かじわらへいぞうほまれのいしきり
梶原平三誉石切

【別の名前】
    いしきりかじわら
通称が 石切梶原

【見どころ】
一般に、見どころと言われているのは、どれも梶原が刀を扱う場面でする。
まず、大庭に頼まれて刀の目利きをするところ。
次に罪人と六郎太夫を重ねて二つ胴に斬ろうとするところ。
最後が石の手水鉢を一刀のもとに真っ二つに斬り割ってしまうところ。
やっぱり最後がクライマックスかな。だから通称「石切梶原」と言われるわけね。
演じる役者さんの家のによって演出が違ったりもするんで見もの。
初代吉右衛門の型だと、石の手前で客に背を向けたカタチで斬るんですが、
十五代目羽左衛門の型だと、石の向こう側に立って斬って、
割れた石の間から前に飛びだすとゆー、まるで“桃太郎”みたいな型なんす。
だから派手ね。派手なのが似合う人がつくった型ってことになるんかな。
確か、仁左衛門さんは橘屋(羽左衛門)系だった気がするなぁ。派手なのが似合う。
ところで、この梶原というのは実事師と言われるような役なんでしょうが、
生締めのカツラという髪型をするのが決まりだって。今度、とく見ておくわ(笑)
あと、この芝居には、可憐な娘役の他、老けた親仁方敵役赤っ面道化方
歌舞伎の基本的な役どころが揃ってはいるので、そんなとこも見どころかな。

【あらすじ】
石橋山で敗れた頼朝が再挙を図ろうとしていた。六郎太夫は、娘の許婚が、
源氏再興のために三百両を調達しようとして苦労しているのを知り
伝家の宝刀を売ることを決意する・・・という背景があって幕があがります。

「鶴ケ岡八幡宮社頭」の場
平家方の武将大庭三郎景親(敵役ね)と弟の俣野五郎景久(赤っ面ね)
気晴らしの参詣に来ていた。そこへ、当時はまだ平家方だった梶原平三景時
参詣に訪れ、勝利を祝って一同で盃を交わすことに。
ほどなく、六郎太夫(親仁方ね)が娘の(とうぜん娘役)とともに大庭を訪ねて来る。
大庭が以前から欲しがっていた家宝の名刀を売りたいと、やって来たのだ。
刀の目利きに定評のある梶原が鑑定することになった。
「一点曇らぬ銘作」と梶原は太鼓判を押すが、小意地の悪い俣野は
「いかなる名刀でも切れ味が悪くては」などと言うから、六郎太夫は、
二つ胴(人間ふたりを重ねて、その胴を一度に斬る)もたやすい」と伝えられる重宝だ、
と主張する。そこで、梶原が二つ胴の試し斬りをすることになった。
だが、死罪の決まった囚人といえば剣菱呑助(そういう名なの!これが道化ねー)ひとり。
折から、頼朝が三浦大助を頼んで城に立て籠ったという知らせが届き、
刀などはもうどうでもよくなった大庭は父娘を帰そうとする。
が、必死の六郎太夫は、ありもしない二つ胴の証文を取りに娘を帰すと、
なんと、自分が二つ胴のひとつになろう、と言いだした(ヲイヲイ!大丈夫かぁ?)
そうして、六郎太夫が下になって、いよいよ試し斬り。戻ってきた梢が嘆く中、
梶原は気合もろとも刀を振り下ろした。その刀は、科人を真っ二つにし、
しかし六郎太夫を縛った縄を斬ったところでピタリと止まった(おー!ってなとこね)
つまり二つ胴は失敗。大庭と俣野は梶原の目利き違いをなじって帰っていく。
顔をつぶしたことになり梶原に申し訳の立たない六郎太夫は、
刀で自害しようとするが、源氏に縁のその刀を買おうと梶原が言いだした。
今は平家方の侍でも、心は頼朝の守護侍だという本心を明かし(何だかんだと語るのさ)
さらに、名刀の証拠として、石の手水鉢を真っ二つに!!!
六郎太夫が「斬り手も斬り手」とほめると、梶原は「剣も剣」と賛えるのだった。

【うんちく】
享保十五年(1730年)初演の人形浄瑠璃が原作で、
三浦大助紅梅革勺(みうらのおおすけこうばいたづな)」というのが元の外題
(革勺というのは本来一字なんですー。けど、うちの漢字辞書にはありまへんでした)
頼朝の挙兵を背景に、106歳の長寿を保ったという三浦大助とその一族の人々を描いた
大河ドラマみたい。長谷川千四と文耕堂の合作で、全五段の時代物
初演の同年には歌舞伎化された演目だそうですが、現在まで残っているのは、
通称「石切梶原」と呼ばれるこの場面だけ。原作の三段目の切にあたるそうでやんす。
ところで、お若い読者のみなさま。この芝居は当然フィクションですが、
主人公の梶原平三景時ってのは実在の人物で、頼朝挙兵に味方して、
平家討伐に功績のあった人なんだそうでする。なんだけど、その後、讒言を用いて
頼朝に取り入り、義経をはじめ多くの人を失脚させたと言われているの。
だから、みんなの恨みを買って、頼朝の死後に謀反の罪で殺されちゃったんだって。
と、まぁ史実だと、前半が善玉で後半が悪玉ってゆーお人らしいのね。
江戸人は判官贔屓だったから、ふつーは梶原って言ったら敵役なんですよ。
その梶原が颯爽とした善玉に描かれている唯一の演目なんすね、これ。