耐性菌
薬剤耐性菌が問題になって久しいですが、とうてい人類に勝ち目はありません。細菌の繁殖スピードは驚異的で、一個の細菌は一日で10の8乗というものすごい数になってしまいます。さらに多様化のための突然変異でいろんな環境に対応できるような多くの亜種を用意しており、環境変化が起これば、そのスピードも上がるのです。
人類は自らを多様化できないため知能を使って対応しようとしますが、進化の法則にぶちあたり、よけいに悪い結果をまねきます。
抗生物質登場以前の赤痢の有効な化学治療薬としてサルファ剤がありますが、過度の使用により耐性を持ち1950年頃には、赤痢菌の80%がサルファ剤耐性菌となってしまいました。
魔法の薬と言われる抗生物質もこれらのことを教訓として使用していれば、細菌の逆襲を先延ばしにできたのではないでしょうか。
抗生物質について
1928年、イギリスの細菌学者フレミングはブドウ球菌の培養実験中アオカビが、ブドウ球菌を殺すことを発見しました。
1940年、化学者フローリーは、この成分を純粋に取りだすことに成功します。ペニシリンと名付けられたこの成分は、ブドウ球菌などの細菌を殺すのに、人間など高等生物にはほとんど害がないという素晴らしいものでした。さっそく大量生産され、第二次世界大戦で多くの兵士の命を救いました。
細菌の細胞は、堅い網目状の分子でできた「細胞壁」というもので覆われており、これのおかげで形を保っています。ペニシリンは反応性が高く、分子中央部の四角形の部分(β-ラクタム)が細菌の細胞壁を作る酵素に入り込み、細菌が細胞壁を作れなくし殺してしまいます。
初の抗生物質、ペニシリンの登場で、病原菌を克服したかに思えたのですが、先の例のようにすぐに細菌は多様化をはかります。
このペニシリンを分解する酵素、β-ラクタマーゼという酵素を作って(β-ラクタム)を破壊する耐性菌が登場しました。黄色ブドウ球菌では98%、肺炎球菌でも37%がペニシリンに耐性になっています。その後、「ストレプトマイシン」等の抗生物質が登場しましたが、すぐに耐性菌が発生しました。
1960年に開発された「メチシリン」はペニシリナーゼに分解されない画期的な抗生物質として登場しましたが、10年もしないうちに
MRSA
(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
が登場し、最後の切り札として登場したのが「バンコマイシン」ですが、これもまたすぐに
VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
が登場しました
抗生物質の功罪
問題なのは、プラスミドを持っている細菌から持っていない細菌へ、プラスミドが移行するということです。それは、例えば大腸菌から赤痢菌へ、まったく種類の違う細菌間にも起こり得るのです。耐性遺伝子というのは、細菌の菌体の中で、プラスミドからプラスミドへと動き回る性質があり、2つの別個の耐性遺伝子を持ったプラスミドと2つの別個の耐性遺伝子を持ったプラスミドが一緒にあると4個の耐性遺伝子を持ったプラスミドができてしまうのです。たとえば四剤耐性大腸菌と普通の赤痢菌を混ぜておくと、やがて耐性遺伝子が受け渡され、赤痢菌も四剤耐性になってきます。また、人体に無害だった菌も毒性に変化していくのです。
友達の輪ならぬ、耐性菌の輪が広がっていきます。
六剤耐性赤痢菌
多剤耐性肺炎球菌
多剤耐性結核菌
耐性ピロリ菌
多剤耐性サルモネラ菌
消毒薬耐性セラチア菌
耐性アシネトバクター
多剤耐性緑膿菌(MDRP)
もう止めようもありません、次から次へと耐性菌化していきます。
対策
今ある抗生物質を次世代の新薬登場までもたせるしか方法はありません。どのようにすればよいのでしょうか。
この魔法の薬は、安易に使用すべきではありません。本当に必要な人だけに投与すべきで、これは、製薬会社、医師、患者のモラルの問題です。製薬会社は多額の研究開発費の回収をもくろみ、医師は安全策をとります。患者は完治する前に治療をやめてしまいます。
薬剤の輪用
数種類の抗生物質を交互に服用します。同じ薬剤を連続服用すると耐性菌の発生する確率が高くなります。交互に服用することによって、耐性化する前に菌を粉砕してしまいます
徹底殲滅
患者は、症状がおさまると病気が治ったと錯覚し、治療を止めてしまいます。これはまちがいで、単に菌の勢力が衰えただけで、再登場の機会をうかがっているのです。医師の指示に従うべきです。
織田信長式でいかなければなりません。緻密な戦略と、圧倒的な戦力を持って、敵を完全殲滅させ、一兵たりとも取り逃がしてはなりません。戦国時代では取りこぼした敵に将来討ち取られることが、よくあるのです
度を過ぎた抗菌主義
最近の抗菌グッズの氾濫には目を覆いたくなります。筆箱や鉛筆、ノートそれこそ手に触れるものすべてが抗菌処理されていると言っても過言ではありません。人体は細菌に触れることにより免疫を取得し、自然治癒力を高めることができます。抗菌主義が細菌の勢力バランスを崩すことになります。子供の頃はなるべく菌に慣らすことが重要だと思われます。抗菌剤(トリクロカーボン、トリクロサン、塩化ベンゼンコニウムなどの第四アンモニア化合物)の使用は菌に抗菌剤耐性をもたすだけでなく抗生物質耐性をも獲得させることになりかねません
畜産農家の節度
アメリカでは現在、年間
11200
トンの抗生物質が病気でもない家畜に
病気の予防とか成長促進用とやらで
畜産動物の飼料にあらかじめ添加させて与えています。これも過密な飼育の場合に抗生物質を混ぜて食べさせると、肥育効率が
10
%程度あがるという近代畜産学の教えによるもので、過去半世紀近くこうした飼育が行われてきました。
運動不足で病気になりがちな畜産動物を、むりやり健康そうに見せて、むりやり成長を早めて市場に出荷させています。当然のことながら耐性菌が出現します。
家畜の病気の際に使われる抗生物質は年間
900
トン、人間には
1300
トンに過ぎませんから、如何に家畜飼料における抗生物質のシェアが大きく、製薬業界の利益が大きいか分ります
抗生物質は人への治療用として使用するのが本来の目的で、家畜への投与は即刻中止すべきではないでしょうか。薬剤耐性菌の多くは家畜への投与から生じている可能性を否定できません。
メリーランド大学のチームは、ワシントン州内各地のスーパーで買った
200
検体の食肉を調べた結果、鶏の
35
%を筆頭に、七面鳥
24
%、豚
16
%、牛
6
%が抗生物質耐性のサルモネラ菌で汚染していた、と報告しています。見つかったサルモネラ菌の
53
%はテトラサイクリン、ストレプトマイシンなど
3
種類以上の抗生物質に耐性の多剤耐性菌で、中には
12
種類の抗生物質に耐性をもつ菌もおり
、人への感染が危惧されています。アメリカの疾病予防センターとオレゴン、ジョージア、ミネソタなど各州保健局とメリーランド大学の研究者の協同調査では、ジョージア、メリーランド、ミネソタ、オレゴンという4つの州の26のスーパーで購入した407の鶏のうち半分以上が切り札とされている抗生物質Synercidに耐性を持つ腸球菌E.faeciumに感染していた。
研究者らはさらに驚くべきことを発見しました。病院の外来患者の便
334
検体を調べた結果、
76
検体(
23
%)の患者にこの抗生物質耐性菌が見つかったのです。この結果は、保菌者が良く言われる院内感染ではなく、通常の家庭生活の中で耐性菌に感染したことを強く示唆しています
EU
では
1998
年に家畜飼料への抗生物質添加が禁止されましたが日本はアメリカ同様規制されていません。日本での家畜飼料への抗生物質添加は、
1999
年で
22
種類、
1730
トンです。厚生省ではサルモネラ以外の耐性菌は有害菌でない、として耐性菌の現状調査もしていません。このようなお役所仕事が将来、大きな問題となることは明白で、エイズ薬害やヤコブ問題などを引き起こしたことを教訓としないのは何故でしょう。反省もしなければ、責任もとらず、他人事のように弁解する役人を処罰できないのはどうしてでしょうか。
大半の食料を海外から調達している日本は、大きな実験場となっている感がします。穀物や果実は成長段階で大量の農薬をかけられ、収穫後では、防腐剤、防カビ剤にまみれ、果実では、さらにワックスで磨かれて,てかてかに光っています。中には、直接溶液の入った槽に浸けられた後に日本に入って来る物もあります。また、そのような品が結構な値段を付けています。そんな物を食べ続けて将来、何ともないわけがありません。また、中国から入ってくる箸にはわけのわからない防腐剤に長期間浸けられた物もあるそうです。まさに、日本人は人体実験の標的にされているようですが、どうでしょう? 少々、横道にそれてしまいました
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