仮名使い便利帳
◎ い・ゐ・ひの用法
い(ヤ行) 老い・悔い・報い(三語)
老い 一つ老いこの枯芝に今年また 富安 風生 悔い
蚊の声のひそかなるとき悔いにけり 中村草田男
報い 必ずや報いんと南風に立ち対ふ 富安 風生
ゐ(ワ行) 居る・率る(率いる) (二語)
居る(上一) 釣堀の潮真青や鯛も居る 富安 風生
くつろぎてゐて憂あり春灯 同
率る 生徒らを率ゐ来りて堤焼く 同
夜の影を率て枝秀づ瓶の梅 同
居り(ラ変) 吊橋に立ちて日傘を廻し居り 同
「ひ」 前記の い・ゐ以外は、すべて 「ひ」と書く。
◎ え・ゑ・へ の用法
え(ア行) 得・心得 (二語)
得 わがところわが時を得て春炬燵 富安 風生
え(ヤ行) 甘え・癒え・嘶え・怯え・覚え・消え・聞こえ・越え・肥え・ 凍え・冴え・
栄え・ 饐え・聳え・絶え・費え・潰え・萎え・煮え・生え・ 映え・冷え・殖え・吠え・ 見
え・燃え・萌え・悶え(二十八語)
甘え 着ぶくれて老に甘ゆる罪ふかし 富安 風生
覚え 立てばしゃんと昔覚えの舞の春 同
ゑ(ワ行) 植ゑ・飢ゑ・据ゑ (三語)
植ゑ 高き田を植ゑ低き田の代掻ける 富安 風生
松島の景の中なる田を植うる 同
飢ゑ 蟻地獄寂寞として飢ゑにけり 同
据ゑ 大臼をどうと引据ゑ飾りたる 同
「へ」 前記の「え」 「ゑ」以外はすべて「へ」と書く
◎ じ・ぢ及び ず・づ の用法
じ・ず(ザ行下二段活用) 混じ・混ず。交じ・交ず
交じ 叢林に如月の松として交じる 富安 風生
降る雪の星屑まじへ橇走る 山口 青邨
じ・ず(サ行変格) 論じ・論ず・応じ・応ず・講じ・講ず等
ぢ・づ 前記の じ・ず 以外はすべて「ぢ」「づ」と書く
羞ぢ テトラポット海松布(みるめ)まとひて羞ぢににけり 富安 風生
恥づ 恥づること夏帽の汚れにはあらず 同
◎ その他誤りやすいもの
さう 女ばかりのよその遊船も楽しさう 富安 風生
やう 生けて待つ珠のやうなる白椿 同
さへ 落椿狎れて目にさへとめざりし 同
やうやく 生くることやうやく楽し老の春 同
あはあは あはあはと心の翳と冬の雲 同
この資料は、「栃の芽」同人、山崎芳堂氏編「栃の芽勉強室」より転載しました。


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