なつまつりなにわかがみ
夏祭浪花鑑


【見どころ】
いろいろあるんですが、やはり「長町裏」の場の舅殺しの場でしょうねぇ。
通称、泥場本水、本泥を使っての立ち回りが見ものです。
見得を切りながらの様式美の濃い殺し場は、なんだかスローモーションを見るよう。
BGMの祭り囃子も効果的に緊迫感を盛り上げます。
あと、個人的な趣味で言えば、「釣舟三婦内」の場のお辰引込みが好き。
自らきれいな顔を傷つけてしまったお辰に、
三婦の女房が「ダンナに申し訳がない」とか言うと、
お辰は、「こちの人が好くのはここじゃない」と顔を指さし、
「ここでござんす」と胸元をポンと叩く
くーっ、カッコいい。いちどでいいから真似してみたい(笑)
けど、美人という大前提がないとダメなのはいかんともしがたく・・・(爆)
あ、まったく違った意味でなら今すぐにでも使えるのか・・・(自爆)
え〜、お辰の、の紗にの帯という衣裳も粋で、涼しげでよござんすぅ。
そうだ。衣裳といえば、むさ苦しかった団七が髪結床から出てくると、
スッキリしたいなせな男にガラリと変わっているのも見どころかも。
この時、団七は演じる役者の家紋を首抜きにした衣裳と決まっています。粋です。
ところで、この芝居、関西で上演する時は大阪弁だそうな。
「なにしてけつかる」「いてやるわい」・・・
一度、こてこての大阪弁で見てみたい。

【あらすじ】
堺の魚売り団七九郎兵衛が、恩人である玉島兵太夫の息子の磯之丞
その恋人の琴浦を悪人から守るために、女房のお梶
玉島にゆかりのある一寸徳兵衛とその女房お辰
親しい老侠客の釣舟三婦らと協力し、心を砕き骨を折るが・・・という話。
上演されることの多い、三場を解説しておく。

「住吉鳥居前」
悪人の大鳥佐賀右衛門の仲間にケガを負わせ牢に入れられていた団七が、
玉島兵太夫の計らいで牢から出てくることになった。
出迎えるのは女房のお梶と子の市松、そして親友の釣舟の三婦だ。
縄をとかれた団七は、むさ苦しいなりをサッパリさせるために髪結床へ。
悪人の佐賀右衛門にしつこくされて髪結床に逃げ込んだ琴浦を、
別人のようにスッキリとしたいい男になった団七が助ける。
佐賀右衛門を追い払った団七を呼び止めた者の中にいたのが一寸徳兵衛
団七と立ち回りになるが、団七の女房お梶が止めに入る。
やがて、ともに玉島兵太夫にゆかりの者同士であると分かり、
ふたりは互いの片袖を取り替えて協力を誓い合う

「釣舟三婦内」
団七の世話で道具屋に奉公した磯之丞だったが、
その家の娘と深い仲になり心中騒ぎを起こしたあげく人を殺めてしまう
(ヲイヲイだよ、まったく。恩人の息子とはいえ、こんなのをなんでかばうのかね?)
そんな磯之丞を琴浦とともにかくまっていたのが釣舟の三婦
そこへ徳兵衛の女房お辰が訪ねてきた。夫より先に備中へ戻るという話を聞いて、
磯之丞を預かってくれと言い出したのは三婦の女房おつぎ
快く引き受けるお辰だったが、三婦は難色を示し、
お辰の顔に色気がありすぎるから磯之丞を預けるわけにはいかないと言い出す。
それを聞いたお辰は、火鉢にかけてあった鉄灸を自分の顔に押し当て
自らに火傷を負わせ「これでも色気がござんすか」(いよっ、鉄火な姐さん!)
心意気に感じた三婦は、磯之丞をお辰に預けることを承知する。
入れ替わりに団七の舅の義平次があらわれ、
団七に言われて琴浦を迎えに来たと言うので、
その言葉を信じたおつぎは琴浦を渡してしまう。
あとからやってきた団七は、それを聞いてビックリ仰天
お梶の父とはいえ強欲な義平次のこと、琴浦を佐賀右衛門に渡すに違いない。
団七はあわてて義平次のあとを追いかける。

「長町裏」
長町裏でようやく義平次に追いついた団七
琴浦を佐賀右衛門に渡されては男が立たないから、ひたすら下手に出る。
強欲じじいには、そうだ、金。と思いついて、
手元に三十両あると嘘をつき、琴浦をのせた駕籠を戻させる。
しかし、団七が金など持っていないことを知った義平次は怒り心頭、
雪駄で団七の眉間を割り罵詈雑言を浴びせかける。
我慢に我慢を重ねていた団七だったが、ふとしたはずみで義平次を切ってしまう。
「人殺しーっ!」と叫ぶ義平次に、ついに覚悟を決め、団七はとどめを刺す。
悪い人でも舅は親。団七は事切れた義平次にわびながら、
祭りに紛れてこの場を去っていくのだった。

この後、団七の舅殺しを知った徳兵衛が三婦と一緒になって、
お梶と市松を科人の家族にしないように図ったり、
大詰では、捕手となった徳兵衛が団七に金を渡し、逃走を手伝うなどする。
この芝居は男同士の固い友情を描いているとも言える、かも。

【うんちく】
延享二年(1745年)、大坂で、人形浄瑠璃として初演。
作者は、並木千柳、三好松洛、竹田小出雲。
初演の翌月には、早くも歌舞伎化された丸本物