彼女のこと。
さる詳しい人のご教授によれば、我が家の亀はニホンイシガメという種類だそうだ。
そういえば、某デパートのペットショップで、「じきに天然記念物になっちゃうよ。買うなら今だよ。」みたいな売り方をしていたのを、記憶しています。そういうことを言うから、数が減っちゃうんじゃないだろうか。そして上記のご指摘によれば、この亀は、メスらしい。
ともかく、こうして彼女は「彼女」になったのです。
彼女は。
大きい。
甲羅の長さは、ざっと25センチぐらいに及ぼうか。相当なご老体とお見受けしますが、まだまだ活発で、ひょこん、と、長い首を伸ばしては、池に迷い込んだアマガエルなど、捕食している様子。私は、動物がおなかを空かしているのが耐えられない性分なので、ついつい、何か与えてみよう、と、言う気になってしまう。ネコに買ったにぼしを与えてみよう。
縁側からにぼしを放り投げて、人が見ていると食べないだろうから、カーテンを引いて、しばらくしたらそっと隙間から覗いてみる。バカみたい。すると彼女は、にぼしの端をしっかりくわえ大きな手でちぎりながら、食べているのである。この池の野生生物だけで、生きていけるのだろうか?でも、エサが少なければ、勝手に出ていくだろう。いや、それでいいのか?なんだかわからない。
そんなこんなで観察して、すこしは彼女のことがわかった。
まず、彼女には左手が、ない。甲羅から、ようやく出るほどの長さを残して、なくなっている。食いちぎられたのだろうか。こんな大きな亀に挑む強者がいるとは、野生は恐ろしい。それから、しっぽの先も、ない。おそらく同じ理由からだろう。
さらに、右足の付け根のあたりの甲羅に、なにやら穴が穿ってある。そういえば、私が子どもの頃は、こうして開けた穴にひもをとおして犬のように繋いで飼っている風景を見たことがある。どこかで、少なくとも一時期は人の手で飼育されていたのだろう。
甲羅が黒いのは、どうやら疾患らしいと先の詳しい人から教えていただいた。ぱりぱりと、甲羅が剥離するような兆候が見受けられるけれど、脱皮ではないそう。ニホンイシガメってほんとうは黄色いんですね。しばらくは、見守るしかあるまい。