銅鐸の絵を読み解く


■著書名:【銅鐸の絵を読み解く】
■ジャンル:考古学
■著者名:佐原 真 : 構成
■出版社:小学館
   発行年:1997年 初版  定価:2400円
■ISBN4-09-626059-2
■おすすめ度:★★★

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 住んでいる場所が『銅鐸の町』と言われているせいか,どうしても題名に銅
鐸と名が付くと買ってしまう。その場所というのは滋賀県野洲町,これまでに
2回の大量発掘がなされていて,世界最大(銅鐸は日本にしかないから,当然
日本で最大なら世界最大となるのだが・・・)の銅鐸もこの地から発見されて
いる。

 JR琵琶湖線(東海道線)沿いの野洲駅を降りると,大きな銅鐸の看板が迎
えてくれる。町のマスコットは『どう太くん』といって,銅鐸の形をデフォル
メした人形である。地元の和菓子屋には“銅鐸サブレ”というのが売っていて
鳩サブレと同じような味で単に銅鐸の形をしているだけなのだが,これが結構
安くて美味しい。手軽な地元土産として重宝している。

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 1995年の秋,「銅鐸の絵と子どもの絵」と題したシンポジウムが開催さ
れた。参加者は“ベルサイユのばら”の池田理代子,考古学の金関恕,児童画
が専門の東山明・直美夫妻,歴史民族博物館の佐原真と春成秀爾といったメン
バーで,本書はその時の内容を中心としてまとめられている。

 大昔の絵,諸民族の絵,そして子どもの絵と銅鐸の絵との間には共通性が多
いとも言われており,視点を一つに絞らない多視点画,基底線の上に描いてい
く方法など,いくつかの事例をひいて比較している。

 また銅鐸に絵を描いたのはどういう人物なのだろうか。紋様の緻密さに比べ
ると描かれた絵はどちらかといえば稚拙であることから,絵の専門家ではない
であろうとか,いくつかの銅鐸は同じようなテーマで描かれていることから,
そういった絵を描く人たちが存在したのであろうとか,いろんな弥生時代の状
況を想像している。

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 本書にはこれまで知られている『銅鐸の絵』が全て図示されており,素人に
も銅鐸の絵とはどんなものかというのを考えていく手助けになる。またフォー
ラムの内容にあるような専門家達の意見を参考にしながら,当時の人たちがど
んな思いを込めて銅鐸に絵を描いたのであろうかというのを,考えていくため
の良い参考資料にもなりそうである。

 何と言っても,これまでの全ての絵が載せられているというのは,専門書で
もない限り,なかなか得られないものでもあるから,この書は考古学の好きな
人にとっては,なかなかに価値のあるものであろうと思われる。是非,弥生時
代の頃に興味のある方々には手に取っていただきたい書の一つである。

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 銅鐸に描かれている絵に関してはいろんな解釈がある。参考として本書にま
とめられている解釈を以下に紹介しておく。銅鐸に興味をもつ人たちの参考に
なるのではないだろうか。

A:日常生活派, B:季節派, C:画題位置重視派

(A)日常生活派
   弥生時代の日常生活・環境を風物史的にあらわしたもの。

(B1)秋説
   収穫の秋を描いたもの。
(B2)初夏・秋説
   田植えの5月と収穫の秋をあらわし,新嘗,つまり収穫祭の感謝の祝い
   事を込めているもの。
(B3)四季説
   四季をあらわすとみて,年中行事的画題や季節感を示すと考え,「亀,
   ヘビなどは冬眠からさめて動き出す初春を象徴し,鋤踊りは水稲耕作に
   入る予祝の行事を示し,臼つきは秋の収穫と新米の祝いの行事を示し,
   水鳥は晩秋の渡り鳥の来る季節を示し,鹿や猪の狩猟は,冬の狩りの行
   事を意味したもの。
(B4)初夏説
   田植えの頃の水田に揃う動物を描いたもの。

(C1)主題+風物詩説
   狩猟図・脱穀図・倉庫図こそが主題で,これに加えて主題を多彩に彩る
   ための風物詩的な絵を添えた。
(C2)水の輪廻説
   流水紋・渦巻き紋を水の表現としてとらえ,水の輪廻として解釈する。
(C3)農耕讃歌説
   生きとし生けるもの弱者を殺して生き,人も狩りの生活を送ってきた。
   しかし神の教えで稲作を識り,秋毎に実りが倉に満ちていることを神に
   感謝する物語として解釈する。
(C4)豊かな水と秋の豊作を願う説
   トンボ・カマキリ・カエル・トカゲは,農作物の害虫をとらえて食べる
   もの,亀とサギは水の豊かさの象徴,鹿・猪は害獣をとらえる。こうし
   て害虫・害獣も駆除されて,水も豊かに注いで,秋に豊作がもたらされ
   ることを祈って呪術的に描いたと解釈する。

いやはや,ほんとにいろんな解釈があるものである。


(2000.11.27)

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