腕をさすった宍戸さんは、一度目線を外して改めて俺を見た。



「長太郎」

「はい」

「俺が言いたかったのは、委員を変わってくれって話じゃねぇ。

 滝に懐くなって意味だ」

「えっ?えっと・・・滝さんに懐くって・・・俺がですか?」

「そうだ。お前だよ」

「でも俺、そんなつもりは・・・」

「俺にはそう見えんだよ!それがムカつくって言ってんだ!」



宍戸さんの顔が、今度はどんどん赤みを増していく。


えっ?・・・えっ?えっ?ちょっと待って、それって・・・

まるで宍戸さんがヤキモチ妬いてるみたいじゃないですか?

そんな事・・・


恐る恐る宍戸さんを見つめた。

宍戸さんは耳まで赤くしている。


まさか・・いやそんな筈は・・だって俺は・・・



「お俺、ふられたんですよ?」

「!!!」



宍戸さんの眼が揺れる。

そしてサッと顔を横に向けた。



「それは・・・無かった事にしてくれ・・」



そうか・・やっぱりそうだよな。俺はふられた身でだから無かった事に・・・

無かった事?・・えっ?無かった事って・・それって・・・やっぱりそういう事・・・?



「しし・・宍戸さん言っている意味、わかっているんですか?」



声が上ずる。

そんな訳ないという思いと、もしかしてそうなのか?という思いと、もうごちゃ混ぜだ。



「わかってるよ!ああっ!チクショー!これじゃあこの前の反対じゃねぇか・・」



宍戸さんは呆れたような、照れているような声を上げた。


この前って・・じゃあやっぱり・・・

いや・・まだ信じられない。だってあの時・・・




「で・・でも困るって・・」




俺がそう言うと、宍戸さんは上目遣いに俺を睨んだ。




「あの時はそう思ったんだからしょうがねぇじゃねぇか。でもあれから変わったんだよ。

 お前が俺と距離を置くようになって・・・俺も色々考えて・・・」




宍戸さんの言葉の先に続く言葉

宍戸さんの口元をみながら、紡ぎだされる言葉に固唾を呑む俺がいる。

ドキドキと激しい鼓動が耳元で聞こえて、手が微かに震えだした。

・・・宍戸さん。




「だから・・アレだよ。お俺も・・・俺もお前の事が好きだって気付いたんだ」




ぶっきらぼうな言い方で、でも眼は真っ直ぐ俺を射る。

その眼は熱を帯びているようで、試合の時の宍戸さんを思い出した。

俺がずっと追い続けた、宍戸さんの眼だ。

大好きな宍戸さんの眼だ。




「おいっ!聞いてるのか?何か言えよ!」




宍戸さんは黙っている俺に痺れを切らしたのか、右拳で俺の胸を押した。




「あっ!えっと・・・・・」




夢のような出来事に、つい噛みしめる様に宍戸さんを見ていて自分が何も返事をしていなかった事に今さら気付いた。



そうだ。返事・・・俺も宍戸さんが好きだって伝えなきゃ。

そう思った時に、宍戸さんの顔に影が差した。

床を見つめて、眉間に皺を寄せる。




「ホントの事言えよ。あれからだいぶ経ってるし・・・

 気持ちが変わって、今は滝がいいっていうんならそれでもいい。覚悟は出来ている」

「えっ・・滝さん?」




今度は俺が眉間に皺を寄せる番だった。



どうして滝さん?

まさか・・宍戸さんは俺が心変わりして、滝さんを好きになったと思っていたのか?

だから何度も滝さんの名前が出て来ていたのか?

そんな事ある筈ないのに・・・

俺が宍戸さん以外の人に心奪われるなんて事がある訳ないのに・・・

俺がどれだけあなたを想っていたか、あなたはわかっていない。



「宍戸さん」

「おっおう」



宍戸さんは完璧に俺の返答に構えている。

俺はお構いなしに、宍戸さんの肩に手を置いた。




「俺はあなたが好きです。それは今までもこれからも絶対に変わりません!」




何があってもこの想いだけは変わる事がない。

今までもこれからも未来永劫・・・俺にはあなただけだ。

その事をあなたは・・あなたにだけは・・わかっていて貰わなきゃ困ります。


俺は宍戸さんを強く見つめて、そのまま肩を引き寄せ抱きしめた。

宍戸さんのぬくもりが触れた体から伝わる。




「お・おいっ!ちょ・・長太郎・・」




急に俺に抱きしめられた宍戸さんが、俺の腕の中で抵抗する。

俺は抱きしめる力を強めて、宍戸さんの耳元で囁いた。





「宍戸さん。俺、あなたの事を一生大切にします」

「!!!!」





宍戸さんが真っ赤な顔で俺を見上げた。




「ばっバカ!何言ってんだよ!一生って、極端なんだよお前は!」

「いやですか?」

「いや・・っていうか、先の事なんてわからねぇだろ?」




宍戸さんが目線をそらす。

確かに今お互いの気持ちがやっと通じ合ったばかりなのに一生っていうのは極端な話なのかもしれない




「それでも・・俺はずっと宍戸さんの傍にいたいと思っています。駄目ですか?」




だけど俺は断言できる。

俺の気持ちは変わらない。




守りたいもの・・・それはあなた。




宍戸さんは小さく溜息をつくと俺を見上げた。



「だっ駄目・・じゃねぇけどよ・・・・あーもう好きにしろっ!

俺も今は先の事は考えねぇ!」

「はい!」





照れながら抵抗をやめた宍戸さんを、俺はまたそっと抱きしめた。







                                                                          END






やっと終わりました!鳳宍の告白編☆


ここまでついて来て下さった鳳宍ファンのみなさんありがとうございますvvv

またこの先の話もボチボチ書けたらとか・・・

大菊とコラボとか・・・考えていますので、その時は宜しくです!

という訳で・・・

みなさん。本当に最後まで読んで下さってありがとうございましたvvv

2010.11.6