秘密






次の日


大石は律儀にも休み時間に、俺の病院での結果を聞きに教室まで来ていた。

俺は廊下に出て、昨日の結果を説明する。



「そうか。何事もなくて良かったじゃないか」

「ああ。そうだな」

「次の試合も・・・」



大石が何かを言いかけた時に、遠くから菊丸の大きな声が聞こえてきた。



「お〜い!大石っ!!」



名前を叫びながら、廊下をバタバタと走って来たかと思うと、そのまま大石の背中へダイブする。



「うわっ!!英二!!」



あまりの勢いに大石はそのまま前のめりになったが、なんとか持ちこたえた。



「何してんの?」

「何って・・・お前こそ何してるんだよ」



背中にくっついたままの菊丸に大石が反論していると、追い着いて来た不二が説明する。



「やぁ手塚。大石。僕達は今から移動教室なんだ」

「そうか」



菊丸がくっついたまま、会話がまともに出来ない大石を横目に俺が不二に返事をした。

不二は俺の顔を見てクスッと笑うと俺だけに聞こえるような声で話す。



「手塚。眉間のシワが増えてるよ」



その時予鈴が鳴った。

不二は何事も無かったように、未だに大石にくっついている菊丸の背中を叩く。



「ほら英二。そろそろ行かないと、授業に遅れるよ」

「ほい。ほーい。んじゃ行きますか?じゃあな大石!と手塚」



嵐のような菊丸を連れて不二が去って行った。

菊丸にやっと開放された大石も



「手塚すまない。また話は後でゆっくりしよう」



と言って自分の教室に戻って行った。

一人残された俺は、不二の顔を思い出していた。


やはり不二は俺の気持ちに気付いているのか・・・?


教室に戻っても、暫く不二の意味ありげな笑顔が頭から離れなかった。






大石と菊丸・・・

2人がどんなに惹かれあっても、越えられない壁があると俺は何処かで思っていて・・・

その壁があるからこそ、俺も自分の気持ちを抑えていられるのだと信じていたが・・・ 

しかしその壁はある日突然に失われてしまった。






 


副部長になった俺は、度々竜崎先生に呼び出しを受ける。その大半は次の試合のオーダー決めだったりするのだが

その日は先に相手校の資料を渡しておくと言われ、一人職員室へ向かっていた。

今日の会議の事なら、大石も誘えばよかったか・・・

そう思いながら階段を登っていると、聴きなれた声が聞こえてきた。



「不二俺決めた!今日大石に告る!」

「そうなんだ。わざわざこんなトコまで引っ張って来るから、何事かと思ったよ」

「驚かないの?」

「う〜ん。そうだね。英二にしてはよく今日まで言わずにいたなって関心はするけど」

「なんだよ!それ〜!」

「フフフフッ・・冗談だよ」



菊丸と不二か・・・こんな所で・・・大石に告るって・・・どういう事だ?

俺はそのまま足を止めて、耳を澄ませる。



「ところで、どうやって大石に伝えるのかは決めてるの?」

「うん。今から大石に、今日練習が終わったら大切な話があるって言うんだ」

「それで?」

「ん〜後はなんとかなるっしょ!」

「ひょっとして・・・勢いに任せてって感じなの?」

「ん〜そんな感じ」

「ハァ〜・・・でもその方が英二らしくていいかもね」

「そう?」

「うん。まぁ頑張って来なよ」

「へへっサンキュー不二!じゃあ今から大石んとこに行ってくんね!」



パタパタと足音が去って行く。菊丸の足音か・・・・?



「手塚・・・いつからそこにいたの?」



俺が顔を上げると、階段の踊り場から不二が俺を見下ろしていた。



「・・・・・」

「ひょっとして、今の会話聞いてたの?」

「・・・あぁ、すまない。聞くつもりはなかったんだが・・・」

「そう?」



不二の眼が俺を真っ直ぐ見据えている。何もかも見透かしているような眼。

俺も黙ったまま不二の眼を見かえした。

俺のそんな態度に、不二はそのまま大きく溜息をついて話し始める。



「まぁそれはどっちでもいいけど・・・それより君はいいの?」

「何がだ?」

「英二。大石に告白するんだって」



不二の顔から笑顔が消えた。淡々とした口調が俺を突き刺す。



「・・・・何故それを俺に言う」

「それを僕に聞くの?」



不二の眼が一瞬揺れた気がした。



「・・・・イヤ。しかし俺には関係ない事だ」



俺はそう言い階段を登り始める。

不二の横を通りそのまま上へと足を運んだときに、不二に呼び止められた。



「手塚!!」



足を止め、振り向いて見た不二の顔はとても悲しげだった。



「なんだ・・・?不二」

「ごめん。手塚」



そう言うと不二はそのまま階段を駆け下りて行った。



なぜ不二が謝る?なぜ不二が悲しい顔をする・・・?

俺は嘘をついたというのに・・・

菊丸が大石に告白する・・・・俺には関係ない事・・・

本当は関係ないなんて事はない。

もしそれで2人がうまく行けば、2人の間の壁が無くなれば・・・

俺は今まで通り大石と付き合う事ができるのだろうか・・・?

この想いを押さえる事が出来るのだろうか・・・?

俺の想いは何処へ行くのだろうか・・・?



重くなってしまった心と足を、俺は無理矢理職員室に向けて動かした。














あれから不二は大石と菊丸の事に触れようとしない。

それどころか全く何事も無かったように俺に話しかけてくる。

それが返って、不自然に思えた。

現にあの日大石は会議を抜け先に帰り、次の日からの菊丸は誰が見てもテンションが高い。

告白が成功した証なのだろう。

2人の間の壁がなくなった証・・・

男同士でも愛し合っていれば、結ばれるという事実。

菊丸は男同士の壁を越え、大石の手を掴んだ。

俺はただその事実だけを黙って、受け止めるしかない。

俺には越えられない壁。菊丸には越えられる壁。

でもその壁は大石と菊丸の間には初めから無かったのかも知れない。


大石と菊丸の間の絆・・・


俺と大石の間には何があるというのだろうか・・・・




『全国へ』




その約束だけが、俺とお前を結ぶ唯一の鎖なのだろうか?

それならば俺はどんな事があっても、お前を全国へ連れて行こう。

この腕が動く限り、お前を引っ張って行こう。






そしてこの想いは俺だけの秘密

                  



                                                                         END





いや〜手塚って難しい・・・☆最初に書こうと思ってた事が書けなかったような・・・


まぁでもこんな感じで暫く手塚には大石に片思いしてて貰います。そしてまたいつか再登場して貰います。