会いたい夜は


(side 大石)




「う〜〜ん・・・」



俺は机の上に置いた携帯を見ながら腕を組んだ。


たった一日・・・たった一日なんだけど、昨日英二からメールも電話も無かった。

それがどうした?

と、言われてしまえばそれでおしまいなのだが、携帯を持つようになって2カ月

英二から連絡がなかった事なんて、一度もないんだ。

毎日だいたい同じような時間に、メールか電話が入る。

それが昨日は、何もなかった。

その事を今日英二に聞こうと思っていたのに・・・


学校に行ってしまうと部活では新しく入った新入部員の相手、クラスに戻ると担任に何かと物事を頼まれて、すっかり聞く事を忘れていた。

いや・・それだけじゃない。

英二自身も普段と何も変わりなくて、いつも通りだったから昨日連絡をしてこなかった事なんて、その時は思い出しもしなかったんだ。

だから今日もいつも通り明日の練習の打ち合わせをして別れて来てしまった。



「はぁ・・・」



参ったな・・・改めて何かを話すなんて・・・英二に連絡する事なんてないんだよな。

でも・・・

何も話すことがなくても、何か連絡を取りたい。

メールでも電話でも、どちらでもいいんだ。

英二を身近に感じたい。

いつもならこんな事を考える前に、英二から連絡をしてくるのに・・・英二の奴・・

今日も連絡をしてこないつもりなのだろうか?

それとも・・連絡できない何かがあるのか?

いつも通りに見えたけど、いつもと違う何かが・・・

英二が俺に連絡をよこしたくないと思う何かがあったのだろうか?


俺は机の上の携帯を手に取ると、何も映っていない画面を覗いた。


・・・・・それとも・・・

ただたんに話す事がないだけ・・か・・・

そうだよな。携帯を持つようになって、連絡を取りやすくなって・・嬉しくて・・

それで毎日連絡を取っていたけど、携帯を持つ前は毎日連絡を取っていた訳じゃない。

必要な時に、必要な事だけ連絡をしていた。

だから・・これが当たり前といえば・・当たり前なんだ。

話すことがないから・・・連絡する事がないから・・・かけない。


俺はおもむろに立ち上がると、携帯を持ったままベッドへ移動した。

そしてベッドに座ると、そのまま体を横に倒した。

目線の先にアクアリウムが見える。



それでも・・・

この2カ月欠かさなかった連絡が無いのは辛い。

無意識に連絡が入るのを待ってしまう。

知らず知らずに・・・何か連絡する理由はないか、探してしまう。

何か今日英二の事で見落としていないか・・・必死に記憶を辿っている。


なぁ英二・・・今、お前は何を思ってるんだ?
















「あれ・・・英二?」



昼休み。

竜崎先生に頼まれていた資料を届けようと職員室に向かう途中、購買部近くの廊下で英二を見かけた。


あんな所で立ち話をして・・・


そう気になりながらも、時間がなくてそのまま立ち止まる事無く職員室に向かった。

特に何も普段と変わらない日常

普段何かと忙しく教室や職員室や部室を行き来する俺は、色んな所でテニス部員を目撃する。

手塚、不二、乾、タカさん、桃、海堂、新しく入った一年ルーキー越前

もちろん英二だって例外じゃない。

元々教室にじっとしているタイプじゃい英二は、他の部員と比較しても遭遇率が高い。

ましてやあの赤茶の髪は遠目でも目を引く。

というよりも、俺が無意識に英二を探しているのかも知れないが・・・

兎に角普段から、英二が誰かと立ち話をしている。

何てことはよくあることなんだ。

だからそんなに意識はしていなかったけど・・・

英二はあの時、女子2人と話しこんでいた。


なにやら楽しげに・・・

遠目でも喜んでいるのがわかるほどに・・・

だから告白では無いな・・・と咄嗟に判断して安心したのだけれど

それは俺の思い込みで、何かあの女子2人とあったのか・・・?

まさか英二の奴・・・あのどちらかの女子に気があるなんて事・・・


そんな・・・まさか・・・・・・・

ハァ・・・・馬鹿げてるな・・・こんな思い。

たった一日連絡がなかっただけで、英二を疑うなんて・・・

いや・・今日も連絡がなければ二日か・・・


英二が心変わりした。

何てことは、無いと思いたいけど

今日を振り返って思いつくのは、あの時の英二の嬉しそうな顔だけだ。

大きな目を更に大きくして、驚くように喜んでいた。


・・・英二・・・

そうだ・・・そうじゃないか・・・

英二が誰かと話をしていて、大声で笑っていたり、騒いでいたりなんてことはよくある事だけど

あんな風に驚いて喜ぶような姿を見るのは、珍しい事なんじゃないか?

それにそれだけの事があったのなら、普段なら俺に話す筈だ。

『大石っ!今日こんなに嬉しい事があったんだ!』って

それなのに・・・それらしい話は、部活の間も帰る時も無かった。

って事は・・・俺に内緒の話?

いや、でも・・・う〜〜ん・・・・


確かに部活の間の英二は、いつも以上にテンションが高かったかも知れない・・・

ダブルスの練習も集中力が途切れる事は無かった。

でもそれは俺達にとって、いい事なんだよな。

それに帰りだっていつも通り楽しく話をして、コンテナの上で明日の朝練の打ち合わせもした。

英二は練習の話をすると、いつもと変わらず燃えていたし・・・笑顔だって・・・


あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!



俺はガバッと起き上がると、ベッドの上で胡坐をかいた。


考えれば考えるほどわからなくなる。

何がいけなかったのか?

何かがあったのか?

ウダウダ考えたって、理由なんて思いつかない。

わかっているのは、英二と連絡を取りたい。

英二を身近に感じたいって事なんだ。


俺は枕元に置いてあった携帯を拾うと何も受信していない画面を覗いた。

時間はもうすぐ23時・・・

これ以上遅くなってしまうと、さすがに連絡しずらくなる。


かけるなら今だよな・・・

でも・・・かけて何て英二に話すんだ?



『英二。明日の朝練に遅刻するなよ!』



これは帰りにさんざん話をしたし・・・・



『明日は晴れるらしい。練習日和になりそうだな』



って、そんな事を今更わざわざ話をされても英二も困るよな。

じゃあ・・・



『今日の昼休み。女子2人と何を話してたんだ?すごく嬉しそうだったよな?』



ってこれじゃあまるで英二の事を見張っているストーカーみたい・・だよな。

それにそもそもこの昼休みの話だって、俺の思い過ごしかもしれないのに・・

それを英二にぶつけても・・・・



俺は一度目を瞑ると深く深呼吸した。



もう考えるのはよそう。

問題は俺がどうしたいか?なんだ・・・

連絡する事がなくても・・話す事がなくても・・・英二を傍に感じたい。

結局のところ行きつくとこはそこなんだ。

いつも英二が先に動いてくれるから、それに任せきりになっていたけど・・

話したいなら自分からかければいい。

ボタンを押せば・・・向こうに英二がいるじゃないか。

何も考える必要は無いんだ。

かけて、その場の雰囲気で話せばいい。

そういう事なんだ。



俺は自分に言い聞かせる様に英二のアドレスを開くと、ボタンを力強く押した。

携帯番号が点滅してコールを開始する。



・・・1回・・・・



「もしもし!大石っ!」

「えっ?あぁ・・英二?」



散々悩んだ挙句かけた英二の番号

コールを1回するかしないかで、英二は出て来た。



「何々?どうしたの?」

「えっ?あ〜・・」



でも想像以上に早く英二が出てきて、心の準備が間に合わない。

嬉しいとか安心するとか・・・そんな気持ちを確かめる事も出来ない。

あんなに傍に感じたいと思っていた英二が電話の向こうにいるのに・・

俺は・・



「いや・・えっと・・その・・」

「明日の事?」

「ああ。うん。明日の朝練には遅刻するなよ」



結局こんな言葉しか出てこない。



「何だよそれー。帰りに散々聞いたじゃん!わかってるって!」



英二が呆れたような声を出す。



「そ・そうだよな」



俺も・・わかっている。

ホントはこんな事が言いたい訳じゃない。



「じゃあ何?他に何かあったの?」

「あぁ・・えっと・・明日は快晴だ。だから練習日和になるな」



と思ってて、更に何を言ってるんだ俺・・・



「何?それが言いたかったの大石?

あのさ、俺だって天気予報ぐらいちゃんと見てるよ!

だからさ心配すんなって!ちゃんと遅刻しないし、練習も張り切るからさっ!」

「あぁ・・うん・・・・・・・・・」



・・・英二。

心配なんてしていないよ。

英二が練習を頑張っているのは、俺が一番よく知っている。

遅刻の事だってつい言ってしまうけど、英二が余程の事がなければ遅刻しない事だって俺は知っている。

わかっているんだ。



「もしも〜し・・・大石?どうしちゃったの?おーい!聞こえてる?」

「・・・・・・・聞こえてるよ」

「どうしたの?黙っちゃってさ。俺なんか変な事言った?」

「いや・・」

「じゃあ何だよ。気になるじゃん」

「うん。そうだな・・ごめん」



英二が何故・・昨日と今日俺に連絡して来なかったのか・・・

昼間の女子達と何かあったのか・・・

気になる事はたくさんあるけど



「あのさ・・」

「何?」



それ以上に俺は・・



「英二の声が聞きたかっただけなんだ」



たったそれだけ



「えっ・・・おおいし?」





それだけの事なんだ。






                                                                                                             END








今年初の大菊vv

ただ声を聞きたかった。

それだけのお話なんですけど・・・こういう事って実はよくある事じゃないかな?

と作ってみました。

楽しんで頂けていたら嬉しいですvv

2010.3.31