父親、”郷田仁”の一室に飾られている一太刀の刀。
その刀は、鈍く黒光りする鞘と鍔には金色に輝く龍の浮彫が施されていた。
この大きな刀が龍司は、ずっと好きだった。

まだ幼い龍司は自室を抜け出し、この刀の飾られている仁の部屋に忍び込んでは、毎日の様に眺めていた。

「かっこえぇなぁ・・・。
 ボクもこんなん欲しいわ・・・・。」

------大人になったら、ボクもこんな刀を使いこなせる様になるんやろか・・・?--------

いつも父親である仁には『危ないから触るな。』と強く念を押されていたが、今日ばかりは我慢がならなかった。

------ちょっとくらい、触っても大丈夫やろ・・・------

この大好きな刀に触れてみたくて、手にしてみたくて仕方がなかった。
龍司は、おそるおそる刀に触れてみた。
柄に巻かれた藍鮫皮ザラつきと、鞘の冷たい感触が堪らなく心地良かった。

「うわぁ。すげぇ・・・!!!」

当然、触れてみれば、その刃(やいば)を見たくなるものである。
龍司は刀の鞘を抜いてしまった。
とはいえ、まだ幼く小さい龍司には、その刀は大きく、そして重すぎたのだ。
力いっぱい抜いてはみたものの、刀を支える事は到底出来ず、容赦なくそれは龍司に襲う。

「わあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」

必死の思いで身をかわし、なんとか直撃を逃れたものの、その刀は龍司の顔を掠めていた。
顔から真っ赤な己の血がポタポタと滴り落ちる。
「龍司!!!!どないしたんや!!!!」
異常に気付いた仁は、高島を引き連れ部屋へ駆けつけてきた。
血を流している龍司に驚きが隠せない。
「阿呆!!!あれだけ何べんも触るなと言っておったやろうが!!!」
仁は怒鳴ると同時に龍司を抱えこんだ。
「出血が酷い。早く病院へ!!!」
どうやら、高島が病院へ連絡を取っているらしい。
初めて見た、大量の血。
朦朧とした意識の中、龍司は仁に支えられ、そのまま意識を失った。

目が覚めると龍司は自室に寝かされていた。
口元がズキズキ痛む。

「いったぁ・・・・」

一体、何針縫われたのだろうか?
大きなガーゼが顔に貼り付けられていた。

「・・・・斬れよった・・・。」

怪我をしてしまった刀への恐ろしさは勿論あったが、それ以上に刀に触れた事、手に出来た事が嬉しくて堪らなかったのだ。
まさか、初めて斬ったものが己自身になるとは思ってもみなかったが。
可笑しな事になったと、龍司は失笑する。