かがみやまごにちのいわふじ
加賀見山再岩藤

【別の名前】
こつよせのいわふじ
骨寄せの岩藤

【見どころ】
この芝居、実は人気演目の「加賀見山旧錦絵」という芝居の後日譚になっている。
前作(?)で主人の仇として討たれたはずの岩藤が、
なんと骨から復活する場面が何と言っても最大の見ものでやんしょう。
「骨寄せの〜」と俗称にもあるように、バラバラだった骨が寄せ集まって、
それが岩藤へと姿を変える。暗闇から一転して桜が咲き乱れる春の山があらわれ、
日傘をさした岩藤が宙乗りで悠然と去るところは、ほんとーに面白い。
なんでも、この宙乗りは「ふわふわ」とか呼ばれるそうでやんす。ぜひ、ご覧あれ。
それと、岩藤が自分を討ったお初(今は二代目の尾上になっている)への仕返しとして
初代尾上にしたのと同じように草履打ちにするのも見ものざんす。
っつーことで、元の芝居を観ておくと、より楽しめるはず。
なお、この芝居、今では猿之助さんの専売特許のようになっているみたいなので、
猿之助さんお得意の複数役の早替りもまた見ものでやんす。
大詰に元の芝居にはない悲劇の一幕があり、それも見どころのようですが、
悪いが覚えがないなりよ。スペクタクルに目をとられていたもんだから(苦笑)
今度見る機会があったら、そのへんもちゃんと見ておきまする。

【あらすじ】
「大乗寺花見」
多賀百万石の当主大領の側室お柳と、その兄の望月弾正は御家横領を企んでいた。
正室の梅の方は大事が起こらなければいいと案じていた。
というのも、数年前にも同様に御家横領を企んで成敗された岩藤が
あの世で逆恨みしているのじゃないかと、まことしやかに噂されていたからだ。
花房求女も大領の放埒をいさめるが、反対に不興を買い、
そのうえ家宝の香炉紛失(本当は弾正一味の陰謀)の咎も負わされて追放されてしまう。

「八丁畷馬捨場」「骨寄せ怪異」「花の山」
多賀家の馬の死骸を捨てる馬捨場。この荒れ地に、岩藤はそのまま捨てられていた。
そんな状態では岩藤の霊は浮かばれず(って、あったりまえやろ〜)
すでに白骨と化しているが怨念がすさまじいという(そら、しゃ〜ないやん。苦笑)
一方、その岩藤を討ったお初は二代目尾上となり、姫様づきの中老に昇格していた。
尾上が、野ざらしになった岩藤も回向しようと念仏を唱え始めると、
なんと散らばっていた白骨が寄り集まり(暗いけど目をこらすとトリックが見えるかも)
やつれ果てた岩藤の姿になって恨み言を言うではないか。
いったんは尾上の持っていた朝日の弥陀の尊像の威力に負けて消え去るが、
やがて岩藤の亡霊は元の局の姿に復活を遂げると、
桜満開の春景色の中を、ふわふわと宙を舞い、多賀家の御殿の方へと去るのだった。

「多賀家下館堀外」「浅野川」
求女をかくまっている鳥居又助が主人の帰参を願って下館へやってきた。
その又助に、悪人方の一味の蟹江一角お柳暗殺をもちかけ、刀を手渡す。
当然ながらすべては悪の陰謀で、渡された刀は実は求女の所持品、
さらに一角は正室お梅の方の提灯に細工をほどこすし、お柳の方に見せかける。
そうとは知らない又助は、提灯の印をたよりに、
行列の駕籠に白刃を突っ込むと、混乱に紛れて逃げていった。
そうして奥方殺害の現場には求女の紋の入った刀が残されたのだった。

「多賀家奥殿廊下」「多賀家奥殿草履打」
奥方の守護を怠った罪で、お梅の側近だった者が入牢となった。
悪人一派が次に狙いを定めたのは、病身の姫君に献身的に仕えている尾上だ。
上使としてやってきた弾正は、実は尾上こそが御家横領を企む張本人と決めつけ、
尾上に詰め寄るが、そこで怪異が再び起こった。
絢爛豪華な金殿がたちまち荒れ御殿に変わり、弾正の姿は消え、
なんと岩藤の亡霊があらわれた! そして草履で尾上を打ち据えたのだ!
しかし、尾上が鬼子母尊像を差し付けると、岩藤の霊は白骨と化して消えうせる。
御殿も元の金殿に戻って、弾正もまた元どおりに。
いったい何が起こったのか・・・。

「鳥居又助内切腹」
鳥居又助にかくまわれていた求女は病のため足萎えとなっていた。
求女を愛する又助の妹おつゆは、薬代のために苦界へ身を沈める決心をする。
それを聞いて、全快したら必ず請け出して女房にすると約束する求女。
しみじみとしているところに、浅野川の岸で拾ったという刀を持って
家老の安田隼人がやってきた。お柳暗殺の手柄で主人の帰参がかなうのか、と
喜ぶ又助に、知らされたのは死んだのはお梅の方だったという事実。
主人によかれと思ってしたことがとんだ過ちだったと知り、切腹の覚悟を決める。
目の不自由な弟の志賀市が弾く琴の音を聞きながら、切腹する又助。
求女の御家帰参、妹弟の行く末も請け合うという隼人の言葉に安堵し、息絶えた。

「多賀家下館」
御家乗っ取りを急ぐ弾正は、大領を討とうとするが、誤ってお柳を殺してしまう。
実は、弾正とお柳、兄妹とは仮の姿で、本当は夫婦だったのだ。
お柳が身ごもった我が子に多賀百万石を継がせようと考えたのが、そもそもの発端。
しかし、自分が隼人の生き別れた妹であったことを知ったお柳は心を入れ替え、
我が身を犠牲にしてまで夫の弾正をいさめようとしたのだ。
夢破れた弾正は、いったんは抵抗するも、観念して自害して果てた。
これで万事解決かと思いきや、しぶとくも岩藤の亡霊がまだまだ残っていた。
岩藤の霊は、恨みのある尾上を取り殺そうと襲いかかる。
が、やっと目が覚めた大領が鬼子母尊像を持ってあらわれると、
たちまち骸骨となりバラバラになって消えうせた(今度こそほんとーだろうなぁ。苦笑)
こうして、やっと多賀家に平和が戻ったのだった。めでたしめでたし。

【うんちく】
安政七年(1860年)初演。河竹新七(黙阿弥)作。
「加賀見山旧錦絵」のパロディとして尾上家が得意としてきた演目らしいが、
上演が途絶えていたのを故・中村勘三郎が復活し、
今では猿之助の大当たり狂言となっている。