− 魅惑のウオROOM −

これは僕が熱帯魚飼育に足を踏み入れた1993年から2年を経て、それまで避け続けてきたシクリッドに興味を持つキッカケとなるエピソードを後々まで色鮮やかに覚えておくため1996年に書き記したものです。写真は本文とは関係なく1996年当時に飼育していた熱帯魚たちです。当時のモノで唯一残っていた冊子(定期的に写真集のようなものを作っていました)を今回あらためて写真に撮って再デジタル化したものなので画質は非常に荒いです。


僕がシクリッドに魅せられた理由
   
〜グリーンテラーに学ぶ〜

僕は熱帯魚飼育に足を踏み入れて未だ2年という若輩者です。金魚飼育には前々からかなり本格的設備で取り組んできており「それだけの設備が整ってるんだったら絶対熱帯魚の方が楽だし楽しいよ」という友人の言葉にまんまと乗せられてこの世界に足を踏み入れました。初めて飼育した熱帯魚はカラシン&アナバス。具体的には、ネオンテトラ,ブラックテトラ,シルバーチップテトラ,サーペ,黒コリドラスで1本、マーブルグーラミィ,パールグーラミィ,キッシンググーラミィ,ドワーフグーラミィ,ハーフオレンジレインボー,コリドラスジュリー,クラウンローチで1本、計2本の60cm水槽です。今から思えば初心者のくせに随分無茶なことをしたなぁと思います。案の定、カラシン水槽では何尾か落としてしまいましたが、アナバス水槽では、飼育スタート3日目に僅か2cmの隙間から飛び出して干物になってしまったマーブルグーラミィ以来、1尾も落とさず立派に成長してくれています。特にドワーフグーラミィは産卵&孵化まで漕ぎ着けたのですが、僕の判断の遅れのせいで全ての稚魚が母親に食べられてしまうという大失態を犯してしまったのが記憶に新しく残っています。

そんな僕が何故今頃になって「シクリッド」なのか?そうです。僕は基本的に水質調整が難しい魚や極端に世話のかかる魚を避けていました。特に水質は当然のことながら、世話もかかり、追いかけ合いどころかテリトリーの為には殺し合いすら演じてしまうシクリッド(ちょっと偏見入ってます)なんて飼育するつもりなど毛頭なかったのです。ところが、もはや「熱帯魚の世界」にどっぷり漬かってしまい、次から次へと生体の種類と共に水槽を増やしていくという恐怖の無限ループにハマり込んてしまっていた僕は、休みの日になると必ず次なる獲物を求めて熱帯魚ショップ巡りを繰り返す日々を送っていました。でも、そんな半ばオカシクなっている状態の僕でさえシクリッドにだけはタッチしないよう該当するコーナー、売り場は注意深く避けて通っていたんです(笑)。

そんなある日、出逢ってしまったのが「グリーンテラー」・・・緑色の恐怖という名の魚です(笑)。当時の僕は経験と独学だけで熱帯魚飼育をしており、発刊されている多くの熱帯魚関連雑誌には目もくれていませんでした。正確に言うとそういう雑誌が存在していることすら知らなかったのです。今はもちろん雑誌から飼育書、専門書にいたるまで真摯に目を通すようになりましたが、その頃の僕にとって「グリーンテラー」が何者なのか、どんな奴なのか知る由も無かったのです。実に恐ろしいことです。おまけにその「グリーンテラー」との出逢いを演出してくれたお店は、当時ちょうどその街に新たに出店して何回かに1度は訪れていたショップで、いわゆる「大量・多種・激安」のお店。売場の分類が所々入り乱れていて判りにくく、頼りの店員さんも話しかけることすら躊躇してしまうような強面のお兄さんばかり。紫色と金色のオーラを放ちながら黙々と作業を続けています。

ひとつ明らかだったのは、その「グリーンテラー」水槽の周辺にはカラシン系の水槽しか無かったということ。楽天家な僕は「きっとコイツはカラシン系の凄い奴に違いない」などとトンデモない勝手な思い込みをして、無謀にも何の下調べもせずに衝動買いしてしまったのです。1尾600円。ペアで購入。しかし車での帰途、さすがの僕も少し不安になって書店に立ち寄り、そうした専門書というか図鑑のようなものはないものかと探してみると、いとも簡単に「熱帯魚図鑑」なるものを発見。こんな便利な本があるのか〜と呑気に感心しながらグリーンテラーのページまでパラパラとめくると・・・びっくり仰天!な、なんと!「グリーンテラーはシクリッドの一種である」と書かれているではありませんか!!数秒間の気絶から醒めた僕は「買ってしまったモノはしょうがない。こーなったら徹底的に極めてやろうじゃないか!」と開き直り、その足でホームセンターに向かい、水槽セット&サンゴ砂&シクリッドフード等を購入。家に到着するやいなや早速設置にとりかかり、なんと数時間でPh7.5の立派なシクリッド水槽を立ち上げました。賢明なる皆さんはもうこの時点で僕に殺意を抱いていることでしょう(笑)。仏様並みに心の広い方でさえ「てめぇ、まだ気付かないのか?いい加減にしろ!」とイラついてるに違いありません。

そうです。「経験と独学」が全てだった当時の僕にとっては、まだこの時「シクリッド」=「アルカリ性」以外の知識も概念も存在していなかったのです。水温も適温になり、いよいよ放流かな?と思ったその時!・・・僕は熱帯魚の神様の啓示を受けました。「そうだ!せっかくだからさっき買ってきた熱帯魚図鑑をもう一度見てみよう」と思い立ったのです。奇跡でした・・・。鼻歌交じりで図鑑に目を通す僕。そして数分後、ワナワナとヘタりこむ僕、手から滑り落ちる図鑑、そしてもう一度ホームセンターへと向かう僕の姿がありました。「グリーンテラー」は南米〜中米産のシクリッド、つまり「アメリカンシクリッド」という分類に位置し、アルカリ性どころか弱酸性〜酸性の水質を好む魚だったというわけです。

「大磯砂」「Phマイナス」「Phブロック6.5」などを手に帰宅した僕は、今度は5時間かけて中性〜弱酸性水槽を立ち上げました。一度サンゴ砂を入れた水槽を酸性に傾けるのには手こずりました。他の水槽のみんな、大量の飼育水を分けてもらってゴメンよ・・・。ほぼ10時間もの間ナイロン袋の中で放置され心持ち元気の無くなったグリーンテラーのペアをようやく放流し、その1時間後には随分と落ち着きと元気を取り戻してくれたのは救いで、何よりペアが非常に仲睦まじく連れ添って泳ぐ光景が新鮮で感動的でした。「最初つまづきはしたけど個体にも恵まれてこりゃあシクリッド飼育初体験にしては幸先いいぞ〜!」なんて喜んだものです。翌日の悲劇を目のあたりにするまでは・・・。

翌朝、朝食を与えようと各水槽のライトを点灯したところ、グリーンテラーのオスはもう水槽にもすっかり慣れた様子で「早く何か食わせろよ」的な顔でコチラに向かっておねだりしているのですが、あれ・・・?メスが見当たりません。その時は「きっとどこかに隠れているんだな。オスとは違ってシャイなやつだなぁ」程度にしか考えず、仕事に向かいました。夜帰宅して、晩御飯を与えようとフタを開けると、颯爽と水面に現れるのはやはりオスだけ。さすがに不安になって内部フィルターの陰や水中オブジェクトの陰を探すも見当たりません。

どこか信じられないような隙間から飛び出して干物になってしまってるんじゃないか・・・居ない。

何かの拍子に水中オブジェクトの下敷きになってしまってるんじゃないか・・・居ない。

中が空洞になっている水中オブジェクトの奥に入り込んで出て来れなくなってしまってるんじゃないか・・・出て来れなくなってしまってるんじゃ・・・出て来れなくなって・・・??・・・い、いたあぁぁー!!

驚くべきことに彼女は「切り株」に似せて造られた水中オブジェクトの中の空洞の根っこの部分、その奥の方にまで入り込んでしまっていました。一体どうして?それは救出した途端に解明できました。無惨にもメスは、たった一夜にして背ビレ・胸ビレ・尾ヒレを殆ど根元まで引きちぎられており、まるでマンボウのミニチュアか痩せこけたランチュウのようになってしまっていたのです。昨日の「連れ添う」ような仲の良さは一体なんだったんだ?幻でも見ていたのだろうか・・・何事も無かったかのようにエサをねだり続けるオス・・・き、貴様ぁぁぁ!!(泣)

今から思えばおそらく、とりあえず新しい環境に移ったばかりで、そこに順応するまではテリトリーのことなど考える余裕もなく、ただ行動を共にしていただけに過ぎず、決して「仲の良いペア」というわけではなかったのでしょう。そして生死の心配はしなくて良さそうだとわかった途端に、メスより若干体格の大きかったオスは真っ先に「侵入者」に過ぎないメスが自分のテリトリーを侵すのを良しとせず攻撃したに違いありません。のちに書店で熟読したどの専門書にも「グリーンテラーは気が荒い。同種間でも闘争は避けられない」という意味合いの文言が明記されており、ここでもまた僕は無知ゆえの過ちの恐ろしさを思い知らされるのでした。

実はこれにはまだ後日談がありまして・・・
傷だらけのメスを介護するするための水槽を用意する余裕がなかった僕は、ちょうど薬浴中だった金魚(らんちゅう)の水槽に“とりあえず”一時避難させることにしました。水質には問題なく、重傷で泳ぐのもままならないグリーンテラー(メス)にイタズラする余裕も無いだろうと考えたのです。あらゆるヒレを失ったグリーンテラー(メス)でしたが2〜3日のうちに元気を取り戻し、約1週間後にはヒレの再生とまではいかないものの、金魚と一緒に仲良くエサを食べるにまで回復していたのです。そう、「仲良く」です・・・。賢明な皆さんならもう既に僕の愚行に対して叱咤してくださっていることでしょう。

そんなある日、1匹の金魚が水槽の奥でジッとしていてエサをあげても殆ど動かないことに気づきました。「あんな酷い目に遭ったメスなんだから・・・」と安心しきっていた僕が大馬鹿でした。その金魚を網ですくい上げると、見るに耐えない光景がそこにはあったのです。「生きては、いる」まさにそんな状態でした。両目をえぐられ、口唇から胸ビレにかけて明らかに「かじられた」ような跡の傷が深々と残されていました。数時間後には息を引きとってしまうことになるそのランチュウを見つめながら自らの怠慢と無知ゆえの過ちを深く深く悔いました。

その数週間後、60cm水槽を新調した際、『繁殖』という淡い期待を胸に、逃げ場となる水草やオブジェクトを大量に配した上で、再度グリーンテラーのペアを一緒に放ってみました。その数週間の間にオスはぐんぐんと成長し、もうメスの2倍近くにまでなっています。メスを発見するなり僕の想像を遥かに超えるオスの壮絶な猛攻が始まり5分も見てはいられませんでした。速やかにメスをすくい上げて別の水槽に移したのは言うまでもありません。シクリッド・・・なんて美しくて、・・・なんて業の深い魚なんだろう。

あれから半年が過ぎ、生涯独身で暮らすであろうオスのグリーンテラーは、ますます美しい模様と輝きを呈し、15cmにまで成長。今も優雅に底砂利を掘り起こしてバリケードを作り、自分だけの城を守っています。

1996年5月25日

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