![]() ■著書名:【Y染色体からみた日本人】 ■ジャンル:生物学 ■著者名:中堀 豊 ■出版社:岩波書店 発行年:2005年 定価:1200円 ■ISBN4-00-007450-4 ■おすすめ度:★★★★★ ====================================================================== ヒトは通常,22対の常染色体と2本の性染色体の合わせて46本の染色体 をもっている。(我が家の三男は47本もっているが。。。)2本の性染色体 が「X・X」の場合が女性で「X・Y」の場合が男性である。対を形成している染 色体は精子を作る減数分裂の際に互いに交叉し,DNAの入れ替わりを生じる が,性染色体の「X・Y」対では交叉がその末端だけとなるので,DNAの入れ 替わりが殆ど生じず,父から息子へとそのまま伝わるという特徴をもつ。 したがってもし世代を経る間に何の変化も起こらないとすれば,Y染色体は 何万年経っても元のままのものが伝わることになる。これに対して常染色体は 減数分裂の際に必ず組換えを起こすので,元のものがそのまま伝わっていくこ とはない。 ところで世代の途中でY染色体にある変化が生じると(突然変異)それ以降 の男性はすべてその変化を受け継ぐことになるが,こうしたY染色体の少しず つの違いを基にタイプ別に分類して,Y染色体の系統図というものが作られて いる。 * Y染色体のタイプをもとに日本人を縄文系と弥生系に分けてみると,大体同 じくらいの比率に分けられるらしい。(縄文人は後から渡来した弥生人に駆逐 されて殆どいなくなってしまったものと思っていたのに,半分が縄文系という のは,私にはすごく意外に思われた) 縄文系のタイプは日本以外の東アジアでは殆ど見られず,また弥生系のうち の大部分のタイプは大陸には殆どいないという。つまり大陸では他のY染色体 との競争に勝てなかったものが,日本列島で生き残って栄えているのである。 なぜ大陸での競争に敗れたY染色体が日本で栄えているのか。縄文人が始め て日本列島に到着したときには先住者がいなかったとすると,周囲を海に囲ま れ温暖な列島内では,とくに大きな競争もなく増えていき,その後に弥生人が 入ってきても,比較的平和のうちに両者が混じりあったと,本書は説いている。 また本書では以下のようにも言っている。キリスト教の名の下に収奪を繰り 返しつつ現地に根付いていったアメリカ大陸における白人とは,だいぶ様子が 異なる。現在のアメリカインディアンが「アメリカ発見」の500年後におか れている状況と,縄文人が弥生人の来航2300年後におかれている状況を見 れば,移住に関する彼我の方法の違いは歴然たるものがある。 日本人とは,縄文人を主体とした山人と,弥生人と縄文人が混じった里人と いう状況の中で,互いに侵犯することなく,日本の自然の恵みの中で共生的に 平和に版図を広げてきた人たちなのである。自然を征服し,他の人たちを押し やり,富を独占し,強い者が勝つ「自由」を主張するということが,もとより できるような人たちではなかったのである。 * 最終章では面白いことに神武東征の話題まで出して,以下のように推論して いる。神武がなぜ大和を目指したか。それは先住者と競合しない土地で適当な 時期に籾を蒔いて秋には収穫を得られるという条件に合致するところが,淡水 泥湿地の奈良盆地であったからである。しかも水田稲作をしない先住の縄文人 にとっては,この盆地は必要な場所ではなく競合もしないという利点があった。 日本地図や衛星写真によると,西日本でこのような条件を満たす場所は,奈 良盆地,京都盆地,近江盆地,そして出雲平野くらいしかないが,日向にいた 神武の集団は前もってそのような候補地として大和と出雲を挙げて,もしかす ると2つのグループに分かれて大和と出雲を目指したのかもしれない。そして 最終的には大和のグループの方が成功したのではないかという。(う〜ん,な かなか面白い推論であると思う) * 以下は,本書を読んだ最終的な感想である。 現生人類は20万年前にアフリカで誕生して方々に散っていった。そのうち の東へ東へと進んで極東の島に到着して踏み止まったのが現在の日本人と考え られている。1万年以上前から到着していたのが縄文人で,二千数百年前から 渡来して定着したのが弥生人である。 大陸での競争に飽きた,闘争心の少ない人類が新天地である日本列島に辿り 着き,そこで広がり栄えていった。こうした人たちが現在の日本人だと理解す れば,昨今の東シナ海や竹島に対する対応の違いも何となく頷けるような気が する。街の周囲に城壁を張り巡らせることもなく,家々で鍵をかけることもな く,助け合って過ごしてきた我々である。そういう世の中をまた創っていきた いものだと思ってしまう。 (2006.5.15) |
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