(side 英二)
大石の『英二っ!後ろ!危ない!』って声が聞こえた・・・
だけど振り向いた時には、その子は俺にぶつかってて避けるなんて出来なかった。
そしてスローモーションの様に背中からプールへと落ちていく。
また大石の声が聞こえた。『英二っ―――!!!!』って俺の名前を叫んでいる・・・
大石が心配している・・・そう思うのに力が入らない。
プールに落ちた俺の体はコの字型になって、背中からプールの底に沈んでいっている。
コレって・・・今日見た夢と同じ・・・やっぱコレもデジャブっていうのかな・・
水面がキラキラしている・・・
だけど夢と違うのは、息出来ないのに・・・こんなに深いプールに沈んで行ってるのに 怖くない・・・
夢で見た時は、怖くて不安で・・・何度も大石の名前を呼んだ。
なのに今は・・・現実なのに怖くない・・・
だって聞こえる・・・プールの中なのに大石の声が・・・
英二・・・英二・・・英二・・・って何度も俺を呼んでいる。
だから大丈夫。大石はきっと来てくれる。
少しずつ薄れる意識の中で、大石の顔が見えて腕を掴まれたのがわかった。
ほら・・・やっぱり来てくれた・・・
どれくらい意識がなくなってたんだろう・・・?
微かに眼を明けると、薄暗い天井が見えて微かに消毒液の匂いがした。
ここは何処だろ・・・?
俺は長いすの上で寝かされてるのか・・・
「英二・・・気がついたのか?」
声がした方に顔を傾けると、大石が心配そうに俺の手を握って見つめている。
「大丈夫か?」
「う・・ん。大丈夫」
体を起こそうと手をついて上半身に力を入れたけど、上手く力が入らない。
危うく後ろに倒れこむ所を、大石が背中を支えてくれて何とか座る事が出来た。
「無理しなくてもいいんだぞ」
「大丈夫。もう起きれるから」
壁に背中をもたれかけて、大きく深呼吸をして手のひらに力を入れてみた。
う・・・ん。ホントに大丈夫。
少しずつだけど、体に力が戻って来てるのがわかる。
俺は目の前でずっと心配そうに俺の様子を伺っている大石に目線を移した。
「大石・・・心配かけてごめん」
「ホントに大丈夫なのか?」
大石がずっと不安な顔をしている。凄く心配かけちゃったんだな・・・
だから出来る限りの笑顔を作って見せた。
「本当に大丈夫だって!」
大石が信じてくれるように目を見つめて笑顔を見せていると、部屋のドアの開く音がして、見ると茶褐色の肌のお兄さんが、元気よく入ってきた。
「おっ!目覚ましたんだ!」
その人が俺達の前まで来ると、俺の目線に合わせて膝をついていた大石が立ち上がって頭を下げた。
「先程はどうもありがとうございました」
そのお兄さんは、顔の前で手を振って『イヤイヤ・・・俺何にもしてないから』って大石に言っている。
俺はどういう事なのかな?って二人を見上げて話を聞いていた。
「それにしてもさっきの君凄かったね〜。あの手際のよさ、何処かで習ったの?」
「いえ・・・そんな。前に少し本で読んだ程度で・・・必死だったんで・・・」
大石は顔を赤くして答えている。
俺は話が見えなくて、そのお兄さんに話しかけた。
「何が手際よかったんですか?」
お兄さんは、俺に視線を移して『あ〜〜』と頷きながら答えてくれた。
「そっか。君は気を失ってたもんな。君の友達さ、君をプールサイドに助け上げた後、すばやく気道を確保してさ、マウス・トゥ・マウスをしたんだよ。
その手際のよさが凄くってさ。本当は俺がしなきゃなんないのに見とれちゃったよ」
と白い歯を見せて笑っている。
「マウス・トゥ・マウス?」
聞きなれない言葉に首を傾げると、お兄さんは親切にジェスチャー付きで説明してくれた。
「人口呼吸だよ。よくドラマとかで見ないか?海で溺れた人を助けて、こうやって口から息を吹き込んでさ、蘇生するやつ」
『あぁ〜〜』と俺は大きく頷いて大石を見上げたら、大石は更に赤くなっていた。
「大石がしてくれたんだ」
「そうそう・・・って。あっ君大石っていうんだ」
お兄さんは大石の方にまた視線を戻して、大石に笑いかけている。
「兎に角さ、この大石くんが手際よく君を蘇生してココまで運んだんだよ。ホント凄かった。俺なんかここの場所教えるぐらいしか出来なかったもんな」
と今度は大石の肩に手を置いて、俺に笑いかけた。
その時にずっと顔を赤くして苦笑いしていた大石が、お兄さんに話しかける。
「あの・・・彼も元気になったみたいなんで・・・ココに着替え持ってきて、着替えてもいいですか?」
「あぁ。別に構わないよ」
お兄さんの返事を聞いて、大石はドアの方へと移動する。
「英二。俺、着替えとって来るから、少しだけ待っててくれ。それと・・・」
大石はお兄さんの方へまた頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
そして部屋を出て行った。
お兄さんと二人だけの部屋になると、お兄さんが肩を竦めて苦笑した。
「いじめちゃったかな?でも本当に手際良かったんだよ・・・
だけどやっぱあんまり言われると照れるよな・・・あんなにたくさんギャラリーもいたし・・・
悪かったかな・・・」
お兄さんは独り言のようにブツブツ言って、俺の方を見た。
「まぁアレだ。大石くんによくお礼を言うんだな。それとここは好きに使って出てくれたらいいから・・・じゃあ俺も仕事に戻るか・・・」
そう言って今度はお兄さんが、ドアの方へ移動する。
「じゃあな・・・えっと・・・」
「菊丸です!」
「そうか・・・んじゃな菊丸くん」
お兄さんは、また白い歯を見せて笑って出て行った。
部屋に1人残されて、さっきのお兄さんの言葉を思い出す。
大石がみんなの前で、人口呼吸・・・・あの大石が・・・
想像したら、何だか俺まで恥ずかしくなってきた。
こうゆう場合は仕方ないんだって事はわかってても・・・みんなの前で大石とキス・・・
まぁ人口呼吸だから、そんな綺麗なもんじゃないんだろうけど・・・
駄目だ・・・耳まで痛くなってきちゃった・・・
「英二。おまたせ・・・」
俺が火照った自分の顔を、手でウチワのようにして扇いでいると、大石がようやく戻ってきた。
「どうしたんだ?そんなに顔を赤くして」
俺の横に荷物を置いて、大石が俺の顔を覗きこむ。
「何でもない」
何だか照れくさくて目線を外すと、無理やり大石の方に顔を戻された。
「何でもないは、無いだろ英二?」
大石の目がジッと俺を見つめる。
そりゃあ何でもないって事は無いけどさ・・・言ったら大石、絶対照れるくせに・・・
「英二」
もう一度大石が俺の名前を読んで、話を催促する・・・ったく・・・もう知らないかんな
「大石・・・たくさん人が見てる前で、人口呼吸したんだって・・・?」
そう俺が言ったとたん、それまで俺の顔を両手で挟んで固定していた大石の手がパッと離された。
「あっ・・アレは仕方がなかったんだ・・・焦ってたし・・・周りを気にするなんて余裕も無かったというか・・・」
頭を掻きながら、顔を真っ赤にさせて言い訳をしている。
やっぱ照れたか・・・って大石の顔を見てると、今度は思い出したように真面目な顔つきで俺を見た。
「英二・・・ひょっとして嫌だったか?」
どうしてそうなんだよ?っていう話の展開に思わず本音がバーって出てしまった。
「んな訳ないじゃんか!嫌な訳が何処にあんだよ!大石だったら何だって嬉しいよ!
ただ・・みんなの前で大石とキスしちゃったなぁ〜ってちょっと恥ずかしかっただけで・・」
ったく・・・もう恥ずかしいじゃんか・・・俺に何言わすんだよ・・・
真っ赤になった顔を隠す為に俯いたら、大石の手が俺の肩にそっと置かれた。
「アレはキスじゃないよ。あくまで人口呼吸で、キスっていうのは・・・」
頭の上で聞こえてた声が途切れたと思ったと同時に、俺の唇は大石の唇に塞がれていた。
ンッッ・・・
びっくりして一瞬目を大きく開いちゃったけど、大石に合わせてそのまま目を瞑った。
深く優しく口付けされて、俺の体の力が抜けていく・・・
そしてゆっくり大石が離れて、改めて俺を見つめた。
「キスっていうのは・・・こうゆうのだろ?」
何赤い顔して、カッコイイ事言ってんだよ・・・
凄く嬉しいけど、普段言われ慣れない事言われて恥ずかしい。
大石って・・・大石って・・・相変わらず不意打ちなんだよな・・・ったく・・・
「大石のスケベ」
「えっ!?スッ・・スケベじゃないだろ・・・」
「スケベ!」
「だから、スケベじゃないって!」
「だって今キスしたじゃん!」
「いや・・それは・・・英二が可愛い事言うから・・」
シドロモドロの大石に、今度は俺から抱きついた。
大石の肩に額を乗せて、ギュッと背中を抱きしめる。
ホントは目が覚めたら、一番に伝えなきゃって思っていた言葉を大石に伝えた。
「大石・・・ありがとう」
大石の腕にも力が入って、ギュッと引き寄せられた。
大石の顔も俺の肩に埋められる。
「英二が無事で、本当に良かった」
大石の言葉が心にしみる。
俺はもう一度大石の目を見つめて、目を閉じた。
唇に大石を感じた。
静かな部屋の中が、俺達だけの空間のような気がする。
キスした後暫く抱き合ってると、大石が耳元で申し訳なさそうに話しかけてきた。
「英二・・・そろそろ着替えないか?」
「えっ〜もう少しこうしてたい」
「だけど俺達まだ水着のままだし・・・ここにずっといる訳にもいかないだろ?」
「そりゃあ・・・そうだけど」
「じゃあ。早く着替えよう。このままじゃ不味いよ」
大石は今まで抱き合ってた俺を両手で接がした後、着替えに手をかけた。
今まで甘い雰囲気だったのに、急にどうしたってんだよ・・・
「あっ!ひょっとして大石・・・やらし〜事。想像したんだろ?」
思いついた事を口にしたんだけど、振り向いた大石の顔は赤くなっていた・・・
図星か・・・
「やっぱ大石はスケベだな」
「英二っ!!」
ニャハハハ・・・
照れる大石をからかいながら、俺も着替える事にした。
じゃれあいながら着替えてると、何だかさっき溺れた事が夢のように思えてくる。
夢か・・・
今日見た溺れる夢。
今日本当に溺れた事実・・・・デジャブって大石信じるかな?
どうなんだろ?話してみようかな・・・
大石・・・実は俺。今日溺れる夢見たんだって・・・
大石どんな顔するかな・・・?
着替えを済まして医務室らしき部屋をでたら、俺は大石の反応が早く知りたくて 夢の話を切り出した。
「大石っ。お前デジャブって信じる?」
何とか終わりました〜☆
ホントはもっと不思議系というか・・・そんな感じ(どんな感じだ☆)にしようと思っていたのですが・・・気付けば大石のスケベ話?
何処で間違ったのでしょうか・・・またいつものパターンです☆
こんなお話ですが、楽しんで頂ければ嬉しいです。
2007.8.31