続 こどもへのまなざし


■著書名:【続 子どもへのまなざし】
■ジャンル:精神医学
■著者名:佐々木正美
■出版社:福音館書店
   発行年:2001年   定価:1800円
■ISBN4-8340-1732-X
■おすすめ度:★★★★

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 NHKで注意欠陥多動性障害の子どもについての番組を放送していた。注意
が長続きしなく,しょっちゅう動き回るといった個性を持った子ども達がいる
ことは以前から話にも聞き,たまに目にもしていたのだが,では具体的には,
そして医学的にはどういう症状をいうのであるかは,全然知らなかったし,ま
してやそういった子ども達とどう接していったらいいかは考えもしなかった。

 そんな折り,たまたま妻が「続.子どもへのまなざし」という本を買ってき
た。「続」というからにはその前にも出ているわけで,基本的には育児につい
ての本である。児童精神科医である著者と横浜市の保育者との間で行なわれて
いた勉強会の時の講義をまとめたものであるというが,これがまた随分と反響
を呼んだらしく,今回の続編の出版となったらしい。

 この続編でも育児に関わることが主となっているが,後半の1/4程度に障
害を持つ子どもについての章が組まれている。障害といっても著者は児童精神
医学が専門であるから,身体的なものではなく知的障害,発達障害等について
主に取り扱われている。

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 育児についての悩み事にたいしては,この続編でもすごく判りやすくそして
読んでいると,だんだんに「ああそうか,なるほど」と気持ちが落ち着いてく
る。

 例えば,「抱っこをせがむんで困っているんですが・・・」という悩みに対
しては,「いいんです。どんどん抱っこしてあげれば。やがて子どもの気持ち
が落ち着けば自分から離れていくものです。」と言い,「兄弟喧嘩が多くて,
でも上の子ばかり叱るわけにもいかないし・・・」といった悩みには,「けん
かはどんどんさせて構いません。上の子に我慢をさせるのはしょうがないけれ
ど,時々上の子と一人の時間を作ってあげて,甘えさせてあげましょう。」と
言っている。

 う〜んなるほど,でも考えてみれば当たり前のことだなあと感じるように書
かれている。読んでみて納得してさらに当たり前のことだなあと思えるように
書かれているので,さすがに評判になったということがよく判る。

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 さて注意欠陥多動性障害の子どもは,とにかくひとときもじっとしていない
でよく動き,バネ仕掛けで動かされている子どもだと言われたりする。しかし
人間にとってじっとしているのは実は難しいことで,例えば一時間ずっと立っ
ているより,一時間歩き続ける方がはるかに楽である。こんなふうに書いてあ
るのを読むと,ここでもやはりなるほどと思うのである。

 他の子どもよりも過剰に動いているということで,大人は「じっとしていな
さい!」と叱り,子どもがそれをできないとまた叱る。こうしてますますエス
カレートしてひどい状態になっていくという。

 子どもにとって怒られるということは,自分を否定していくことになってし
まい,自分を肯定的に捉えることができなくなる。そうしてますます衝動性が
大きくなっていってしまう。

 そうなんだ。感情に走って怒ってばかりいてはいけないんだ。

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 自身を振り返ってみると,如何に子どもに対して怒っていることがあるかが
よく判る。「何でそんなことするんや!」と怒鳴りながら,子どもが「ゴメン
ナサイ」と言うだけでは済まさずに,何度も「なんでや!」を繰り返す。何か
悪さをしたときには,そんなにはっきりとした理由のあることはあまりないん
だと冷静になったら思うが,怒っている時は感情の高ぶりもあって,子どもが
何か理由を言うまで喚き続けてしまう。

 自分の子供時代を振り返ってみると,確かにそんなときは何を言われても,
口を一文字にして睨み返しているか,ひたすら泣いているかのどちらかだった
ような記憶がある。子どもに迎合してはもちろんいけないが,子どもの気持ち
を判ってやらないといけないと思い返してしまった。

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 以下,注意欠陥多動性障害等の子どもの特徴について,一部抜粋。

 学習障害:AD (Learning Disability)
 注意欠陥障害:ADD (Attention Deficit Disorder)
 注意欠陥多動性障害:ADHD (Attention Deficit Hyperactivity Disoeder)

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 自閉症,注意欠陥多動性障害,学習障害といわれる子ども達にとって,イメ
ージの世界を持つことが苦手という特徴があって,目に見えないものの理解が
非常に弱い。

 イメージの世界が弱いために自分の痛みは判っても相手の痛みを想像するこ
とができない。自分のおもちゃを取られると大騒ぎするが,他の子のおもちゃ
は平気で取る。なんて我が儘だと思うけれども,本人にとっては他人の痛みを
想像できないから,相手が悲しむだろうと想像してから行動に移るということ
ができないために,何か欲しいと思ったら衝動的に行動してしまうだけなので
ある。

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 注意欠陥多動性障害や学習障害の子ども達は,しばしば障害と思われない。
しかしながら身体の運動や感情のコントロールも不器用で衝動性が激しく我慢
ができにくい。そして人の嫌がることをワザとやっているようにも見える。

 親や教師から見ると生意気で我が儘だと捉えられ,いつもよく怒られるよう
になる。この子達は突然友だちを叩くとよく言われるが,この子達も突然叩か
れている。自分が人をイライラさせているということが判らないから,例えば
食事のときに座っていられないとかで叩かれたりするのも,この子達にとって
は突然叩かれるようなものなのである。人から叩かれたことのない子どもが人
を叩くなんてのはまずない。

 この子達は不器用な面があるため,なぜ自分はみんなのようにうまくできな
いのかと思い,自分を否定的に見ているところに更に突然何度も何度も叱られ
萎縮していってしまう。そして本当の意味での情緒障害になりかかっていたり
なっていたりする。この子達はぶたれたり,叱られたり,さげすまれたり,あ
る意味で障害の中で一番傷ついて不幸な存在だとも思える。

(2001.5.9)

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