● 指揮・演出  神尾 昇 (かみお  のぼる)  さんにインタビューしました。 


[プロフィール]

 香川県小豆島出身。
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。同大学指揮科に再入学、首席で卒業。同大学では、新設された奏楽堂にて初の卒業式を記念する、オペレッタ「こうもり」の総監督をつとめた。
オーケストラ、吹奏楽、オペラ、合唱などレパートリーは多岐に渡る。
2005年ヨーロッパで行われた「第一回ベラ・バルトーク国際オペラ指揮者コンクール」において最終ラウンドを待たずして、「審査員特別賞」を受賞。受賞者披露のガラコンサート「カルメン」では、終幕を指揮し、その模様は国営放送でも放送された。


[インタビュー]

Q1. 指揮者になろうと思ったきっかけは?  指揮者として大切にしていることは?

A1. 私が幼稚園児の時に両親がピアノを習っていた姉のためにピアノの曲集のLPを買い与えたのですが、どういう訳かそのうちのチャイコフスキーのピアノコンチェルトのレコードを私が気に入ってしまい、毎日幼稚園から帰って来てはそのLPを聴いていました。そして小学生になってからピアノを習い始めました。小学4年生の時に来日したカール・ベームがウィーンフィルの指揮をした映像を、わざわざ夜に起きだして見た時に「指揮者になりたい」と思った記憶があります。そして5年生の時に母にせがんでクラシック大全集という30枚セットのLPを買ってもらいました。バロックから近代まで網羅したものでいまでも実家に置いてあります。この頃は本当にクラシックが好きで、テレビを回してクラシックの番組をやっていると指揮の物まねを菜箸でやっていたものです。
 指揮者として大切にしている事は、まず「作曲家が書いた事に忠実に」ということです。そのために私は譜面を読む時に「なぜここはフォルテなのか、なぜここはピアノなのか、」を自分に問うようにしています。フォルテと書いてあるからフォルテ、ではないのです。そうして出て来た答えは作曲家が意図して書いたもの、と私は考えています。


Q2. 指揮と演出を兼ねることは大変と思いますが? 演出をしたいと思われた理由は?

A2. 現場で指揮者と演出家が仲がいい、というのをあまり見た事がありません。かといって悪い、という訳でなく、役割が違うのでお互いに触れないようにしている、というのが事実でしょうか。
 そういう意味では指揮と演出を両方する、というのは自分の意図が全て表現できるので私は楽しいと思います。もちろん指揮をしながら演出をするのはもの凄く神経を使いますが、私は楽しいと思ってやっているので大変とは思いません。
 演出をしたいと思った理由は以上に加えて、音楽の事をよく解っていない演出家が多くいる、と思った部分もあります。作曲家が意図して、例えばドアを閉める音、などを音にしているのにそのように歌手が動いていない、という場面を見た時に「自分だったらこう演出するのに・・・」と思った訳です。


Q3. ヴェルディの音楽の特質とは?

A3. ヴェルディの音楽の特徴は、まず音が非常にかっちりとしていて遊びがあまりないということです。場面場面の音楽も非常にはっきりしていますから、聴いていてスピード感を感じる事が出来ると思います。あと、アリアの最後にカデンツと呼ばれる無伴奏で歌手が好きに歌う部分が用意されているのですが、そこも聴かせどころだと思います。アリアが終わると拍手を受けられやすくなっているのです。


Q4. 仮面舞踏会はどんな音楽ですか?

A4. この仮面舞踏会も先に述べた、非常にかっちりしている曲の一つです。そして旋律が美しく、聴きどころ満載です。あまり上演回数が多くないのは残念ですが、普通は主役の女性が死ぬのが原則なのに、このオペラは主役の「男性」が死ぬので人気が出ないのでしょうか(笑)


Q5.演出のコンセプトは? 舞台をスウェーデンに戻した理由とは?

A5.先に述べたようにこのオペラは主人公の男性が最後に死にます。それは実はこのオペラは史実に基づいたものだからです。スウェーデンの啓蒙専制君主グスタフ3世が1792年に仮面舞踏会の壇上で暗殺された事件を題材に、王と暗殺者アンカーストレム伯爵の妻との架空の恋を絡ませたものです。ヴェルディがこのオペラを上演しようとした時「国王が暗殺される」という内容ではイタリアでは上演できませんでした。そこで舞台をイギリス植民地時代のアメリカ・ボストンに移し、主人公グスタフ3世はボストン総督リッカルド、暗殺者アンカーストレム伯爵は総督の秘書レナートに、国王に反対する貴族ホーン伯爵とリッビング伯爵をそれぞれトムとサムエルとして上演しました。
 しかし内容から見て総督が殺されるのと、国王が殺されるとでは申し訳ないけれど衝撃が違います。それにヴェルディは明らかに国王暗殺、を思い描いて作曲していると私は思ったのでこの度の設定にしました。
 ちなみに占い女のウルリカもウルリカ・アルヴィドソンという実在した人物です


Q6.主要キャストへの期待お聞かせください

A6. 今回のキャストには本当にワクワクさせられています。みなさん本当にいい意味で強烈な個性の持ち主ですし、こんなに適役が揃うと嬉しくてたまりません!きっと素晴らしい舞台に仕上がると思います。


Q7.2年ぶり6回目のオペラ徳島ですが、改めてオペラ徳島の印象は?

A7. いい意味でも悪い意味でもアットホーム、ということです(笑) 東京ではオペラの現場というのはピリピリしがちですが、徳島の皆さんは温和で練習場が非常にいいムードになっているのが救われます。逆にちょっとノンビリな部分もあってハラハラしますが(笑)





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Un Ballo in Maschera Interview
第13回公演「仮面舞踏会」 インタビュー