かがみやまこきょうのにしきえ
加賀見山旧錦絵

【別の名前】
かがみやま
鏡山  と、通称で呼ばれたりする。

【見どころ】
やっぱり、仇となる局の岩藤(いわふじ)の不気味なまでの憎々しさでしょうね。
女の役なんですが、この役は立役をする人がつとめます。
竹刀打ちの場に出てくる岩藤付きの奥女中も立役の人がつとめて、ちょっとおかしい。
どう見ても、とても女には見えない(爆)でも、これがいいんですね。
いじめられて自害しちゃう尾上(おのうえ)との対比を
色濃くするために考えられた歌舞伎ならではの演出だと思います。
実際、岩藤が憎らしく見えれば見えるほど、尾上がかわいそうになります。
仇討するお初女武道と呼ばれる役。かわいらしい中にもきりりとしたとこが魅力。

【あらすじ】
物語の根底には多賀(加賀にあらず)百万石の大名家の御家騒動があります。
局の岩藤は兄の剣沢弾正(つるぎさわだんじょう)と御家乗っ取りを企てており、
それを尾上は知っていて、事あるごとに兄妹の陰謀を阻もうとしている。
だから岩藤にとって尾上は単なるライバルではないんですね。
そうしたことが背景にあって鏡山の仇討話がはじまります。

「竹刀打ち」
桃の節句に奥御殿の取締役として威張っているのは局の岩藤
実は彼女、中老の尾上が気に入らない。姫君がなにかと尾上を頼りにするから。
自分のほうが上役なのに、なんともまぁ腹立たしい!って思ってるわけ。
で、尾上をやり込める方法を考えて、姫の御前での立ち会いを申し出たの。
町人の出の尾上には武術のたしなみはないだろうと踏んだのね。
実際その通りで、尾上は困っちゃった。そこを救ったのが、尾上の召使いのお初
これがなかなかの腕前で、岩藤付きの奥女中なんてバッタバッタ。
岩藤にも勝っちゃった。こうなると面白くないのが岩藤よ。
あろうことか、下がろうとするお初を後ろから足を払って竹刀で打ち据えたの。
なんちゅー卑怯な!と、お初も気が強いから再試合を申し出るんだけど、
そこはそれ、道理をわきまえた尾上にたしなめられて、結局、あきらめたんだ。
(にしても、ほ〜んと底意地の悪いヤな女よぉ、岩藤って)

「草履打ち」
多賀家の奥殿に大殿の使いとしてやって来たのは岩藤の兄、剣沢弾正
なんでも蘭奢待(らんじゃたい)とかいう名前の香木を受け取りに来たらしい。
ところが、尾上が出した箱に入っていたのは草履の片っぽだけ。
その草履には岩藤のものであることを示す印が入っていたんだけど、
もう片方の草履が尾上の部屋から出て来ちゃったから、さぁ大変。
「罪をなすりつけるつもりだったのか!」とか言っちゃって
岩藤は尾上を、日ごろの恨みも込めて、なんと草履で打ち据えたのさ。
尾上としたら岩藤達のしわざぐらいは察しがついても、
この場ではいかんともしがたく、ただじっと耐えるしかない(かわいそ〜)
うまくいった、と弾正と岩藤の兄妹はともにほくそ笑む(なんちゅーヤなやつら)

「長局尾上部屋」
髪を乱したまま部屋に戻ってきた尾上は、まるで元気がない(当たり前だ〜ね)
なにやら手紙をしたためると例の草履とともに文箱に入れて、
親元に届けてくれとお初を呼ぶ。
尾上の様子がいつもと違うから、気になってならないお初は行きたくない。
でも、逆らうなら首だと言われては仕方なく、使いに出ることに。
ひとり残った尾上は・・・。(もしや、尾上さん・・・というところで舞台が回る)

「堀外烏啼」
供する者が不吉なことばかりを言うから、お初はますます尾上が心配になる。
そこへ蘭奢待を盗んだヤツとそれを追う者とがやって来る。
お初も交えて三つどもえでもみあううちに尾上の文箱の中から手紙と草履が。
まさか! 主人の身を案じ、お初はあわてて館の方へと引き返す。

「元の長局尾上部屋」
戻ってみると尾上自害していた。が、かすかに息がある。
虫の息で、姫君から預かっていた尊像も岩藤に奪われたと言い残すと息絶えた。
お初は泣きながら、尊像を取り返し、恨みはきっと晴らすと尾上に誓う。

「奥庭仕返し」
目指す岩藤は奥庭にいた。仮病をつかう岩藤に、
頭痛ならこのお守りを、とお初は例の草履を岩藤の頭の上(!)にのせる。
仕返しに来たと気づいて岩藤が切りつけるのをお初は傘で受け止め、
反対に岩藤を討ち取り、なおも恨みの草履で打ち据えた
主人の恨みは晴らしたから心残りはない。
あとを追って自害しようとするお初だったが止められて、
御家乗っ取り犯を討ち取った手柄から二代目尾上を名乗ることも許された。
かくしてお初の仇討と多賀家の御家騒動は一件落着(めでたしめでたし)

【うんちく】
原作は人形浄瑠璃。作者は容楊黛(ようようたい)。その初演は天明二年(1782年)。
人形浄瑠璃の初演の翌年(1783年)には歌舞伎に移され上演されている。
もとは加賀百万石のお家騒動がベースにある全十一段という長〜い物語らしいが、
現在よく上演されるのは尾上・岩藤の確執とお初の仇討を描いた場面のみ。
この草履打ちの話は実際にあった事件をもとにしているそう。
草履をはき間違えた側女をお局さまが草履で打ってなじったために、側女は自害。
その下女をしていた娘がお局さまを刺して主人の仇を討ったというもの。
いやはや、ホントにあった話とはねぇ・・・。
当時の江戸庶民の間でたいそうな評判を呼んだらしいが、さもありなん。
芝居では町人出身の上司の仇を武家出身の娘が討つことになってるのがミソ。