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京都新聞(山城広域版)掲載の健康コラムから


漢方医学と現代医学① (平成18年10月18日 掲載)

現代一般的に行われている医療は、科学的見地に基づいた西洋医学が基本ですが、一方で、伝統的な漢方医学(東洋医学)の良さも見直されつつあります。漢方医学はどのような長所があり、現代医療に取り入れられているのでしょうか。
西洋医学では、本格的な病気については、いわゆる病名のつく病気として、ほとんど網羅されています。しかし実際、我々の日常生活の中では、西洋医学ではなんとも割り切れない心身の不調が数多く存在します。例えば、胃が重い、胃が痛いけれども、胃カメラをしても何も異常が見つからない、最近しんどくて仕方が無いが、いろいろ検査しても特に異常が無い、そう言った話はよくあります。頭痛、頭重、めまい、肩こり、冷え性、のぼせ、動悸、いらいらなどの症状もよくみられます。これらの症状は、検査で特に異常が無ければ、言わばその人の体調や体質、気質的な問題で、西洋医学ではともすればそんなのは病気ではないという事で終わり、せいぜい自律神経失調症や心身症だとかという話になりかねません。しかし、漢方医学では、こういった病状や体質的な問題に対しても、非常に緻密な見極めが行われます。漢方医学では、病状の分析は個人が単位であり、言わばオーダーメードの医療とも言えます。具体的にどのように分析され、どのように治療が考えられるのか、次回に述べて行きたいと思います。

                伊原内科医院 伊原 隆史

漢方医学と現代医学②  (平成18年10月25日 掲載)

我々が日常で聞き慣れている現代医学の病名は、西洋医学の言葉であり、そもそも胃の病気だとか肝臓の病気だとか、臓器別系統別の区分けからして、実は漢方医学では全く異なります。したがって、漢方では臓器ごとの薬はもちろん、糖尿病の薬だとか、高血圧の薬だとか、厳密にはありません。では漢方医学では、どのように病状の分析と治療が行われるのでしょうか。前編で述べましたように、漢方医学では、個人の体質的な問題、病状の進行時期、さらに病因を個々に見極めようとします。そして、その人の体質に合った治療、病状の進行時期、病因にあった治療を行います。
例えば全く同じ風邪であっても、胃腸や体力が丈夫な人と、そうでない人とで、治療薬が異なってきます。あるいは、風邪の引き始め、中盤、こじれてきた後半で、やはりまた処方が変わってきます。また、たとえ体温が同じであっても、寒気のある人と、逆に熱感がある人とでは、用いる薬の特性は正反対になります。
以上、煩雑に思われるかもしれませんが、だからこそ通常の治療でうまくいかない人、薬で副作用が出やすい人、あるいは病気とされないような潜在的ないし未然形の病態などで、漢方が有効な場合があるわけです。西洋医学の現代科学的な見方と漢方医学の東洋伝統的な考え方と、双方の長所を生かすことで、より質の高い医療に結びつくと考えられます。

空                  伊原内科医院 伊原 隆史

漢方医学と現代医学③ (平成18年11月1日 掲載)

最終回では、漢方治療でよく使われる処方を列挙して、参考に供したいと思います。例えば風邪の場合、実証体質で胃腸の丈夫な方には、体質の弱い虚証の方には香蘇散、少し進んだ時期には小柴が用いられます。後の2種の処方には「」という生薬の他、一般によく知られている「人参」を含んでいるのが特徴です。また気管支炎を起こした時には、麻杏甘竹筎などが用いられ、高齢の方で脱水傾向があり、痰が粘場合には、至宝も処方されます。煙草をよく吸う人には、効く場合もあります
悪性腫瘍で抗癌剤が用いられている方には、副作用の軽減や体力回復に、補中十全大補などが処方されます。栄養失調などで免疫力の低下に伴い、感染症を起こしやすい状況にある方には、人参有効です。これらの処方には、上記の「人参」の他「黄耆」を含んでいるのが特徴です。
高血圧症や動脈硬化症などの場合では症状に応じて藤散半夏白朮天が応用され、特に頭痛や目まい症状に有効です。高齢で血液循環の悪い方などには、七物降下も用いられます。
 このような漢方医学的診療の特徴を総括すると、①体力を増強し、体質を改善する。②免疫機能を調整し、結果的に感染症、動脈硬化、腫瘍などの疾患に対して抵抗力、修復力をつけるということになります。

              伊原内科医院 伊原 隆史