そもそも。
家の庭池に、亀が棲み着いているのを発見しました。いつからいるのか分からないけど、梅雨明けが宣言されたある晴天の日、池の水を全部抜いたときは気づかなかったから、それより後にやってきたのだろう。その後まもなく、2日ほど続けて雨が降って、せっかく渇かした池は元のようにすっかり水が張ってしまったのである。
私の部屋は、この池に面しているから、池に水があると蚊が殖えてこまる。蛙も、夜になるとうるさくてこまる。それで、いつものように水を抜こうと畔まで降りてみると、まるで100年前からそこにいるような顔をして、彼女が、浮かんでいたのです。
もっとも、ネコの雄雌も間違える私に亀の性別が分かるわけもなく、この亀が「彼女」であることを知るのは、のちに詳しい方のご指摘があってのことなのだが、そんなことより、池に亀が棲み着いている現実を目の当たりにした私は、大人げなくも、戸惑い、はたして、留学中の奥方が帰国したらなんと言うだろう、と、妙な心配をしながら、ただただ、池の彼女を眺めていたのでした。
我が家は、田園地帯の中にあり、いわゆる田舎の一軒家です。近くには水田に水を引くための用水池や水路が点在し、そもそもキツネやタヌキばかりか、シカまでも見かけるような山村だから、亀ぐらいいるのは不思議ではありません。望んできたのなら追い返す理由もないし、また、元の場所に放すにしても、どこから来たか分からない以上、どうすることもできません。まあいい。気に入ったのなら好きなだけ居てくれれば良いし、都合が悪ければ、出ていくだろう。
こうして、奇妙な出会いから、彼女との生活が始まったのです。