造形表現教育実践講座

第14回 見立てて遊ぶ

―題材群B:材料の特徴(色や形)や行為から見立てて発想する。―


写真1 「おいしいお好み焼き」(3歳児)

 画用紙を鉄板に見立て、絵の具を粉に見立てる。このあと色紙をハサミで刻んで具を作りました。ゴッコ遊びを楽しみながらイメージが広がっていきます。

1 すべては見立てから始まる

遊びと見立て

 「熱いからヤケドしないように気を付けてね〜」と言いながら先生が紺色の色画用紙を配っています。子どもたちも、少し不安な様子ですが、それがゴッコ遊びだということは了解しているようです。

 先生は子どもたちをテーブルのまわりに集めて、絵の具を溶いてボウルに入れた卵色のどろどろとした液体を、お玉でかき回しました。子どもたちの中から「お好み焼きだぁ!」との声があがります。(写真1)

 画用紙の上をスプーンで「まあるく」塗り広げていく様子は、まさにお好み焼きを焼く様子そのものです。子どもたちは、早く自分もやりたくて仕方がないようです。

 「先生、具を入れなくちゃ!」お好み焼きを作るゴッコ遊びを楽しみながらイメージが広がるようです。待ってましたとばかりに先生が細かく切り刻んだ色画用紙を出しました。しかし、みんなに配ると少しずつになってしまいます。

 「ごめんね、少なかったね、キャベツとか紅ショウガを持ってきたから自分で切って作ってね」と先生が適切な大きさの黄緑や赤色の色画用紙を子どもたちに配ると、今度はハサミで画用紙をちょきちょきと切り刻み始めます。

 子どもたちの遊びには、必ずといって良いほどに「見立て」の活動が含まれます。砂場遊びで「先生、カレーライス作ったよ!」と持ってきてくれるのも、見立て遊びですし、積み木や木切れを持って「ブッブー」と自動車に見立てて遊ぶ姿もよく見られます。幼い子どもたちには、石ころや木ぎれ等を何にでも見立てて遊ぶ力が備わっていると言っても過言ではないでしょう。

 子どもたちがゴッコ遊びに夢中になって楽しめるのは、この「見立てる力」のおかげなのです。特にまだ絵を描くとか、ものをつくるといった段階には至らない幼い子どもたちにとって、ゴッコ遊びや見立て遊びは、造形的な遊びの始まりなのです。

見立て遊びと想像

 「見立てる力」は言い換えれば「想像力」そのものです。大人にはなんの変哲もない木切れが、遊んでいる子どもたちには自動車や飛行機に見えているのです。

 ゴッコ遊びだけでなく、たとえば材料をもとにした造形遊びでも、ラップの芯やプリンカップが様々なものに見立てられて変身していきます。身の回りにあり、目に入ってくる多様な色や形が、子どもたちの想像する色や形と結びついて具体化されていくのです。

 想像しているものにより近づけていくために、さらに子どもたちは材料探しをします。ちょうどいいものを見つけると、まるで探していた宝物を見つけたかのように嬉しそうな表情を見せます。

 そのうちに、見つけた材料をそのまま使うだけでなく、より適切な形になるように切ったり貼ったりと加工をするようにもなります。見立てる遊びからものづくりが始まるのです。

 「いいこと考えた!」とつぶやく子どもがいます。ペットボトルを弄んでいたその子は、スズランテープやいろ紙をハサミでチョキチョキと切り刻んではその中に入れていきます。このように遊びながら、別の事を思いつく場面はよく見られますが、これもやはり見立てからの発想によるものです。

 写真2は、卵の卸売り用パッケージに使われている緩衝材です。いろんな材料を使って遊んでいる中で、一人の子どもがこの材料を見つけ、卵を入れるくぼみの裏側の突起に顔を描き始めました。

 「おさかなさんのお家だよ」とかわいい表情の魚の顔がいっぱい並びました。この遊びは他の子どもたちにも飛び火し、「たこ」とか「ウナギ」とかに混じって「うさぎ」とか「ネズミ」などという陸の動物たちも混じり始めます。

 こうして、様々な見立てと思いつきが積み重なって想像の世界が広がっていくのです。材料からの発想も、やはり見立て遊びから生まれるのです。

 

写真2「おさかなさんのお家」(5歳児)
いろんな材料を使って造形遊びをしている中から生まれた発想です。
材料の特徴やその面白さが発想の源となります。

写真3 「これがね…」(3歳児)
自分で描いて、それを見立ててお話しをする。
そんな繰り返しの中から自己表現は生まれます。

 

2 見立て遊びを活かした題材

材料(色や形)からの発想

 「これがね…」3歳になったばかりの子どもが、丸い形を画用紙にいっぱい描いて、その一つひとつを説明してくれます。

 つい先日までは、なぐりがきを繰り返していたのですが、ある時ふと自分で描いた丸い形に何かのイメージを重ねて認知します。

 このように、何らかの形を描いてそれを見立てる活動を繰り返していくうちに、イメージを持って形が描けるようになり、その一つひとつを説明するようになるのです。(写真3)

 自分で描いた形を見立てて意味づける。そんな活動が自己表現の始まりなのです。3歳の半ばまでには多くの子どもたちは円を描いてその中に目や口を描き入れて身近な人や自分を表現するようになります。

 ですから、単に円を描いて遊ぶことを誘うだけでも充分題材として成立します。「丸くて、甘くて、おいしいおやつだよ」と投げかければ、画用紙にクレパスで「おいしいドーナツ」や「ビスケット」を描いて遊びます。

 この時期の子どもは、たまたま手に持った色のクレパスで描く事が多く、特に固有色を意識して描いているわけではありません。それでも「お母さんは赤が好きだから赤色で描いた」などと色からの発想はあるようです。

 目や口を自由な色で表現するなど、人物などの色彩には頓着しない段階でも、紫からブドウを、赤からリンゴを、といったような、色と対象の結びつきがわかりやすい果物など、生活の中で身近な食べ物などについては、固有色と対応させて発想するようになっていきます。

 円形に切った、適切な大きさの色画用紙を前に「丸くって甘いおかしだよ、なんだろう?」とクイズを出すと、子どもたちはいろんなお菓子の名前を口にします。前述の「お好み焼き」のように、子どもの生活の中でも食べ物は特にイメージしやすいようで、この時期の楽しい見立て遊びとして適切な題材になります。(保育案1)

 

作品1 「焼きそばパーティー」(3歳児)
丸い紙をお皿に見立ててパスでおいしい焼きそばを作りました。
たくさん出来たので、お友だちを呼んでパーティーしよう!

 

「焼きそばパーティー」

 作品1では、丸く切った色画用紙をお皿に見立てて「おいしい焼きそばを作ってね」との投げかけで、クレパスの線で焼きそば作りを楽しむ活動がまず最初にあります。

 後日「おいしそうな焼きそばが出来たね。誰に食べさせてあげたい?」と投げかけると「お母さん」「お父さんと妹」「○○ちゃん」などと身近な人たちの名前が次々と挙がります。

 そこで「じゃあ、食べさせてあげたい人をたくさん呼んできて焼きそばパーティーをしよう!」と投げかけました。

 焼きそばのお皿を、別の四つ切り画用紙に貼り、そのまわりのスペースに、クレパスで次々と身近な人たちを描いたり、中には動物たちまで描いたりする子どももいます。「先生も描いてあげた」と言ってくれる子もいます。作品1では「うさぎさんを呼んできた」とそれぞれ色違いで描きながら「これがお母さんで、これがお兄ちゃん」などと自分の家族をオーバーラップさせています。

 しっかりお皿に手が伸びて、その手にはお箸が握られています。実は、この子は、この遊びで初めて手を描いたのだそうです。見立て遊びから、イメージを広げながら、表現を成長させていく姿が現れています。

 

作品2「楽しいお洗濯」(4歳児)
画用紙に貼った一本の毛糸を洗濯ロープに見立てて、今日はおかあさんのお手伝い。
色画用紙を切って洗濯物に…。

 

楽しいお洗濯

 作品2は、「いつも大変なお母さんのお手伝いをしてあげよう」と投げかけ、あらかじめ色画用紙に一本の毛糸を貼って「お洗濯のロープだよ、今日はお天気がいいから、お母さんのお手伝いで、洗濯もの干しをしてあげよう!」と遊びを投げかけました。

 さらに、色画用紙の切れ端を洗濯物に見立てて、ハサミで形を切ってロープに掛けて(貼って)いきました。大きな切れ端はお布団、細長いものはズボンだそうです。

 「みんながお手伝いしてあげたらお母さん、なんて言うかな?」と聞くと「ありがとうって言うよ」とか「喜んでくれる!」との声がでる。先生の「どんな風に喜んでくれるかな?」の投げかけで、喜んでくれているお母さんや家族の様子を想像してパスで描きました。

 このように子どもの見立て遊びから、生活へのまなざしが表現されていきます。お母さんが喜んでくれる、という期待感が楽しい想像へとつながり広がっていくのです。

まとめ

 見立て遊びは、まだ描画活動や、ものづくりという段階に至らない段階の子どもたちの遊びとして、砂場遊びや積み木遊び、あるいは造形遊びの中で、自然に見られるようになります。

 認知が未分化な幼い子どもだからこそ成立する遊びですが、その一方で、外界の色や形を捉え、識別する能力を発揮しながら成長させていく活動として大変重要な役割を担っています。見立て遊びは、まさに想像力の源であり、観察表現の基礎でもあるのです。

 教師が一方的に、幼い子どもに理解できない言葉で「よく見て描きましょう」とか「形はそれでいいのかな?」などと無意味な観察を強要するような活動では、観察力や表現力が育つどころか、表現する事への抵抗感を植え付けるだけです。未分化ゆえの自由さの中で、見立て遊びを存分に楽しませてあげることこそが大切なのです。

 ただし、題材化するときには、いくつかの注意を要します。たとえば、作品1や作品2のように、先生の側から見立てを提示するような場合です。子どもたちが、「お皿だよ」とか「洗濯ロープ」だよと投げかけられて、それを自然に受け入れられるかどうかです。

 ここが、子どもの発想からかけ離れてしまうと、教師の一方的な思い込みによる押しつけになってしまいます。まずは、子どもたちにとっての楽しいゴッコ遊びを誘う視点が必要です。先生の持っているイメージに子どもの表現を導くためのものではありません。

 作品1では、「料理を作るゴッコ遊びを発展させて、身近な人たちをイメージしながら表現できるようにさせたい」という目的に向かって、楕円に切った色画用紙をお皿に見立てる遊びを活かしています。作品2での洗濯ロープは、お手伝いをして喜んでくれるお母さんを思い描くための「しかけ」です。

 いずれにせよ、身近に存在する様々な材料の形や色から発想したり、目的に応じて先生が用意した題材で、何かを見立てて想を広げていくなどの見立て遊びは、想像を楽しみながら表現していく描画やものづくりの活動につながっていくのです。

作品・資料協力

  千里敬愛幼稚園 三石台幼稚園

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