魏志倭人伝を読む


■著書名:【魏志倭人伝を読む】
■ジャンル:歴史
■著者名:佐伯有清
■出版社:吉川弘文館
     発行年:2000年   定価:上下巻各1,700円
■ISBN4-642-05505-5
 ISBN4-642-05505-3
■おすすめ度:★★★

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 古代中国の歴史書の中でおそらく一番有名で一番読まれているのが魏志倭人
伝である。文庫で発行されている魏志倭人伝は2000年において70刷を数
えているという。そういえば私も文庫を持っていたのだが,ちょっと本棚を探
してみても見つからなかった。さて一体私の文庫は何刷だったのだろうか。

 多くの日本人が親しんでいるという魏志倭人伝だが,最近これが歴史資料に
価しないという学者が現れてきているらしく,いいや決してそんなことはなく
しっかりした歴史書であると反論するためにこの書が著わされたという。どん
な学者が言っているのか知らないが,素人の私には決してそんなことはないん
じゃないかと思われるが,さてどうだろうか。

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 本書には副題として,上巻が「邪馬台国への道」,下巻が「卑弥呼と倭国内
乱」という題名が掲げられている。邪馬台国とか卑弥呼とか書かれていれば人
が手に取りやすいからであろうか。かくいう私もこの副題があったからこそ手
に取ったのであるが,確かに『魏志倭人伝を読む』という本題だけを見れば,
倭人伝の本文と口語訳と説明があるだけの学術書(或いは素人向けの解説書)
かなと思ってしまったろう。こんなところに副題の重要性もあるのかと思う。

 ところで,邪馬台国という言葉に惹かれて本書を手に取ったのだが,いやい
や決してそんなに安易な本ではなかった。実際読むのが大変だったのである。

 倭人伝の一文章ごとに,この言葉の使い方は他の歴史書(三国志より前の時
代のものも後の時代のものも含めて)ではこういうふうに使ってあるからこの
読み方(解釈)で正しいとか,この使い方は滅多にないけれども,こっちの本
には似たような使い方がしてあって,こういう解釈がいいんだとか,ほんとに
一文章ごとに詳しく他の例を引いてきては説明している。

 確かに,本書の目的が「魏志倭人伝は正しく歴史を伝えたものである」とい
うのを明確にすることであるのだから,膨大な参考資料を基に裏付けを取るの
が当然の道筋なのだろうが,いやはや素人にはちょっと難しい。

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 本題のとおりに『魏志倭人伝を読む』というのが,実際に本書の内容をその
ままに表している。素人の古代好きというか邪馬台国好きの人間にはちょっと
難しすぎるし,ここまで一生懸命に倭人伝の正しさというか,その読み方を解
説してくれなくてもいいやと思ってしまう。

 素人には口語訳とちょっとした解説があれば充分だろう。しかし魏志倭人伝
だけでなく,他のいろんな歴史書にも古代日本のことが書いてあるのだなとい
うのが判ったのは嬉しいことである。

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 本書は上下の2巻あるので全部を読むのには大変疲れてしまった。それにや
はり難しいせいか,読んだ後で一体どれだけ覚えているのだろうかかというと
多分ほとんど覚えていない。

 これは一度読んだ後に辞書替わりに本棚に置いておいておき,何かその当時
の書物(邪馬台国でも何でもよいが)を読むときに,辞書(事典)の役目を果
たしてくれそうな本だと思う。ということで図書館で借りて読むだけでなく,
二冊揃えるとちょっと高いが,自前で買って本棚に置いておきたいなと思って
いる。

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 魏志倭人伝は俗称で正式には『三国志・魏書・烏丸鮮卑東夷伝・倭人の条』
といい,陳寿(蜀に生まれ,それが滅びた後に西晋で登用される)が撰したも
のである。


(2002.10.28)

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