邪馬台国の時代


■著書名:【邪馬台国の時代】
■ジャンル:歴史/考古学
■著者名:黒岩重吾/大和岩雄
■出版社:大和書房
   発行年:1997年   定価:2,400円
■ISBN4-479-84044-3
■おすすめ度:★★

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 学会の「常識」にとらわれることなく複眼的視点で論じる<新しい日本古代
史>。本書の帯にそう書かれている。(でもそんなに言うほどの内容でもない
なあ,というのが読んだ後の印象であるのだが・・・)

 黒岩重吾氏と大和岩雄氏による各々の邪馬台国論概説。三部構成となってい
て第一部は黒岩氏の持論,第二部は大和氏の持論が概説され,第三部は二人の
対談という形式がとられている。両氏の説の詳細については,それぞれ別の書
で出されていて,本書は両説の概要説明というか,「東アジアの古代文化」と
いう雑誌等に掲載されたものをまとめたものである。

 大和説は結構興味深かったのだが,2400円も出して買うほどの本ではな
かったなというのが,素直な感想である。

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 邪馬台国の所在地論争には,今なお大和説と九州説とがあり,黒岩氏は九州
説をとっていて,さらに卑弥呼の後継者である台与の時代に大和に東遷したと
している。

 大和氏は面白い説を持っている。弥生時代の日本は九州から東海にかけて広
範囲に連合した国々から成っており,連合国の女王として擁立された卑弥呼は
魏の使者が常駐した北九州に居て,魏志倭人伝に云うところの「女王国」なる
ものを治めていた。 やがて魏が滅んだ後の台与の時代に大和に遷都し,台与
を中心に邪馬台国を造ったとしている。

 魏志倭人伝には邪馬台国という言葉と女王国という言葉が出てくるが,北九
州にあった卑弥呼の女王国と大和にあった台与の邪馬台国とを倭人伝の執筆者
が混同してしまったため,倭人伝記載の距離が解釈困難なものになったのだと
主張している。

 誰だったか忘れたが,同じように女王国と邪馬台国とを別物として,邪馬台
国は大和に,そして女王国というのは日本全体の連合国家を表わすもので,九
州から中部地方にまで広がった領域であると言っていた。そして北九州はその
連合国「女王国」の端っこであると。

 二者の見解がそんなに変わらないので対談といっても喧喧諤諤もなくスムー
ズな運びで,論争のないところがあまり面白くない。かといって正反対の説の
人間同士の対談では,おそらくどちらも譲らずただ平行線を辿るだけで,これ
も面白くないかもしれない。どちらがいいとは言えないだろう。

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 本書の発行は今から4年前の1997年。4年の歳月というと,その間にも
新たな考古学的資料が次々と出てくる。古墳や遺跡の年代についても「年輪年
代法」の適用によって精度も上がり,ものによってはこれまでの推定年代を一
気にさかのぼる場合も出てきている。

 古墳時代と言われていた年代も,百年程度は過去にさかのぼってきて,古代
日本の姿は今まで推定されていた以上に進んでいたようである。こうしたこと
から従来から続いている邪馬台国論争も,江戸時代から繰り広げられているに
も関わらず,常に新しい動きがあって,なかなか飽きのこないテーマである。

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 なんといってもミステリー小説を読むようで興味が尽きない。ただ自分が市
井の研究者になろうと思うと,記紀はもとより,中国の古い文献にも多く目を
通さなくてはならず,そういったものにずっと興味を持ちつづけることのでき
る人間でないとなれないだろう。今のところはミステリーを楽しむのと同時に
雑学としての知識を詰め込むことで精一杯である。

 何はともあれ,本というのは自分が楽しめることが一番であるし,自分が楽
しめたからといって他の人も同じように楽しめるとは限らないし,雑学として
他人に紹介してあげられる程度で充分であろうと思う。


(2001.9.4)

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