よわなさけうきなのよこぐし
与話情浮名横櫛

【別の名前】
げんじだな  きられよぞう
源氏店 切られ与三

【見どころ】
「木更津海岸見染」は、文字通り、与三郎お富を見染めるところ。
羽織落しという演出のカタチで一目惚れを表現いたしやす。
上等な着物じゃないと、この羽織ズリッはできない。
綿のガサガサな着物じゃ落としたくても落ちないっつーことねん。
これで、与三郎がかなりえーとこのボンボンだとわかるって寸法でやんす。
「源氏店」は、お富に再会した与三郎名ぜりふが有名。
幕開きの、湯から帰ってきたばっかしのお富さんの
い糠袋をくわえて蛇の目傘を手にした風情も色っぽくてよござんす。
与三郎もお富も姿のいい役者さんにやってもらいたい役だのう。

【あらすじ】
「木更津海岸見染」
木更津の浜辺。土地の親分、赤間源左衛門の妾お富の前に、運命の男が現れる。
男は、江戸の大店の若旦那の与三郎。ふと行きあった瞬間に、
ふたりの間に電流がビビビッ(かぁ?)お富の美しさに与三郎はうっとり。
羽織がズリ落ちたのにも気づかないほど一目惚れしちゃったのだった。

その後、ふたりは忍び逢う仲となり、それに感づいた赤間の嫉妬から、
与三郎はなぶり斬りされ、何とか命だけはとりとめた。
(というくだりが実は間にある)

「源氏店」
鎌倉雪の下の源氏店。日本橋の大問屋和泉屋の大番頭多左衛門の妾宅前。
和泉屋の番頭の籐八が雨宿りをしているところに、湯屋帰りのお富(色っぺ〜)
雨の止むまでと籐八を家へ入れる。
が、その籐八、実はお富に気があって何かと言い寄るから、お富はうんざり。
そこへやってきたのがタカリの常習犯でごろつきの蝙蝠安
体中に刀キズのある若い男(実は与三郎を連れてきて、治療代をゆすろうとする。
ゆすられる覚えはないと言い切るお富を見て、驚いたのは与三郎。
「おぬしゃぁ俺を見忘れたか」と恨みを述べる与三郎に、今度はお富がビックリ。
与三郎は死んだと聞かされて身投げしたのを、多左衛門に救われて今ここに、
と訴えるが、与三郎は聞く耳をもたない(あ〜ら、まぁ、どうなるのかしらぁ?)
ってなところへ多左衛門が現れて、お富との仲は潔白と言い聞かせ(へ?)
二十両という金も与えたので、与三郎は蝙蝠安とともに引き上げた。
後で、お富は、多左衛門が幼い頃に別れた実の兄だったと知ることになる。
(なんだかなぁ〜。できすぎてやしませんかい? 苦笑)

【うんちく】
嘉永六年(1853年)初演。作者は三世瀬川如皐。
天保年間に実際にあった事件が講談に仕立てられて当りをとっていたのを
歌舞伎に移植したものだとか。
当時の人気役者八代目市川團十郎のために書き下ろしたものだという。
全編だと九幕の長編らしいが、今じゃ「源氏店」の場オンリーの上演が多い。
与三郎がお富と出会う「見染の場」もたまに上演されることがある。

さてさて、なぁんと、与三郎もお富も蝙蝠安も実在の人物だったなんてビックリ〜。
与三郎は「芳村伊千五郎」という芸名で市村座にも出ていた長唄の唄い方で、
お富は「とし」という名で木更津の親分の妾だったそうな。
ふたりは不義密通がばれて半殺しの目にあった後、どういう経緯かは知らないけど
再会して、「お富」という名の子をもうけたっちゅう話です。
つーから、芝居のお富は、ふたりの間にできた子の名前からとっているわけね。