「”盃”の話は、もう聞いたんか?」
グラスを意味もなくカラカラと傾け龍司はゆっくりと話し出した。
「あ・・あぁ。」答えたものの、
「そぅかぁ・・・。」と言ったきり話が途切れてしまう。
逆に沈黙されると、どうしていいのか分からず返ってやり辛い。仕方なく俺は何か話さなくてはと思い、話をつづけた。
「驚いたぜ。郷田会長が亡くなった今、まさかお前があの時の話を受ける気になるなんてな。」
龍司はグラスに残っていた酒をいっきに飲み干した。
「ワシはアンタとこの”龍”に負けた。只それだけや。」
らしくない言葉だ。今までの龍司なら認めなかった筈だ。
龍司はまた、酒を注文し、空を仰いだ。
「まぁ。ワシなりのケジメや。あんまり細かい事気にすんなや。」
同じ”龍”を背負う男として、これ以上の屈辱はないだろう。
”負け”を認め、”盃”を交わす。
この男はこれからどうしていうつもりでいるのだろうか?
「そういえば、林って男。アイツも生きてたんだな。桐生さんが何度か会ったことがあるって言ってたぞ。」
俺は、もうこの話を逸らしてやろうと思って言ったつもりだったが、共通の話なんて元々ない。なんて気の利かない言葉だろうか。
「”何度か会った事がある”程度か・・・。林も可哀相やのぅ・・・。」
龍司はそう言ってククク・・・と顔をしかめた。
「一緒に来てたのか?来てんなら何でお前自身が来ないんだよ?」
本当に俺はバカだった。
龍司がそんな顔をするとは思わなかった。
龍司は深くため息を付いた。
「もう少し、ワシにも時間くれや・・・。」
しまった!と思ったときにはもう遅かった。
俺はなんて鈍感なんだろう・・・。
そんな俺に気が付いたのか、顔に出ていたのか、龍司は軽く笑いポンポンと俺の肩を叩いた。
「安心せぇ。すっぽかしたりはせん・・。当日は必ず行かせてもらう。」
龍司は吹っ切れたのか、大きく笑ってみせた。
この男に同情しようとしていた己が恥ずかしい。
→