瀬戸内海へ。

春になると、ココロ向かうのは瀬戸内海。白く霞む海峡大橋や点在する大小さまざまな島影、そして、海走る南風を想いますが、この数日は冬型天気のようで、広がる青空。宇野港から直島へ向かう小さな旅客船デッキには舞い上げられた波しぶきが入りこんできます。岡山県に位置し、近年は瀬戸内芸術祭の中心地として賑わう直島に渡るのは3回目。来る度に建築や作品が増え、賑わいを増しているようです。今回の楽しみは「地中美術館」とお隣の島にある 「豊島美術館」。その他、各島に点在する作品群を見て回る1泊2日。宿泊施設も寝る間がモッタイナイくらいの建築、ベネッセハウス「パ-ク」。テレビもなく、ゆっくり流れる時間の中で存分に設計者の意図を味わうことができます。夕刻、地中美術館へ。ホテルからシャトルバスで10分ほで、チケットセンタ-に到着。その後、館内の注意事項を訊き、荷物を預け、徒歩5分でいよいよ美術館へ。その名の通り地下を掘り下げてつくられた贅沢な建築。要所要所に切り取られる空に一息つきながら、階段を上がったり、スロ-プを下ったり、靴を脱いだりと身体で感じる空間作品でした。あくる日は豊島へ。直島から小型船で20分ほど。到着港から豊島美術館へはバスで15分の道のりですが、乗り継ぎが悪く、美術館へ向かう同船者みんなはレンタルサイクルを利用。どこにでもある小さな漁港から美術思考の学生グル-プが次ぎ次ぎに自転車で出発していく様を見送って、1時間後にワタシたち家族を乗せたバスは出発。最寄りバス停を降りると、気持ちよい海景色。そんな風景に埋もれるように配置された豊島美術館。アタマの隅に心地よい残像をくれる素晴らしい作品でした。
見学最後の作品は「心臓音のア―カイブ」。豊島美術館から歩いて30分ほどの島端。美しい砂浜を背景に黒壁の平屋建築。かぎりなくのどかで美しい渚の音。しかし、内部展示スペ-スに入れば、一転して無限に広がっているのではないかと錯覚する暗室と大音量の心臓音と連動して点滅する裸電球。心音によく用いられるドキッドキッという擬音イメ-ジを粉々に打ち砕くように、ときには激しく、ときには静かに、また激しく、無我夢中、あるいは懸命な鼓動には圧倒されます。タケが生まれる直前に分娩準備室で心音を聞いたときと同じような気持ちになりました。世界中から集められたある人の心臓音に、このような島の端で向き合うことが不思議であり、海のリズムに根源をもつという生命、その象徴「心臓音」をア-カイブする場をこの海岸に創ったことは見事です。希望すれば、自分の心臓音も録音してア-カイブできるそうです。

2012年03月16日