・北海道 (2007/08/08-17) その2
8月10日
埠頭をまだまだ暗い午前3時に出発し、雨に濡れて黒光りした5号線を東に向けて走る。 後ろから大型トラックが迫ってくるので居眠りで追突されまいか? と、バックミラーに注視しビクビクしながら走る。
石狩幹線に左折し、交通量がぐっと減るが、さすがに眠気が襲ってくるので走り始めて1時間程にある道内では最多コンビニ? のセイコーマートで眠気覚ましの缶コーヒーとミントの喉飴を買って5分程の休憩。 雨はひどくもならず、比較的走りやすい。 石狩川の長い橋梁を渡り、しばらく走るといかにも日本海沿いの道になる。 後続車も対向車もおらず、信号にも引っ掛からない。 こんなところでカブがトラブったらどうしようもないが、今の所絶好調。 浜益辺りになると少し明るくなってきた。 ヘッドライトを頼りにしなくて良いので目も疲れにくく、多少気が楽になる。 道路は一本道で、これまでバイクや車で何十回も走った道なので地図も要らない。
最北端の造り酒屋の国稀酒造で知られる増毛を通過する頃はまだ6時前。 車の通行も人影も殆ど見当たらない。 程なく留萌市に入り日本海沿いの道に入るが、この留萌市はいつ通っても道なりがややこしいと言うかごちゃごちゃしていて方向感覚がおかしくなる。
変則的な交差点を通過して海岸線らしい道に入った頃には舞鶴市で満タンにしてきた燃料がほぼ無くなりかけてメーターの針が空の位置に張り付いている。 自転車用のメーターを改造して付けたトリップメーターが小樽を出発してから150キロになっていた。 エンジンがプスプス言い出したので時々カブを走りながら前後に揺さぶりタンクのガソリンをキャブレターに送るとしばらく復活する。 その繰り返しで何とか数キロ持ちこたえたものの、小平の町を過ぎて数キロのところで遂にガス欠。
まだ7時にもなってないので当然ガソリンスタンドも営業していないし、市街地以外には殆ど無い。 これまで何十回も北海道を旅してきて、そんなことも充分覚悟していたので今回は5リットルの携行缶に予備ガソリンがあるので鬼に金棒。 リッターあたり40キロとしてほぼ360キロ走れる計算になる。 風力発電のプロペラが見えるバス停の前にカブを停めて給油を
する。 時計を見れば6時20分。 トリップメーター170キロ。 3時間20分走りづめで平均時速は50キロ、燃費は42〜3キロってところ。 積み荷と比較的飛ばしているのでちょっと燃費が悪いようだ。 幸い小雨も止み、雨中で作業をすることもなく、携行缶の8割方にあたる4リットルを補給する。
満タンになって元気百倍、アクセルには気を使わず更に北上。 数分で到着の小平の道の駅 『 鰊番屋 』 に到着。 誰も居ないトイレで用を足したあとは苫前、羽幌を一気に通過して初山別の道の駅で再びトイレ休憩で時計を見れば7時50分。 10時50分の礼文行きフェリーに乗ろうとしているのだが、ここから稚内まで約130キロで3時間なのでそれ程時間に余裕は無い。 左手の日本海越しに本当は見える筈の利尻富士を想像しながら、どんより曇ったオロロンライン、道道232号線を60キロ前後のスピードで走る。 稚内に着いてガス欠で慌てないように天塩の町でガソリンスタンドでの補給。 北海道に上陸して初めてのガソリンスタンドになる。 何年か振りにホクレンで 『 セーフティーサマー北海道 』 のキャンペーンフラッグを貰った。 荷物紐に青いフラッグを括りつけて先を急いだ。
9時前、天塩川を渡って幌延の28機の大規模な風車が見えた。 稚内までもう少しなのに、ここに来て止んでいた雨も再び降りだして意気消沈。 北緯45度線、利尻富士の絶好のビューポイントの稚咲内ドライブインを通過。 真直ぐで上下に緩やかに波打つオロロンラインを北上して行くと、冬ならアザラシが見れる抜海を過ぎればもう少し。
結局10時ちょうどに稚内港に到着。 2時間ちょっとで130キロと随分頑張って走って来たもんだ。 ハンドルから手を離せない右手が振動で痛い。 カッパを脱いで畳んでターミナルで乗船手続きを済ませ、自販機で缶コーヒー片手にホッと一息。 乗船手続きも人だけなら鉄道の切符と同じ自販機だけ。 後から聞いた話では、個人情報保護法で乗船に書き込む乗船の用紙を廃止したとか。 普通は法に従ってセキュリティ管理をしっかりするのだが、珍しいケースであるが独立国家? の北海道と言えば北海道らしい。
今回の礼文島に渡るにあたって、カブを稚内に置いて行くかフェリーに乗せて行くか随分考えた挙句、稚内での預かり料と島でのバス代なりレンタサイクルかレンタバイク料、荷物の積み替えの面倒を差し引けば島に持ち込んだ方が良さそうで、往復約5千円のを奮発することにした。
待ち時間の暇の間に今晩と明日泊まる予定の礼文島の南端近くにある民宿 『 なぎさ 』 に予約の電話を入れる。 初めての宿泊なので、『 どなたかの紹介ですか? 』と聞かれて『 義兄の紹介です 』
と答えた。 義兄が良く泊まっている宿で、嫁さんも以前に何度かここを利用していたらしく絶賛していた。 イメージは掴めていたので初めて泊まるにも緊張しなくて済む。 稚内ドームで記念撮影をしたり、ろくに朝食も食べていなかったので舞鶴で買ってフェリーで食べ残したパンを食べながら乗船時間を待つ。
日本最北端の町に来ても小樽と同じで蒸し暑くてこれが本当に北海道かな? と疑わしくなる。 14年前に初めてバイクで来た時には寒くて新聞紙をジャケットの下に入れて走ったくらいで、道東の別海のガソリンスタンドではストーブ焚いていたのになぁ。
乗船時刻になって埠頭の係員に誘導されてフェリーにカブを走らせる。 車両甲板内で大きくUターンして側壁に停めてハンドルロック。 3ヶ所をロープで固定される。 舞鶴から小樽までとは違い、車両甲板は閉鎖されないし、至ってオープンな雰囲気である。 客室を抜けて後ろのデッキのベンチで潮風に吹かれながら出港を待った。
程なく 『 ブォ〜ッ!! 』 の汽笛と共に出港。 稚内ドームな全容が見えたかと思えば防波堤の灯台をかすめて湾外に出る。 やけに目立つ全日空ホテルもどんどん小さくなって、町の背にある高台の自衛隊のレーダードームが見え、いずれ霧の中に消えてしまった。 ついてくるウミネコに船内の売店で売っている50円の 『 かっぱえびせん 』 を投げて遊ぶ外人くらいしか見るものは無くなってしまい、疲れもドッと溜まっていたので船内の客室で横になってうたた寝。 昨日、一昨日と殆ど寝てなかったので5分と経たない間に寝入ってしまった。
一時間程寝てデッキに出ると右舷に礼文島が見えてきた。 何せ霧か小雨で本土側からも礼文、利尻は見えないので雲の中にある島と言う印象でアニメの 『 天空の城ラピュタ 』 的な感じ。 11年前に来た時は快晴で、ずっと島が見えていたのでこんな印象ではなかった気がする。
礼文島の玄関口、12時50分の定刻どおりに香深港に到着。 相変わらずどんより曇っているが、雨は降っていないのでカッパを着る必要は無さそうだ。 前に来た時と港の雰囲気が随分変わっていて、ターミナルが新しくなっていて、大きな旅館や売店が出来ていた。 宿の方から港の案内所で場所を聞いて一度チェックインして下さいと言われていたけど、だいたいの場所は予想付いたので、下船して南に向かって走り出した。
港から少し走ると道幅が一気に狭くなって自動車ですれ違うのがやっとというような細道になる。 それらしい民宿を気にしながら漁師の家が殆んどだろう集落を走ると5キロほどで行き止まりになった。
『 あれっ? 民宿有ったっけ? 』 と今度はゆっくり慎重に引き返して2キロほど戻った奮部 ( フンベ ) と言う集落の辺りで 『 旅の宿 なぎさ 』 の看板が掛かった家が見つかった。 2軒並びの民家の片方で、特に民宿と言う飾った雰囲気では無く、民家に一枚板の看板が玄関引き戸の上に吊り下げられているだけである。 派手な建物ではないのと、緩いカーブの内側だったのでさっきは見逃してしまっていた。
玄関を開けて、 『 こんにちわぁ〜! おせわになりますぅ〜! 』 と声を掛けると廊下の奥から 『 いらっしゃ〜い! K君? 』 と迎えてくれた。 宿主は、文夫さんと言う方で気さくなお兄ちゃんの雰囲気。 お母さんとお姉さんとで宿を切り盛りしているらしい。 家族連れ客の方がいらっしゃったので、食堂を分けるために変則的な部屋割り?? になって、到着すぐには部屋は無いとの事。 旅人宿には良くある話。 取りあえず宿泊の荷物を玄関脇に置いて、夕食の18時前までに帰るように告げられた。 11年前には北海道3大キチガイユースのひとつ。 『 桃岩ユース 』 に泊まって島の西海岸の 『 愛とロマンの8時間コース 』 しか歩いていなかったリベンジと言うか、マイペースで東海岸や岬を廻ること、今回の目的である気ままな散策を実行に移す。
宿泊のための着替えなどを宿に置いて身軽になってさっきフェリーで上陸した香深港を横目に島の北端を目指すが、途中何かのイベントか待ちのメインストリート、港の前の道路は通行規制。『なんだろう?』と思いながらも、11年前は8時間コースを歩くために早朝をバスで走ったのであろう道を、いつもの通勤に使っているマイカブで走る。 大阪を出て500キロ近く走ってきているが疲れも見せずに快調に走る。 こんなに遠いところまで自分を連れて来てくれるスーパーカブを愛おしく感じる。
礼文島東海岸にある唯一の道道40号線を北に向かって走れば、曇り空から次第に晴れ間も見え出して太陽が顔を見せた。 昆布とウニ漁の小船を係留した小さい港がいくつも目につき、礼文島が観光を除けば昆布とウニで生計を立てていることをうかがい知れる。
宿から1時間ほど走ってスコトン岬に着いた。
北海道本土から遠く離れた小さな島とは言っても、 『 花の浮島 』 で知られる礼文島。 しかも最北端の岬と有って次々に観光バスがやって来てはひな壇の記念撮影台で集合写真。 土産物店にトドのように 『 ドドーッ 』 と押し寄せて
最北限トイレで用を足して10分ほどで去って行く。 ツアー旅行の寂しさを感じる。 観光客は何を感じて帰るのだろうか? きっと 『 稚内の横の礼文島の一番北の岬に行ってきた! 』 くらいの記憶しか残らないのだろう。 この島には本州の高地でしか見られない花が咲いていることは旅行ガイドで見たとしても実際には見ることも無く帰るのだろう。 やはりツアーが安いのはわかっていても絶対利用しようとは思わない。 少なくとも国内旅行に於いては・・・
快晴のスコトン岬をあとにして、夕食までまだまだ時間が有るので稲穂の先に寄ることにした。 8時間コースを歩いていて最初に通過する集落で、最果て感が漂う漁師の港の雰囲気がいっぱいである。 草原の丘陵を越えて10分ほどの距離。 丘をどんどん下ると港になる。
ひとけも無くて11年前の記憶を辿っても、この村を歩いた記憶が全く無い。 ボケたかその時には余程印象に残らなかったのだろう。
港でUターンして元来た道を戻る途中、スコトン岬の半島を望める高台を通ると岬に薄っすらと帽子を被ったように雲が掛かりだしていた。 島の天気は山や岬の表裏で大きく変わる。 今頃スコトン岬に行けば曇り始めているのかも知れない。青い海の湾を見下ろしながら民宿に戻ることにする。 近いとは言っても24キロほど有るので家から会社に行くより遠いくらい。
帰り道は久種湖から少し遠回りして礼文空港のある金田ノ岬を回ってみた。 2003年に利用者の減少で廃止になったらしく、ここに空港が有ると言う雰囲気は全く無くて漁業中心の村としか見えない。 結局20年少々しか利用されなかった礼文空港は僻地開発のための税金の無駄遣いだったのかもしれない。 結局地元の人たちも観光客も利用することは殆んど無く、最高でも年間4000人だとか。 毎日飛行機が発着したとしても1日12人の利用である。 空港施設を建設したと言う事実だけが残されて、今後ここに定期便が発着する事は無いのだろう。
海岸線沿いの道を南下して宿に向かって走る。 南に行くにつれて天候が悪くなってくる。 雨は降らずとも今にも降り出しそうな灰色の雲が空を覆っている。 海岸には握りこぶし位の石が敷き詰められていて、昆布を干すために石の隙間から生えてきた雑草を抜く作業をあちこちでしている。 道内でよく見られる昆布干しの浜がどこもきれいに見えるのは、このように毎日世話をしているからだと初めて見ることが出来ました。
宿に到着すると16時。 同じような独り旅や家族連れの泊まり客が、ぼつぼつと宿に到着し始めていた。 居間で夕食までの時間を潰していると、独り旅の女性客がやってきた。 仕事が同じ関係のN村さんだった。 自分と同じように北海道にハマって何度かサロベツの民宿で一緒になったことがある。 今回礼文に渡ることは聞いていたが、同じ宿とは偶然でした。
待望の夕食時間。 食事も人気のひとつの宿だけあって、食事目当てにやってくるリピーターも多いとか。 宿主はオフシーズンは札幌のホテルだかの厨房で仕事をされているとか。一般的な旅人宿の安宿と違って料金は普通だけど、刺身、煮物、揚げ物、御飯、デザートとフルコースで満足のいくものでした。 初日の夕食の写真を取り損ねたのが残念ですが、丁寧に心をこめてこしらえているのが窺い知れました。
夕食のあとは皆で後片づけ。 食器を一箇所に集めて、これは他の宿でもよくある光景ですが、常連のお客さんがエプロン姿でどんどん流し場で洗い物を片付けて、テーブルはもちろん、畳の上までキッチリ拭き掃除。 建物は古いものですが、屋内はとてもきれいにされていて清潔感が漂う居心地の良い宿です。
片づけが済んだところで今度は昨日が予定だったらしい 『 海峡祭り 』 と呼ばれる島の夏祭りが昨晩荒天のために今晩に延期で、港で花火大会があるとか。 泊まり客は宿の車で港まで送っていただいて港祭りに繰り出します。
香深港のすぐ裏のメインストリートには露天が立ち並んで島らしい、新鮮なツブ貝、ボタンエビ、ホタテ貝がその場で焼いて売られています。 多分島中の人が集まったと思われるくらいの人出で、港には数え切れないくらいの島民のマイカー。 誰もが道路中央に
設置されたテーブルに陣取って生ビールを飲んでいます。 しかも1人1杯どころじゃなくて・・・
電車もバスも無くて、全員がタクシーで帰る訳が無いし警察官も警備にあたっている。 この島は細かいこと言いっこ無しなんでしょう。 メインイベントなのか、立派な舞台と音響機器を備えたカラオケ大会がたくさんの観客と大音声で賑わっています。
しばらくすると花火大会の始まりです。
湾の防波堤辺りから打ち上げているようで、海面にも光が反射してきれいなものです。 しかも人の山だかりも無く、夜になって多少涼しくて地べたに座りながらの観賞。 PL花火にはとても敵いませんが、北海道のこんな離れ小島にしては打ち上げ数も花火の規模も意外なほど立派です。 1時間ほど祭りと花火を楽しんだあと、宿のほうから迎えに来ていただいて帰途につきます。 延期になったおかげも有ってこんなに遠くの祭りに遭遇することが出来ました。 ラッキーだったのでしょう。
宿に戻って居間でのお酒タイムも途中で引き上げて先に休むことに。 大阪を出てから、丸2日ろくに睡眠も取らずに走りっぱなし。 今日は家を出てから初めて布団で寝られるので寝るのが嬉しい。 結局、早朝から島を歩くお客さんが多いせいか、早起きにそなえて22時過ぎには消灯になりました。
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