造形表現教育実践講座 第21回
造形表現活動Q&A

―基礎的事項編―

写真1 残りパスでの線遊び(3歳児)

 

1 はじめに

 前回、環境設定や準備についてのQ&Aを採り上げました。私の所に来る質問は、この連載を読んでいる人からだけではありません。この連載を読んでいる方々からすれば、今更と思えるような質問も、多くの先生がまだまだ基本的な保育のあり方で悩んだり疑問に思ったりしているのだということを示すものです。

そこで、引き続き今回は、日頃の保育の中から疑問に思ったり、教えてもらいたいといった質問の中から、材料や用具の使い方の指導のあり方、題材設定の仕方、導入の言葉かけ、造形表現活動に抵抗を感じていたり、真似ばかりしたりといった幼児の理解と関わり方、など保育の基本的事項に関わる質問を中心に採り上げてみましょう。

2 パスや絵の具の指導

               

Q1 線が弱い子がいます。パスの正しい持ち方を教えるべきでしょうか?

A1 パスのどの位置をどのように持っているか確かめましょう 

Q2 パスを一本ずつ手渡していくか、好きな色を自分で選ばせるのか、どちらがよいのでしょう?

A2 一本ずつ手渡す必要はありません。 

Q3 パスを何本も持って描く子がいますがそれでもいいのですか?

A3 「描く」ということより、「遊ぶ」ということに目を向けることが大切。パスによる遊びとどのように出会わせるかが大切です。 

 二歳児以下の乳幼児では、先生が口で伝えたことを理解してパスを正しく持てるようになるのは難しいでしょう。

 初めのうちは、持つところが限られる短い目の残りパスを使えば、何も説明しなくても、使っているうちに、自然に適切な持ち方が出来るようになります。また、握って描く子や、多少持ち方が正しくないと思えるような場合も、その子なりに今自分で持ちやすい持ち方を工夫しているのであり、成長にしたがってさらに描きやすい持ち方に変えていくものです。

 伝えてわかる時期(三歳以降)になっても、筆圧が弱く、思い通りに描けないような持ち方をし続けている子どもには、お父さん指とお母さん指、お兄さん指の3本で、パスの下の方をしっかりつまんで持つように教えてあげれば良いでしょう。

 大切なのは筆圧で、パスのお尻のほう(高い位置)を持って引きずるように使ってしまうと筆圧が弱くなり、線が弱くなります。気になる場合は、パスの持ち方をまず確認し、矯正してあげるようにすれば良いでしょう。(写真1)

 また、パスを一本ずつ手渡すか、選ばせるか、というようなことは問題ではありません。パスとどのように出会わせていくか、その出会いが大切なのです。パスを持ってこすりつけるとその動きの軌跡が紙の上に残るということに気付いたり驚いたりして、興味を持ってパス遊びに引き込まれていくことができる環境や題材設定が重要です。

 パスを何本も持って描くのも、心から楽しく遊ぶなかでの発見であり、試みなのです。そして表現への興味や自信を高めます。 遊びとして子どもが発見するなら、危険がない限りどんな事をしてもかまいません。むしろ喜ばしいことです。また、成長という側面からも、握力がついてきている証拠ですし、それで描くことでさらに手の巧緻性を高めることにもつながります。幼児の表現活動では「描く」ということよりも「遊ぶ」ということに目を向けてください。

       

Q4 絵の具を初めて経験する時には、何から取りかかると子どもたちはスムーズに活動に入ることができるでしょうか。

A4 絵の具そのものを楽しむ遊びを誘うようにします。

Q5 立って描くのと座って描くのとはどちらが良いのでしょうか?

A5 立って描く方が自然に活動できることもあります。

絵の具との初めての出会いでは、絵の具をカップに入れて、筆を人数分用意し、手の届くところに置き、模造紙や新聞紙などの大きな紙に自由に描いて遊ぶようにすれば良いでしょう。(写真2)

 はじめは単色で、使い慣れてくれば多色を使った活動へ、塗りたくり遊びから線遊びへと展開していきます。(写真3・4)

「○○を描きましょう」といった「絵」のテーマを与えるのではなく、単に、筆についた絵の具で、紙を好きなように汚して、絵の具そのものを存分に楽しんで遊ぶ活動にすると良いでしょう。

 技術面では、筆についた余分な絵の具がポタポタ落ちる様子を「筆が涙流して泣いているね」と見せ、カップの隅で「よし、よし、よし」と三回なでてあげれば「泣きやむよ」と示して、使い方を示してあげます。それも、何回か筆で遊ぶ経験を積んでからでも遅くはありません。

 年少の間(2歳〜4歳頃の間)に、塗りたくりや線あそびをたっぷりさせてあげることが大切です。絵の具、パスにかかわらず、手先の小さな動きよりも、肩や肘を中心とした大きな動きを楽しんでいった方が良く、場合によっては、壁に貼った模造紙や立てかけたダンボールに描くなど立てた画面に描くのも子どもにとっては自然なようです。(写真1・3)

椅子とテーブルの上で小さな紙に描くような環境よりは、椅子に座らず、筆を持って立って描くような設定が比較的自由に動けるので、良いでしょう。

特に三歳児以下の場合、自由に動ける空間で、座ったところで座ったまま活動したり、立ったまま活動したりといった環境が大切でしょう。そうした自由な環境のなかで、子どもの成長や発達に応じた環境設定を考えると良いのです。

3 描画活動における色や形の表現

       

Q6 黒ばかりを使って絵を描く子がいるのですが、なぜですか?

A6 色彩を使う必要性を感じていないからです。

Q7 顔を描くといつも「鼻は何色?」と聞かれます。顔とか目とかの色をこちらで指定して描かせるのか、自由に描かせるのかどちらがいいのでしょう?

A7 自分で気付くまでは、概念色を教えようとするのは無意味です。

 色彩の識別経験が浅い子どもは、強くはっきりとした色に惹かれます。赤や青よりも明度差のはっきりと出る黒を選ぶのは自然なことです。また、外界が多様な色に彩られていることに関心を示すようになるのは四歳以降のことです。いちいち色を持ち替えて多様な色彩を使う必要性を感じないので、たまたま最初に手にしたパスで最後まで描ききるのも普通のことです。

したがって、四歳以下の幼児が、顔を肌色で、髪の毛を黒で、などといった概念色を使うことはむしろ稀なことです。二歳児や三歳児が使うとすれば、それは相当多くの描画活動を積み重ねて、色彩の特徴に気づいているか、そうでなければ強く教え込まれた結果でしょう。

そもそも、普通に育っている幼児が「鼻は何色?」などといった質問はしないものです。誰かが顔の色のことを言うものだから、教えてもらっていないものを描くときに混乱したり不安になったりして「何色で描くの?」と聞くのです。

 よく顔を肌色で塗り潰した上から鼻を描くのにオレンジ色を使わせる指導を見ますが、あれも、大人がそう教えて使わせているだけで、子どもがそのように捉えて表現しているのではありません。

 二歳や三歳の子なら、一本のパスで、一色で全部描けば良いですし、部分的に色を変えて描く子でも、右目を緑、左目を赤で描くようなこともあります。こうした色彩に無頓着な段階から、さらに色を使うことを楽しむ段階の子どもに、顔の部分の色を概念的に教えようとすることが間違いなのです。(写真5)

 確かに三歳の半ば頃より、果物など身近な食べ物の色から固有色との対応が見られるようになります。しかし人物の顔の色の使い分けなどは五歳児でもあいまいなのが普通です。

 幼児にとって、正しい色とか間違っている色ということは無いのです。無理に多様な色を使わせようとしたり、概念的な色で描かせようとしたりするのは大人の感覚の押しつけなのです。

               

Q8 顔を描く時にどのように伝えたら分かりやすいですか?実際に自分の顔を触って確認させたり、絵や人形など見せて、あてっこしたりしています。

A8 顔を正しく描くことが幼児にとって大切なことではありません。色彩と同様に、顔の形やパーツの描き方を教えるのは無意味です。

Q9 三歳児を担任していますが、頭足人からなかなか抜けず、体を正しく描くことが出来ない子どもがいます、男子に多いのですが、どのようにすれば描けるようになるのでしょうか?

A9 無理に描かせる必要はありません。四歳前半期までは、体まで描く子が少ないのが普通です。

Q10 年長児なのに、腕や脚を一本線で表現したり、掌や足を描かない子どもがいます。何か声かけした方がよいでしょうか?

A10 自分で必要を感じるまでは描きません。時機を見て、気付かせてやる題材の工夫をすると良いでしょう。

幼児が「何が描けるか」ということは、世界をどのように捉えているか、何に気付いているかによって決まります。気付いていないものはいくら先生が教えようとしても描けません。また、気付いていても、表現したいことに重要でない場合は描かれないこともあります。

先生に教えられ、言われたとおりに意味不明で理解していないことを描かされていると、自分で見つけ、自分で考え、自分で決めて行動する力の育ちを阻害します。早い段階から、描けないものを描かせようとする保育は絶対にしない方が良いのです。

 顔、顔と大人は言いますが、幼児は顔を描いているようで、顔だけを描いているのではありません。顔は、その人物の存在のすべてを表現するものなのです。

 身体についても同様で、イメージが持てていれば描けるようになるのですが、イメージが持てないものを要求されても描きようはないのです。当然頭足人になる子がいるのは当たり前ですし、それなのに体と言われても困惑するだけです。下手をすると自信をなくしたり、違和感から描く事に抵抗を感じたりするようになるので、無理に描かせようとしないことです。

 また、幼児は「もの」を描こうとするのではなく、気付いたり、おどろいたり、興味を持ったり、伝えたかったりといったことから発想して、表現したい、伝えたい「こと」を描くのです。したがって、先生が「お顔には何が付いているのかな?」などといった言葉がけで実際触らせたりして、それを描かせようとする保育は的はずれです。

ある二歳児の絵に目が描かれてなかったので「○○ちゃん、おめめが無いわよ、おかしいね、おめめを描こうね」と先生が言いました。しかし、その子は「これでいいの」と聞き入れません。

なぜかと聞いてやると「僕、お昼寝したよ」と言うのです。つまり、お昼寝しているときは目をつぶっているから見えないのだと言うのです。この子にとっては「目が描いてない」のは寝ていたということを表しているのです。なのに、その子どものお話をきちんと聞いてやらずに、一方的に「目を描け」という先生の要求が、まったく的はずれなことがわかります。

形を描くことが重要だと思っている先生が多いのですが、それは間違いです。子どもが気付いている範囲で描いた人物を「これは誰?」「何しているの?」と聞いてやることが大切なのであり、「鼻を描いていない」、「耳がない」などということはどうでも良いことなのです。

 年少後半、ほとんどの子どもたちが四歳になっているような時期に「大きくなった僕・私」といった題材で、「みんな、どこが大きくなった?」と発問すると、「頭!」「体!」「手!」と様々に発言します。

「みんな大きくなったからこんな大きな紙を持ってきたよ」と模造紙半分サイズの紙を縦置きにして活動すると、これまで体を描かれなかった子が描いたりします。

もちろん、手足の長い頭足人を描く子もいます。女子が体を描くのが早いのは、お人形遊びをしていることにも原因があると思います。遊びの中で客観的に体に触れているからイメージを持つことが出来るのでしょう。

年長児の身体イメージのばらつきについては、気付いているけれど伝えたいことを伝える上で必要を感じていないから描かないという場合も多いようです。

腕や脚の太さや、手足の動きを表現すること自体が主題になるような題材を工夫することで気付いていくことは少なくないです。鉄棒や縄跳び、綱引きなど運動系の遊びなどで手足を意識する題材や、「おもしろいポーズ」「寝相」といった子どもたちが興味を感じる題材で、実際に体を動かして、見せ合って遊ぶことで表現するようにもなります。(写真6・7)

適切な時期に、適切な題材設定の工夫で気付いているけれど表現しない子や、きっかけさえあれば気付くことが出来る状態にある子が表現できるように仕掛けることもできるのです。

4 導入の工夫・活動中の言葉がけなど

Q11 保育者が手本を描き、子供に見せますが、みんな同じような絵になってしまいます。手本を使わずに、絵が描けるような、声かけや指導の仕方を教えてください。

A11 「絵を描かそう」と思わないことです。想像や伝達を楽しむ遊びとして活動を誘う導入の工夫が大切です。

制作や絵画では、ものを作ったり、絵を描いたりという行為の中にある、驚き、発見、感じたこと、思い、願い、考え、試み、…といった創造のプロセスが大切なのであり、その個性的なプロセスの結果が作品なのです。目的の絵のイメージが先生の側にはじめからあり、それを子どもを使って描かせ完成させるのではありません。ですから、結果としての作品例を手本として見せて描かせるというのはまったく的はずれなことです。

「お母さんの顔を描きましょう」「ライオンを描きたいと思います」ではなく、「みんなが一番好きなお母さんの顔はどんな顔?」といった発問や「迷子になったライオンさんを故郷のアフリカにつれていってあげよう」など、子どもの思いや願いを触発する言葉かけを工夫することが大切です。

単純な表現の中でも、その子なりの物語りが生まれてくるような導入があれば、あとは子どもに任せておけばよいのです。発達に応じた環境や使い慣れた材料用具があれば、自分の思いや願いを楽しく表現しながらさらに想像を膨らませていくでしょう。

Q12 活動中の言葉がけがワンパターンになってしまいます。子どもの表現意欲を高める言葉がけの仕方を教えてください。

A12 大切なのは、子どもの話をしっかり聞き、共感してあげる事です。

活動中に、子どもの描いているものについて「きれいに描けたね」「素敵ね」などの言葉がけをしている先生の姿はよく見ますが、いつも同じ様なことを言っていると、子どもも聞き慣れてしまい、あまり意味のない言葉かけになってしまいます。

また、三歳前後では、絵の中にそれほど多様な意味やお話があるわけではありません。それに対して「何を描いたの」としつこく聞かれても、子どもの方が困ってしまいます。

「お母さん」の絵を描いた時、それはお母さんの外形を写し撮るように描いたわけではありません。その絵の中には「お母さん大好き」という思いや「いつも笑っていて欲しい」「優しくして欲しい」という子どもの、お母さんへの願い(メッセージ)が込められています。

ですから、先生が「上手に描けたね」とか「お鼻は無いの?」といった言葉がけをするのは的はずれなのです。「お母さん笑っているね」とか「○○ちゃんのお母さん優しそうだね」とその絵を描いた子どもの気持ちに沿った共感的な言葉がけが大切なのです。

また、一輪の花にでも「きれいな花が咲いたよ!」といった喜びの気持ちや「枯れないでいつまでも咲いていてね」といった優しい願いが込められたりもします。

そういう絵には「きれいな花だね」も決して悪い言葉がけではありませんが、より子どもの気持ちを知るためにも「どこに咲いていたの?」と聞いてみると、意外なお話をしてくれたりします。

このように、思いや願いがお話として出てくるように尋ね、その子どもの話をしっかり聞き、そこから気付いた子どもの思いや願いに共感し、受容してあげる事が大切なのです。

5 描けない子、描かない子、真似する子

Q13 絵をなかなか描き始めることが出来ない子どもに対して、どのような言葉がけをしたら良いですか。 描き始めだけでも子どもの手を持って一緒に描いた方が良いでしょうか。

A13 なぜ描き出せないのか、その理由や原因が重要です。

パスや筆が巧く持てないで描けない、道具や材料の使い方がわからない、と言うのなら、手取り教えてあげることも大切ですが、無理に描く事に抵抗を感じている子の手を持って描かせようとするのはかえってマイナスになります。

パスや絵の具を持つことなど、絵を描く行為そのものに抵抗を強く感じているようなら、今一度安心して取り組める環境を整えてあげることが大切です。

描かない子、描けない子、描き出しに時間はかかるが描き出せばスムーズに描いていく子、さまざまです。何を描きたいのか思いつかない(発想できない)からなのか、何らかのプレッシャーによるものなのか、その原因によって支援の仕方も変わります。

何を描けばよいのかわからない場合は個別にお話を聞いてあげることで、自分で話をしながら思いつくこともあります。描きたい、伝えたい思いや願いを引きだしてあげることが大切です。

「描かなきゃ」という抑圧になっている場合は、むしろ「描けない時は描かなくてもいいんだ」というくらいの軽い気持ちにさせてあげた方が良い場合もあります。

抑圧から解放し、思いや願いが持てるように支援してあげる以外に方法はないでしょう。

年少児の初期では、はじめからテーマを決めて描くのではなく、パスや絵の具を使う事自体を楽しめるようにしてあげることが大切です。遊びとして「おもしろそう」と興味を持つ事が出来れば、普通は自然に描き出すものです。「絵を描く」というのではなく、子どもが進んで「遊びたい」という気持ちになるように環境設定や、導入の言葉がけなどを見直してみる必要もあります。

Q14 席が近いお友だちの絵と同じように描く子がいます。そのまま続けさてよいのでしょうか?何かその子に言葉がけの方法があるのでしょうか?

A14 「真似しちゃだめよ」といった言葉がけをすると、ますます描けなくなります。

真似の要因の多くは、その子どもの外にあります。描画だけでなく生活のあらゆる面で、「正しい(と大人が思いこんでいる)」結果を要求するなどの誤った関わり方の積み重ねもその要因のひとつです。もちろん、要求に無理があるような描画や造形の題材や保育のありかたも同様です。

自分自身の思いや願いよりも、大人の思いや願いに応えさせられてきたために、自分の思いや願いが持てなくなり、その結果として「真似ること」で解決することを覚えたのでしょう。

そんな子に「真似しちゃだめよ」といった言葉がけをすると、ますます描けなくなります。

何をどのように描くのか、そのイメージが浮かばないため描き出せない子は、当然すぐに描き出すことができす、しばらく周りの様子をうかがっています。そのうち、誰か(多くの場合は仲の良い友人)が描き出したものを見て、「こういう絵を描けばいいのか」と安心してそれを真似して描きます。

 また、憧れているお友だちの真似をするケースもありますが、多くの場合は自分だけで決断し表現することに自身が持てない状況で真似がおこります。

描画活動における真似を考える上で、大きく分けて次の3つの視点があります。

第一は、題材や導入など保育が適切ではなかったケースです。発達段階や生活経験などから考えて、どの子にとっても発想できる題材設定であったか?発想を引きだすための導入の工夫が十分に出来ていたか?という保育の見直しが必要です。

特に想像画でも描き出せない子どもがいる場合は、もう一度導入の言葉がけやそのテーマ自体を見直す必要があるでしょう。子ども自身の伝えたい思いや願いをしっかり引きだすのが導入であり、それを想いとして明確化していくプロセスが描画活動なのです。

 第二は、その子どもが「間違わないようにしなくちゃ」とのプレッシャー(抑圧)を感じているケースです。

 お姉ちゃんや周りの大人から「そんなんじゃない」「違うよ」と自身の絵が間違っているかのように言われたり、さらに手本を見せて同じように描くように促されたりすると、自分の思いではなく、求められた他人の思いを描きださねばならなくなります。

 自分の思いや願い以外の「正解」を表現することなどできないのに、それでも描かなければならないので、無難に人の真似をするようになります。

年長児になってくると、どの子どもも多かれ少なかれこうした抑圧を感じているものです。表現活動では、まずこうした抑圧から解放されるような環境を確立してあげなければならないのです。

第三は、自分自身でイメージしているものと自分で表現できる事との間に違和感を持ち始めているケースです。想いはあるのだが、ぼんやりとしていて今ひとつどのように描き出せばよいのかわからない。そんなとき、身近な友だちが描いている絵を見て「あぁ、こんなのが描きたかったんだ」と真似をしはじめるのです。

こういうケースでは、真似をしながらも表現力を獲得していき、自分で描ける自信がつけば自然に真似はしなくなります。「学ぶ」は「まねぶ」から派生したと言われるゆえんです。

しかし、この語源にまつわるたとえは、技術や知識の獲得について当てはまるものなので、技術的な壁を乗り越えていく中で、自分の思いや願いがしっかり表現できる方向にならないようなら、やはり問題は残ります。

こうした視点から、保育や子どもへの関わり方を見直し、適切な題材や環境の設定をしてあげることでその多くは解決します。

自分らしい発想が保障され、その発想を表現する楽しさを十分感じて活動する中で、自分なりの表現を追究するようになります。

気を付けなければならないことは、真似しているその行為自体は、子どもが自分で選んだものですから、まずは受け容れ、見守ってあげることが大切なのです。決して真似をしている行為そのものを直接やめさせようと「真似しちゃだめよ」と言わないようにしてください。

6 まとめ

 今回ここで採り上げた質問の数々は、私がはじめて訪れた幼稚園や保育園の先生から良く受ける質問です。この連載を始めたのも、こうした基本的な疑問を抱きながらもその解決策が見つからないまま同じ様な保育を続けている先生が少なくないからなのです。

もちろん、こうした疑問を持つと言うこと自体は大変良いことです。多くの先生たちが疑問にすら思わず平気で間違った保育を続けているのですから。

はじめにも述べましたが、この連載で学んでこられた先生方には、「今更…」と感じられるかも知れません。もしそうだとしたら、かなり意識の高い保育が実践できるようになっている証拠です。

 また、こうした質問に、的確に答えてあげられる先輩がいる職場の若い先生は幸せです。今一度、こうしたQ&Aから、日頃の保育を見直していくようにしたいものです。

写真2 絵の具との楽しい出会い

 

 

 

 

 

写真3 立って描く環境設定 (3歳児)

 

 

 

 

 

 

写真4 多色の塗りたくり遊び(3歳児)

 

 

 

写真5 写真5 公園で遊んだよ(4歳児)
体まで描かれた人物と顔だけの人物、肌色を意識した色使いと、無頓着な使い方が混在しています。

 

 

 

 

 

写真6 「おもしろい寝相」(5歳児)
導入時に実際にいろんなポーズをして遊びました。

 

写真7 「おもしろい寝相」(5歳児)
自分でしたポーズ、友だちのポーズを思い出しながらイメージした姿を描いていきます。(墨汁)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************

写真協力

千里敬愛幼稚園

焼山こばと幼稚園

川内幼稚園

小谷保育園

つしま幼稚園

 

→戻る