大石の家に着いた頃にはもう19時を過ぎていた。
なのに大石の家には電気が灯っていない・・
『家にいないのかな?』
不安に襲われながら、恐る恐るインターホンを押した。
1回2回・・・何度か鳴らして、ようやく玄関が開いた。
「ハイ・・・」
暗い大石の声
俺は少しだけ開いたドアをおもいっきり勢いよく開けて、押し入るように家の中に入る。
「ただいま!」
「えっ・・・英二?」
俺が帰ってくるなんて、思ってなかったのか、狐にでも抓ままれたような顔で驚いてる。
「なんだよ。電気も点けないでさ。もう晩御飯は食ったのか?」
勝手に上がりこんで、冷蔵庫を開けると、そこは昼間見たままの状態だった。
「英二?」
「なんだまだ温めてないのかよ。仕方ないなぁ〜早く温めて食おうぜ!」
「英二っ!!」
玄関先から、戸惑った顔のまま着いて来た大石が、声を荒げた。
そりゃあ・・・あんな状態で突然出て行った俺が・・
何事も無かったように帰ってきたら・・・戸惑うよな・・
だけど・・俺だって必死なんだ。
今はまだ普通にしてなきゃ・・・
ここで話をだしたら、家に帰されるかもしんないかんな・・・
「何だよ?」
「不二はどうしたんだ?不二の所にいたんだろ?」
「いたよ・・・けど戻ってきた」
「どうして・・・?」
「大石一人で、この量は食えないだろ?」
冷蔵庫から取り出した、おかずを並べて指を指した。
大石の眉間のシワが更に増えたように見えたけど・・・見無かった事にする。
「えっ?いや・・・そうだけど・・・でも・・」
「とにかく食おうぜ・・・話はそれから!」
俺は勝手におかずを温めて、リビングに運んでいく。
暫く大石は黙って見てたけど、ごはんをよそる頃には、箸やコップを並べてくれていた。
「んじゃ・・・いただきます!」
「いただきます・・・・」
豪華なおかずに目を輝かせて、口の中にほおばると自然と笑みがこぼれる。
「おいしいよな〜大石っ」
「・・・・・あぁ・・」
返事は返してくれたけど、大石の顔は笑ってない。
ジッと俺を観察するように見ていた。
う〜〜〜平常心・・平常心・・・
とりあえず早く食べてしまおう・・・
それから俺達は無言でご馳走を食べ続けた。
食べ終わって、片付けをしてる時も、殆んど話さず、大石の視線は痛いほど感じていたけど、頑張って平常心を心がけた・・・
だって・・まだ駄目だ・・・今話したら・・・確実に家に帰される・・・
今なら・・・家に帰っても不自然な時間じゃないもんな・・
イヤ・・もともと泊まる予定だったんだから・・・帰るって事はかなり不自然なんだけど
それでも、もう少し時間を稼いで・・・今からは帰れないって時間にならなきゃ・・・
話なんて出来ない・・・
だから・・・次なんか考えなきゃ・・・そうだ・・・
「大石っ! ご飯も食べたし・・・俺。先に風呂借りるね」
そう言って大石の部屋から着替えを取って降りてくると、大石が階段の下で待ち構えていた。
「ちょっと待った英二!」
「何だよ?」
「風呂は家で入った方がいいんじゃないか?」
「どうゆう事だよ?」
「今日はもう帰った方がいいんじゃないのかって事だ」
「帰らないよ。大体親に大石んとこ泊まるって言って来てんのに、帰ったら変じゃんか」
「今なら・・まだ大丈夫だろ?何とでも言い訳出来るじゃないか」
「無理!」
「英二っ!」
大石を振り切って、お風呂場へと歩いていく。
「だからちょっと待てって!」
だけど大石に、脱衣場の手前で、肩を掴まれた。
「何だよ?」
「英二・・・どういうつもりなんだ?」
「風呂に入んだよ」
「だから・・・そういう事じゃなくて・・・あぁ〜もう!
英二・・・悪いけど・・・今日は帰ってくれ!」
一瞬心臓が止まるかと思ったけど、ココで帰ったらホントに終わってしまう。
俺は肩に乗せられた大石の腕を振り落として、その場でTシャツを脱いだ。
「もう脱いじゃったかんな・・絶対風呂入る・・・大石覗くなよ」
「なっ・・英二!」
大石が怯んだ隙に脱衣場に入って、戸を閉めた。
そんで急いで服を脱いで、風呂に入る。
大石はそれ以上、止めにこなかった。
やっぱ大石の奴・・・俺の事・・家に帰そうとしたな・・・
湯船に浸かりながら、さっきの大石の顔を思い出してた。
怒ってる様な、困ってる様な、辛そうな顔してた。
今更ながら自分のしでかした事の重大さを思い知らされた気がした。
俺・・・なんて事したんだろ・・・
なんだか泣きたくなって来た。
だけど・・泣いてなんかいられないよな・・・
自分でやってしまった事は、自分でなんとかしなきゃ・・・
俺の気持ちは決まってんだ・・・
やっぱ俺は大石が好きで、ずっと一緒にいたくて、
大石が俺を求めてくれるなら、それに答えたい。
いや・・・本当はずっと求めて欲しかったんだ。
だから・・・もう大丈夫。
今更だけど・・・今度はホントに逃げたりしない。
だから大石・・・もう一度だけ・・・一緒に勇気・・・出して欲しい。
色んな事を考えてたら、予想以上に長風呂になってしまった。
「大石おまたせ・・・」
大石の部屋に入ると、大石は机の上に飾られた、俺が誕生日にやったフォトスタンドをぼんやりと眺めていた。
「大石・・・風呂入れば?」
肩を叩いて、大石に話しかけると、大石は何かを決意したような目で俺を見た。
「英二・・・話があるんだ」
こうゆう時の大石の話はろくな話じゃない・・・
だけど・・・ここで怯んじゃ駄目なんだ・・・
「俺も話がある・・・だけど・・・まず風呂入ってこいよ・・それから話そうぜ」
大石は一度下を向いて考えて、立ち上がった。
「わかった。じゃあ少しだけ待っててくれ」
そう言い残すと着替えを持って、部屋を出て行った。
ふぅ〜〜
張り詰めた糸が切れたように、ベットの上にドサッて座って、さっき大石が見ていたフォトスタンドを見つめた。
写真の中の俺達は満面の笑みをこぼしている。
大石はこの写真を見ながら・・・何を考えて・・・何を決意したのか・・・
あの目をみたら・・・大体想像つくよな・・・
あのバカ・・・俺の想像通りの事考えてる・・・
だけど・・・そのキッカケを作ったのは俺か・・・
バカは・・・俺か・・・・
静まり返った部屋には、アクアリウムのモーター音だけ響いて、本当に誰も居ないんだなって改めて思う。
いつもなら部屋に二人でいても、隣の部屋に妹ちゃんがいたり、リビングに大石の母ちゃんがいたりで、何処かに誰かの気配を感じるのに
今日はそれがないもんな。
そうなんだよ・・・裏を返せば、こんな絶好の日はないんだ・・・
大石と二人でゆっくり過ごせる・・・なんでも出来る日
それなのに俺は〜〜〜
何度考えても、やっぱ俺が悪い・・・
大石が戻ってきたら、スグに謝ろう・・・
そして昼の続きだ。
そう思って待ち構えていたのに、『少しだけ待っててくれ』って言った大石が戻ってこない。
大石ってこんなに長風呂だったっけ?
ひょっとして・・・風呂で溺れてんのか?
心配して風呂に見に行こうかと思った時に、ようやく戻ってきた。
「大石・・・遅かったな」
「あぁ・・・・ごめん・・・」
大石はのぼせたのか、少し虚ろな目で、イスに座った。
「大丈夫か?」
心配になって声をかけたけど、大石は返事をしない。
黙って、俯いて、ボーっと床を見て・・・
そしてギュっと掌を握りこんだ。
大石・・・
もう一度声をかけようとしたら、大石がポツリと話し始めた。
「風呂の中で色々考えてた、何で英二が出て行ったのか・・・?
何で急に戻ってきたのか・・・?
何でそんなに普通にしているのか・・・?
俺には英二の考えてる事がよくわからない・・・
だけど、今日の事で思った事が1つだけある。
英二・・・俺達やっぱり・・・・」
「別れないぞ」
俺がそう言うと大石は、目を見開いて驚いている。
「絶対に別れない・・・別れる必要なんてないじゃんか」
「英二・・・だけど今日の事で・・・お前もわかっただろ?
やっぱり・・・リスクが高すぎるよ・・・」
大石は俺から目線を外す。
「本気でそう思ってんの?大石は俺と別れて平気なのか?」
「平気な訳ないだろ?だけど一緒にいたらまた傷つけてしまうかもしれないじゃないか?
そんなのは、嫌なんだ」
「誰が?いつ傷ついたんだよ!」
「誰がって・・英二に決まってるじゃないか!だから出て行ったんだろ?」
「違う!傷ついたんじゃない・・・ただちょっと怖くなったんだ・・・
俺なのに俺じゃなくなるような気がして・・・そんでもって恥ずかしくて・・・
ごめん・・・もう逃げたりしない・・・だからもう一度・・・」
「そんなの・・・もう無理だよ英二。
俺だって怖い・・・大切なものを自分で壊してしまうようで怖いんだ・・・」
大石が自分の掌を見つめて、思いつめた顔をしてる。
なんだよ・・・だから・・・そんな顔すんなって・・・
「大石っ!」
俺は大石の腕を掴んで、思いっきり引っ張って、そのままベットに押し倒した。
そんで大石の上に馬乗りになる。
「英二っ!何すんだよ!」
反論する大石の腕を掴んで、上から覗き込むように大石の顔を見つめた。
「大石・・・俺を見てよ・・・俺の目を見て」
「英二・・・駄目だ」
「お願いだよ大石。俺もう絶対逃げないから。ホントに大丈夫だから
だから・・・もう一度だけ俺の事信じてよ・・・」
「英二・・・」
「ねぇ大石・・・大石はホントはどうなの?俺とどうなりたい?
俺は・・・俺は・・・大石とひとつになりたい」
自分でも今めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってるって事はわかってんだ・・
顔だって痛いくらい赤くなって、手だって震えてる。
でも・・・・
もう大石に辛い顔させたくない。
それにこれは俺の本心なんだ・・・
怖くたって、恥ずかしくたってもう目を離さない・・・
絶対に逃げない・・・
ジッと大石を見つめたら、大石の手に力が入って、俺を見る目の色が変わった。
「わかった。英二の事信じる」
そして勢いよく引っ張られて、今度は大石が上から俺を見つめる。
「だから英二も俺の事信じて。うまく出来るかどうかはわからないけど・・・
絶対に英二を傷つけないから・・・その・・・優しくするから・・・
英二・・・・俺も・・・英二とひとつになりたい」
「うん・・・」
真っ赤な顔した大石の唇が近づいてくる。
俺はそっと目を瞑った。
優しい・・・優しい・・・キス
これから俺達はひとつになるんだ・・・
不安や恥ずかしさや・・・色んな思いはまだあるけど・・・
大石と二人なら大丈夫・・・
何だって乗り越えられる・・・
大石の唇が離れて、俺を見つめる。
熱い熱い眼差し
「大石・・・手・・握ってて・・」
「あぁ・・わかった」
大石の手が俺の手を強く握り込む。
「英二・・・愛してる」
「俺も・・・愛してる」
見つめ合って、深くキスを交わして、部屋の中は俺達の息遣いだけが響いて・・・
俺達は二人で大人の階段を登って行くんだ。
いや〜ホントはもう18禁にしちゃうか?ってめちゃくちゃ悩んだんですが・・・
今回はこれで、精一杯でした(笑)
だけど・・・一応これで二人は晴れてそんな仲ですよ☆
2007.6.5