はじもみじあせのかおみせ
慙紅葉汗顔見勢

【別の名前】
だてのじゅうやく
伊達の十役

【見どころ】
そりゃもう、タイトルどおりの早替り
それも、ひとりで十役をこなすという超人的な奮闘ぶりが第一の見ものでしょう。
極悪人の仁木弾正、逆賊赤松満祐の霊、足利当主頼兼、執権の細川勝元
乳母の政岡、足利忠臣の絹川与右衛門、足利忠臣の荒獅子男之助
腰元の、傾城の高尾、悪坊主の土手の道哲と、
見た目はもちろん役の性根も違う十役を、たったひとりで次から次へと
替わって替わって替わっていくのをビックリとっくりご覧あれ。
でもって、この芝居、基本的には猿之助さんのオリジナルに等しいので、
ならではの宙乗りも当然ありまする。
それから、大詰ではあっと驚く屋体崩しもあり。
歌舞伎のスペクタクルを、これでもかこれでもかと詰め込んだ
玉手箱のような芝居なり。面白くないはずがなかろう。

【あらすじ】
「発端」
稲村ヶ崎の浜辺の獄門台には、足利の天下を覆そうとして破れた赤松満祐の髑髏首。
足利家老の仁木弾正が髑髏に刺さった鎌を抜くと、赤松満祐の霊が現れ、
仁木こそ実はおのれが忘れ形見と言うではないか!
驚く仁木に先祖伝来の妖術、旧鼠の術を授けると霊は消えうせた。
ためしに妖術を使ってみると、なるほど数多の鼠が現れる。
子の年、子の月、子の日、子の刻生まれの男子の生き血を古鎌に注ぐと
妖術は破れるとも言われたが、この不可思議なる力を使えば・・・
仁木は、父の遺恨を晴らし天下を手に入れる決意を固める。
と、たまたまそこに通りかかったのは足利家の忠臣絹川与右衛門
腰元の累との不義が殿の勘気にふれ、故郷にかえる途中だったのだが、
仁木の裏切りを知り、討とうとする。が、仁木はさっそく妖術を使って雲隠れ。
しかし、子の年月日刻と揃った与右衛門の手に鎌が残った。
(じゃぁ、その場で古鎌で自害しちゃうってのは?なんてこたぁ言わないように。苦笑)

「鎌倉花水橋」「大磯廓三浦屋」「三浦屋奥舟座敷」
その後、仁木は当主の頼兼を失脚させ、幼君は毒殺しようという計画を進めていた。
物乞いの坊主土手の道哲のはたらきで毒薬も手に入った。
一方、弾正にそそのかされて廓通いをはじめた足利当主頼兼は今日も三浦屋へ。
その頼兼の放蕩に意見しようと、
国家老の息子民部之助が腰元のの案内でやってきた。
実は、頼兼の寵愛を受けている傾城高尾は累の姉。
その高尾を身請けする話に有頂天になっている頼兼に、民部之助は頭を悩ます。
これでは悪臣どもの思うツボではないか・・・。
そこへ与右衛門がやってきて、仁木の素性と企みを民部之助に伝えると、
妻の姉とはいえ殿の放蕩のもとになっている高尾には犠牲となってもらわねば、と
奥の部屋へと入って行き、刀で切りつけた。事の真意を知らない高尾は、
与右衛門を恨んで息絶える。その一部始終を陰に潜んでいた見ていた道哲は、
与右衛門が落とした古鎌と高尾の打ち掛けを持ち帰っていく。
もちろん、頼兼の怒りを民部之助らに向けようという魂胆があってのことだ。

「滑川宝蔵寺土橋堤」
足利の血筋を断とうとする魔の手が、頼兼の許婚の京瀉姫に迫っていた。
追手に襲われかかったところを、民部之助の加勢によって助かる。
そこへ与右衛門を追う道哲と廓の者達がやってきた。
民部之助は道哲から古鎌を奪い、姫を伴って館へと向かおうとするが、
なんの拍子にか累が古鎌で足を切ってしまう。
と、突然、高尾の打ち掛けが宙に舞い、高尾の霊が現れた!
高尾の霊は妹の累に乗り移り、古鎌を振り回させる。累の顔は半分が醜いあざに。
そればかりか、姫と与右衛門の仲を疑い、姫を鎌で追い回すではないか。
草むらに潜んでいた与右衛門は、鎌をもぎとると妻の累を殺し、
姫を助けて小舟に身を隠す。
そこへ頼兼仁木弾正、民部之助、道哲らも来合わせ、
もみ合ううちに、古鎌は道哲の手に、弾正が持っていた調伏依頼の密書は
川に落ちて与右衛門の手に渡ることになった。

「足利家奥殿」「足利家床下」
悪の魔の手が幼君の鶴千代君を襲うやもしれぬ。危機感をつのらせた乳母の政岡
鶴千代病気という名目で男の出入りを禁じ、また、手づから食事を作り、
息子の千松に毒味をさせるという警戒ぶりだ。(おおっ、まるっきり先代萩ざんすぅ!)
そんなある日のこと。仁木の後ろ盾となっている管領山名の奥方榮御前
見舞いの菓子折を持ってやってきた。手を出しかけた鶴千代を制した政岡に、
なぜ止めると詰問する榮御前。政岡が困っていると、奥から千松が飛びだしてきて、
菓子をひとつとって食べた。とたんに苦しみもがく千松。やはりが・・・。
とっさに若君を抱きかかえて守る政岡。同席していた仁木の妹の八汐
悪事がばれぬようにと千松の首に短刀を突き刺しても、顔色ひとつ変えない
そんな政岡を見て、榮御前は、若君と我が子を取り換えていたのではと早合点し、
悪党一味の連判状を渡して帰っていった。ひとりになってはじめて泣き崩れる政岡。
それを見て、真実を悟った八汐が政岡に斬りかかるが、反対に討ち取られる。
しかし、我が子を犠牲にしてまでして手に入れた連判状は
大きな鼠がくわえて逃げ去ってしまった。
その鼠を床下で捕えたのは、荒獅子男之助。手にした鉄扇で鼠を打ち据えるが、
結局逃げられてしまう。この鼠こそ、妖術を使った仁木弾正であった。
警護の侍をしり目に、悠々と宙を去っていくのだった。

「山名館奥書院」
家中に不穏な動きがあることを察した足利家の国家老渡辺外記が、
管領の山名持豊に審議を願い出る。が、山名もその一党。訴えを握り潰す腹だ。
執権の細川勝元が駆けつけると、裁断は下された後という。
後学のためにと訴えの願書に目を通した勝元は、主人頼兼の放埒を知らぬは
後見職としての役目の怠りと、山名らの悪事に釘を刺し、
評定はいずれ改めてということにして、この場をとりなしたのだった。

「問註所門前」「問註所白洲」
外記の訴えに裁断が下る日。勝元が留守なので、山名ひとりの裁断となり、
仁木方が勝ちそうな様子に民部之助は気が気でならない。
そこへ与右衛門が仁木の悪事の証拠となる密書を持ってくる。
折から勝元が来る。民部之助は勝元に直訴し、証拠の密書を渡すことができた。
そのうえ、古鎌を届けて褒美の金をもらおうと、のこのことやってきた
道哲を斬りつけ、与右衛門は古鎌も取り戻すことができた。
やがて形勢は逆転して外記側の勝利。しかも鶴千代の家督相続も決まった。
しかし、悪事がバレてもなお悪あがきをする仁木弾正は、妖術を使い消えうせる。
屋体が崩れ、その屋根の上で高笑いをする仁木は大鼠となり人々を寄せつけない。
与右衛門は例の古鎌をおのが腹に突き刺すと、自分の生き血を鎌に注いだ。
すると、なるほど妖術は破られ、姿を現した仁木が屋根から落ちてきた。
その仁木を討ち取って、足利家はめでたく安泰ということに。

【うんちく】
文化十二年(1815年)初演。鶴屋南北の原作。
なれど、台本は残っていないらしい。そのため、復活上演にあたっては、
さまざまな文献をもとに猿之助さん自らが創作に近い努力をしたというから、
もはや南北物というより猿之助さんのオリジナルだろう。
伊達騒動を背景に累伝説をからめたもの(ややパロ?)なので、
それ系の芝居、特に「伽羅先代萩」は見ておくと、さらに楽しめるはず。