![]() ■著書名 :ターミナル・エクスペリメント ■ジャンル:SF ■著者名 :ロバート・J・ソウヤー ■出版社 :早川書房(早川文庫SF SF1192) (発行年:1997年 定価:800円) ■ISBN4-15-011192-8 ■おすすめ度:★★★★ ====================================================================== 自分が存在しているということを如何にして証明するか。我々は時として こんな思考にはまり込むことがある。デカルト的に言うならば「コギト・エ ルゴ・スム ; 我思う 故に我あり」。こう思ってしまえばそれはそれですん でしまう。プラトンはイデアというものを案出し,アリストテレスは実体の 上に思考というものがあるという。このへんを考えれば,思考・意識という ものが我々を存在ならしめているものだということになる。 ところでこの本は,別にそんな小難しいことを語っているわけではない。 もっとシンプルな,それでいて人間の生(存在)というものに取り組んでい る。 * この本はなかなかに面白く,また読みやすいこともあって一気に読むこと のできるSFである。(難解な単語が少ないところも嬉しい) そして過去 からの哲学的な問いに対する一つの解を与えている,といっては言い過ぎか もしれないが,一つのアプローチであることは確かである。 古代ギリシア の時代から云われているような,「はかない肉体と永遠の魂」,このことを 物理的(SF的)に検証している。 主人公はあるカナダ人の医学博士。学生時代に臓器移植手術に立ち会った 際に脳死と判断されたある臓器提供者の身体が,臓器摘出手術の最中にピク ピクと動くのを目の当たりにしたことより,脳死が本当の死なのかどうかに 疑問を持ち始める。 やがて彼は,長い時を経た後に「スーパー脳波計」な るものを完成させた。 これを使えば脳が完全に活動を停止する瞬間を捉え ることができるという。 さてこの「スーパー脳波計」を用いた初実験の際に驚異的な発見がなされ る。脳がその活動を完全停止した後,一つの電気フィールドが頭蓋を抜け出 していくというのである。 主人公はこの電気フィールドを「魂波」と名付 けた。 いわゆる魂といえるものを捉えた限り,それを探求しようとするのは自然 の流れである。このため主人公は「死後の生」と「永遠の生」そしてリファ レンスとなるべき「普通の生」の3種類のシミュレーションをコンピュータ 内部に創り出し,「生」の探求を始める。 一方,このような状況と平行して妻の不倫が設定されており,彼は悶々と その現実に苛まれる。そうこうしているうちに,妻の不倫相手と,さらに妻 の父親が殺害されてしまう。その犯人はどうもコンピュータ・シミュレーシ ョンに関係があるらしい。 * 「スーパー脳波計」を使って実験を行なっていくあたりはSF。殺人事件 が起こって,その犯人を突き止めていくためにシミュレーションと試行錯誤 の格闘を進めていくあたりはミステリー。謎解きものが含まれるSFは結構 多いが,そんなに頭を悩ませなくても読み進んでいくことができる。 さて主人公の見つけた「魂波」,人の死んだ後に最後には一体何処へ行く のであろうか。エピローグは,やはり皆さんで読んで確かめていただくのが 一番である。(ちょっと安易なエピローグという気もするが・・・) ところで,この作者は主人公の妻に不倫をさせるのが好きなようである。 前作でも妻の不倫と主人公の精神的葛藤が強く語られている。まあ,そのよ うな設定が物語を進めていく上での必要条件にもなっているのだろうが,い つもいつも妻の不倫でなくても物語は進められると思ってしまう。さて,ど んなものだろうか? まあとにかくアイデアも面白いし,魂というものに正面から取り組んでい るし(?),難解なところもないので読みやすいし興味深い一品である。 (2000.1.25) |
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